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日記

akiraaniの日記: GoogleBooks訴訟総括

日記 by akiraani

GoogleBooksのフェアユース認定が確定した件、記事にもコメントしたけど、出版社にとって最悪の結果となってしまいました。
まあ、ある程度予測された事態ではあったんですけどね。

Google Book Search(Google books)がいかなるものであったかというと、まあ詳細はWikipediaあたりを見てもらうとして、英米の図書館の蔵書をデジタルスキャンして検索できるようにした、というサービスです。
Googleはこの事業をフェアユースの一環として進めていて、電子化にあたって著作権利者への連絡は一切行っていなかったため、米国の作家および出版社から訴えられることになりました。
訴訟の結果、2008年にいったん和解が成立し、スキャンしたデータの販売や広告収入を著作権利者に分配する独立組織「版権レジストリ」をGoogleが出資して設立し、これまで類を見ない破格の好条件で権利者への支払いが行われれることに。

ここで問題をややこしくしたのが、米国の作家および出版社がクラスアクションを使って訴訟を行っていたこと。クラスアクションという制度は集団訴訟をやりやすくするための制度で、詳細は例によってWikipediaをどうぞ。
要約すると「Google booksでスキャンされた書籍の著作権利者」を代表して訴訟が行われたため、ベルヌ条約に参加する国の著作権利者すべてが和解の対象にされてしまった、というわけです。
一度認定されたクラスアクションの対象から外れるためには、明示的にその意思を表明する、つまりオプトアウトが必要です。
そこで、Googleは米国規定に従い各国で和解から離脱するか和解に参加して版権レジストリに登録するかを選択するように対象各国で告知を行い、知らない間に巻き込まれていた世界中の権利者がびっくり仰天することになったわけです。

余談ですが、オプトアウトなんて論外、Google許すまじみたいな論調が当時散見されましたが、和解からの離脱がオプトアウトなのはGoogleのせいではなくクラスアクションがそういう制度だからです。訴訟がクラスアクションで行われたのは米著作権利者団体がそう指定したからで、ベルヌ条約に従って世界中の著作権利者が対象となると判断したのは米国裁判所です。和解のオプトアウトに関してGoogleに文句をつけるのはお門違いだったりします。

閑話休題。2008年の和解の時点で、日本の出版関係者がとれた選択肢は4つありました。
選択肢1:和解に参加して版権レジストリから報酬を受け取る契約を結ぶ
選択肢2:和解に参加して公開を拒否する
選択肢3:和解を拒否して米国でGoogleを訴える
選択肢4:和解を拒否してなにもしない

日本をはじめとする世界のほとんどの国は4の選択肢を選びました。
一応非難声明的なものはいろんな団体が出してましたが、Googleに対して米国で訴訟を起こしたりはしてません。
ただ、抗議の成果か和解自体の修正案が出されることになり、日本および日本と同様のスタンスだったEU諸国は和解から除外されます。(Googleブック検索和解修正案提出、日本やEUは実質的に除外)

ただ、これGoogleBooksの対象から除外されたわけではないので、公開を止めたければGoogleに対して米国で訴訟して勝つ必要ができたわけですが。
仮に、この修正和解案が成立していたらどうなっていたかというと、Googleに黙って使われて終わりですね。言語の壁があるので日本の書籍が早々問題になることはなかったでしょうが、もし問題になったら勝ち目のない裁判を起こしたあげく負けて骨折り損のくたびれもうけという結末が待っていたと思われます。

結局、自体はそこからさらに激変し、改めてフェアユースかどうかを争うことになるという超展開を経て、晴れてフェアユース認定されてしまったわけです。
フェアユースで確定してしまった以上、国外の権利者が同じ訴訟を行っても門前払いです。つまり、裁判のやり直しすらできなくなってしまったということですね。合法的にGoogle止める方法は事実上なくなりました。

日本の著作権利者にとって完全勝利と言えるのは選択肢3を選んだ上で訴訟に勝ってGoogleをねじ伏せることだったわけですが、米国権利者相手ですらGoogleが勝利してしまった以上、国外からの訴訟なんぞ無理ゲーも良いところ、選んだら駄目な選択肢でした。
今になって思えば、最初の和解に文句言わずに乗っかって選択肢2を貫くのがGoogleに支配されないという意味で一番ましでしたな。個人的にはそれみろ言わんこっちゃないって感じですが。

さて、Google Books訴訟はこれで完全決着したわけですが、知財をめぐる争いはこれで終わったわけではありません。
Googleはこれでますますデジタルアーカイブの構築に力を注ぐわけで、各国はこれに対抗するアーカイブプロジェクトを推進する必要が出てきます。でないと、アーカイブの生殺与奪の権利をGoogleに奪われてしまいます。
Googleが作るアーカイブに世界が依存してしまえば、Googleの思惑一つで過去に合った事件を隠ぺいすることができるようになります。いわゆるGoogle八分問題が書籍の世界でも生まれてしまう、そんな状況にしないためにも、各国は独自にアーカイブプロジェクトを進める必要が出てくるわけです。
もしTPPが成立すると著作権の保護期間が50年から70年に延長され、青空文庫プロジェクトは20年間停滞を余儀なくされ、他のアーカイブプロジェクトにも悪影響が考えられます。この事件をきっかけに、仮想敵Googleに対抗できるプロジェクトを推進する方向に世論が進めばいいんですけどね……。

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