パスワードを忘れた? アカウント作成
10558201 journal
日記

uruyaの日記: 孤高の人(上)(下) / 新田次郎 2

日記 by uruya

孤高の人(上)(下) / 新田次郎

登山という行為がまだ富裕層のものだと思われていたころ。冬山に入るには案内人を雇い、高価な装備を揃えるのが常識であった。それを打ち破ったのが加藤文太郎という男である。
独自に工夫した装備や食料を駆使し、単独夏山登山で名を上げた彼は「地下足袋の加藤」「単独行の加藤」と称されるようになる。やがて冬山の魅力に取り憑かれた加藤は、やはり単独で、厳冬期の冬山を次々と制していった。だが、その加糖は、生涯ただ1度パーティを組んだ冬の北鎌尾根で命を断つことになる。

─────

実在の登山家、加藤文太郎を扱った作品。
故郷の浜坂を出て神港造船所の研修生となり、紆余曲折ありながらも優秀な成績を上げて技師に抜擢されていく社会人の顔。六甲完全縦走など夏山からはじめ、やがて冬山登山に進んで不死身の異名を取るようになる登山家の顔。「一介の技術者」が、対人関係に悩みながらも「貴族のスポーツ」であった登山界に影響を及ぼしていく姿を描いている。

加藤文太郎の造形は、ひと言でいえばコミュ障ですな笑 人付き合いができなくて、山にいるときだけ自分を取り戻せるような男。だが孤独を愛しつつ、その反面で人との関わりを渇望している。加藤の中にあるこのジレンマが、もうひとつの軸だ。社会人としても登山家としても、なかなか他人と打ち解けられずに、だが多大な実績を次々と打ち立てていく、まさに孤高の人。
そんな加藤が、結婚して娘が生まれたころから人が変わったように明るくなる。そして、それまで単独行しかしていなかった男が、生涯ただ一度パーティを組み、遭難死することになる。
単独行をつらぬき通し必ず生還した加藤と、家庭を持って他人との関係性構築を知り、そのために死んだ加藤。非常におもしろい対比だ。

だがこの人物造形はおそらくかなりの部分、作られたもの。パーティを組んだことがないこと自体、大嘘だ。その他にもかなりの脚色が行われており、基本的には実在の人物をモデルにした完全なフィクションであると考えた方がいい。

ただし加藤が遺した事業は、ほぼそっくり同じ。まさしく超人的な行跡で、すげえなあ、という言葉しか出てこなかった。小並感。

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • by bills (37914) on 2014年01月28日 13時05分 (#2534857) 日記

    谷甲州による加藤文太郎を扱った「単独行者 [wikipedia.org]」を興味深く読んだのですが、「孤高の人」と加藤の描き方を読み比べてみたいと思っています。
    本人の「単独行」は青空文庫で読んだのですが、谷甲州が描く加藤とイメージが違ってて、その違いが面白かったです。

    • by uruya (22272) on 2014年01月28日 22時23分 (#2535243) 日記

      谷甲州!なつかしい名前!SF作品を読んだことは…あったかなあ?ちょっと覚えてないです。
      「孤高の人」はフィクションにかなり重きを置いてます。半分は三菱神戸造船所の話で、加藤の人間性を描いてドラマを盛り上げることに注力してます。SF者かつ登山家である谷甲州作品との対比はおもしろそうですねえ。
      というか「単独行」青空文庫にあるんですか!これは知らなかった…読みます!

      親コメント
typodupeerror

アレゲはアレゲを呼ぶ -- ある傍観者

読み込み中...