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208144 journal

phasonの日記: 単層-数層の薄膜における摩擦

日記 by phason

"Frictional Characteristics of Atomically Thin Sheets"
C. Lee et al., Science, 328, 76-80

摩擦という現象は非常に古くから研究の対象となっており,巨視的摩擦の現象論はかなり昔にほぼ完成したと言って良い.しかしながら,そもそも摩擦が何故生じるのか,といった微視的機構は未だに未解明(説はあるものの,定量性などに難がある)であるし,それどころか何故静止摩擦係数は動摩擦係数より小さいのか,といった基本的な理由すら完全な解明はなされていない.
こういった摩擦の微視的機構を調べるため,そして最近のナノ加工技術/ナノ構造体の利用の進歩に伴う必要性に迫られ,ナノサイズの領域における摩擦の研究(ナノトライボロジー)といったものが精力的に行われている.

今回のこの報告は,きれいな層状物質であり劈開により単層の薄膜が得られるグラフェン(単層ならゼロギャップ半導体,層が増えると半金属),MoS2(半導体),NbSe2(金属),六方晶BN(絶縁体)の1から数層の薄膜に対し,摩擦力顕微鏡(FFM)によるナノレベルでの摩擦の評価を行ったものとなる.なお,FFMはAFMと似たようなものであり,ある力で針をサンプルに押しつけ,そのまま針を横にスライドさせた際の針のねじれ量から摩擦を測定する.

その結果,物質の種類を問わず層数が減るほど摩擦は増加し,単層の時に最も大きくなることが判明した.また,摩擦測定時の針の移動距離を変化させると,層が少ない場合においては針の移動距離が大きくなるほど徐々に摩擦が増加し,ある程度の距離移動するとそれ以降頭打ちになる傾向が観察された.この効果は層数が増えるほど小さくなり,バルクでは観察されていない.
また,穴の開いた基板上に担持した薄膜と,通常の基板上に担持した場合に出来た気泡(貼り付ける際に周囲の気体がそのまま閉じ込められたもの)上での測定を比較すると,後者の方が顕著に大きな摩擦を示していた.

このことから筆者らは,ナノシートの摩擦においては,針に局所的に引きずられる形でシートの部分的なひずみ(四方を固定したゴムシートの真ん中あたりを引きずると,伸び縮みを起こして局所的にゆがむようなもの)が発生し,これが薄膜における摩擦の大きな理由になっているのではないか,と推測している.
針とサンプルとの接触箇所は非常に小さいため,薄膜と基板の引力に比べると摩擦の大きさは非常に小さく,薄膜全体を動かすような力は加わらない.一方,極微視的に見れば,薄膜のその場所の部分のみを基板からずらす程度の力は摩擦により加えることが出来るため,局所的にゆがんでずれる(ただし針が移動すると,その部分は元に戻る)のである.この場合,ある程度のところまでは針の移動距離が増えるほどゆがみが大きくなり摩擦も増えるが,それ以降は摩擦力と復元力が釣り合ったところで,針の移動先側にゆがみを作りながら,反対側でゆがみが解消されていくため摩擦力は頭打ちとなる(論文中のFig.4の状態).
また,膜厚が増えると,このようなゆがみは当然起こりにくくなる(厚ければ変形しにくい)ため摩擦は小さくなるし,気泡の上の部分のようなたるんでいるところの摩擦は大きくなる,というように実験事実が説明される.

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犯人はmoriwaka -- Anonymous Coward

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