わたしは別に音楽にうるさいほうではないが、ショップで500円の安スピーカーの音に我慢できるほどがさつでもない。今のわたしのメインのリスニング環境は、Onkyo INTEC205から発展した、Yamaha DSP AX-10をAVセンターにしたOnkyoの5.1ch スピーカ群である。
少し前に、ベットサイドでもまともなステレオの音響で音を聞きたいと思ったことから、SONY SRS-D313を買った。2.1chの小型スピーカーシステムである。これは主に場所をとらないということが主眼の選択だった。アナログ2系統の入力、簡易のミキシングなど機能面では申し分ない。
ただ、肝心の音についていえば、まあ、こんなもんかな、といった具合であった。ステレオの定位ははっきりしているものの、高音がしゃりしゃりして中音域が薄い感じがする。ウーハーの出力をあげてやれば、低温域の物足りなさは多少改善されるが、中音域が細いのは隠しようがない。ユニットが小さくバスレフなども用意されていない小型のシステムでは仕方のないことなのかもしれない。
小型の安価なスピーカーシステムならこんなものか、と少しあきらめたところがあった。
最近、FinalFantasyXIにはまってかなりの時間をそれに費やすようになったのだが、ひとつ、困ったことがあった。それは、FinalFantasiXIのBGMがわたしの趣味に合わないのだ。わたし自身はどちらかというと、アコースティックな音の作りが好きで、電子音がピコピコいうよりはオーケストレーションやピアノなどで構成されたBGMを好む傾向にある。ところが、FinalFantasyXIのBGMは、どうにもこうにも電子音で、特に飛空挺のシーンなどでは絶望的にピコピコなのである。
確かに、昔のゲーム音楽を取り巻く環境が厳しかった頃は、あれはあれで画面ともよくマッチしていたとは思うが、この時代にこれはどうかと思う。必然的に、わたしはBGMを切ってSEのみでゲームをプレイする、というスタイルに落ち着いた。
とはいうものの、わたしは根っこは音楽好きであるためBGMが何もないのは寂しい。しかし、メインのスピーカー群はFinalFantasyXIのために占有されてしまっている。隣の部屋の目覚まし付きラジオをつけっぱなしにしてみたりもしたが、やはり、モノラルスピーカーから流れる音楽は少し悲しいものがあった。おもちゃ箱に放り込んであった500円の安スピーカーを引っ張り出してつないではみたものの、この寂しい音はいかんともしがたい。わたしはふたたびアンプ付きスピーカーを物色することになったのだ。
そして、購入したのが、Edifier R1000TCである。DOS/Vパラダイス東名川崎店で\4,980.-(税抜き)であった。どうせ買うなら高めのR1900TII \7,980.-(同)を、と思ったが、高いやつは大きいしそれに値段もOnkyoからでているPC用スピーカーGX-70A \10,800.-(同)とあまり変わらなくなってしまう。それでは、と逆に店頭にある一番安いやつを選択することにしたのだ。
EdifierというブランドはPCショップの店頭でしか見かけず、正直、あまり期待はしていなかった。ただ、購入に先立ってDOS/Vパラダイス川崎店の店頭で聞き比べたときに、「おや?」と思った。店頭ではR1000TCに加えR1800ATといくつかのPCスピーカーシステムも併せて展示してあった。聞き比べてみると、明らかにこの木製キャビネットの2製品は、ほかのPCスピーカーとは異質な音作りをしていたのだ。ほかのPCスピーカーは当のEdifierの5.1chの製品も含め、とてもよい音とは言い難い、小型スピーカー特有の音であった。
それに対して、このEdifierの木製キャビネットの2製品は中音域の音の広がりが非常に豊かなのである(←比較対象が悪すぎるという話もあるが)。R1800ATの方が低音が力強く、R1000TCは少し物足りないような気もした。だが、よくよく聞き比べると、R1800ATの方の音作りは低音域が不自然に強調された感もあった。後々までこのことは疑問に思っていたのだが、購入前に運良くその疑問を解決することができた。
DOS/Vパラダイス東名川崎店の音の環境は最低である。ある時訪ねていったら、店員と話をするのが難しいような音量でBGMがかかっていたこともある。あまりのことに買うものも買わずに帰ってしまったくらいだった。
当然、今回いったときも、スピーカーの試聴コーナーのスピーカーの音量はてんでバラバラだった。あるスピーカーは大きすぎ、あるスピーカーでは小さすぎ、とてもじゃないがまともに聞けたものではなかった。その点、川崎店はよく調整されていたと思う。
ただ、その結果、わたしはスピーカーのアンプのボリュームつまみを探す必要に迫られ、背面にあったそれを調整する過程で低音域をブーストする調整つまみも一緒に発見することができたのである。あろうことか、そのつまみは最大にセットされていた。これを適切な位置に戻してやることで、ブーミーな印象はかなり薄れることがわかったのだった。
R1000TCの内容物はきわめてシンプルである。説明書の紙ぺらとスピーカー本体が2個、その他の付属品はRスピーカー接続用のスピーカーケーブルとピンプラグをミニプラグに変換するケーブルが付属する。電源ケーブルはLスピーカーに直づけだ。
Lスピーカーにアンプが内蔵されており、右スピーカーは左スピーカーからのびるケーブルで音を出力する。スピーカ背面のアンプには電源のシーソースイッチとボリュームとバスブーストの2つの調整つまみ、RCAプラグによる入力が二系統ある。二系統の入力のバランスを調整するような機能はない。
LスピーカーとRスピーカーの接続用のケーブルは、よくある50円/mくらいの赤と黒のスピーカーケーブルだった。店頭展示品はこんな貧相なケーブルではなかったため、少しだまされた気分になった。気分が悪かったので、家に転がっていた別のケーブルを使用することにした。接続端子は、昔からスピーカー端子によくあるタイプのやつで、つまみを下げて線を穴にとおし押さえ込むようにする、あれだった。
接続した後、LibrettoでMP3を再生してみたが、予想をかなりよい方向に裏切ってくれた。SRS-D313やPCスピーカーの類との比較はいうにおよばず、いつもリスニングしている環境と比較しても遜色はない。質感もEdifierのネームプレートが少し安っぽい感じがすることをのぞけば、概ね満足のいく仕上がりである。こうして、わたしはFinalFantasyXIをしながら好きなCDを聞ける環境を手に入れることができたのである。実に快適である。
問題点は強いてあげれば、電源を入れたり切ったりするとそのノイズがもろにスピーカーにでる点くらいである。これは是非改善してもらいたい点だ。あとは、アンプの経年劣化などがどれくらいであらわれるのか、という点が少し心配だが、こればっかりは使い込んでみないとわからない。値段からすれば1年使えば十分元が取れるであろう。
スピーカーといった類のデバイスは、聞く人の趣味嗜好がでやすいものであると思う。ただ、聞こえればよいという人から、とにかくHiFiという人まで。2本のスピーカーは、下が数百円で、上が数百万という恐ろしい具合に幅のあるデバイスである。ただ、よい音というのは中毒性があって、いったんよい音になれてしまうとなかなか「とにかく聞こえれば」というスタンスに戻れないのも事実である。その最初の第一歩としてのEdifier R1000TCはよい選択であるように思う。