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yasuokaの日記: 惠子ちゃん改名事件

日記 by yasuoka

人名用漢字の新字旧字「恵」と「惠」が今日付けで三省堂ワードワイズ・ウェブに載ったのだが、実は今回の原稿は難産で、書くのにかなり時間がかかってしまった。というのも、今回参照した事件(仙台高等裁判所、昭和46年(ラ)第3号、1971年3月4日決定)には微妙にヤヤコシイ問題があったからだ。

『判例時報』No.633 (1971年7月21日号)のpp.76-77によれば、この事件の抗告人は「福地洋子」、法定代理人親権者は「福地一恵」と「福地定子」、代理人弁護士は「今井吉之」となっており、決定理由は以下の通り。

なお、抗告人は原審に対し、「惠子」と変更することを求めたが、これを当用漢字による「恵子」と訂正して変更を求めるものである。
(中略)
抗告人の改名を求める動機は、養親が抗告人との養子縁組後、抗告人を養父「一恵」の一字をとって「恵子」と呼ぶようになったことによるところ、それは、たとえ養親の抗告人に対する愛情の発露にもとづくものとしても、所詮は養親が、実父芳賀勇届出にかかる抗告人の「洋子」の名が気に入らないことに帰着し、要するに名として甲乙評価し難い「洋子」と「恵子」との呼称に対する養親の感情ないし好みの問題にすぎないというべきである。

ところが『判例タイムズ』No.276 (1972年7月号)のpp.385-386によれば、この事件の決定理由は、以下のようになっている。

なお、抗告人は原審に対し、「壽子」と変更することを求めたが、これを当用漢字による「寿子」と訂正して変更を求めるものである。
(中略)
抗告人の改名を求める動機は、養親が抗告人との養子縁組後、抗告人を養父「寿一」の一字をとって「壽子」と呼ぶようになったことによるところ、それは、たとえ養親の抗告人に対する愛情の発露にもとずくものとしても、所詮は養親が、実父の届出にかかる抗告人の「幸子」の名が気に入らないことに帰着し、要するに名として甲乙評価し難い「幸子」と「寿子」との呼称に対する養親の感情ないし好みの問題にすぎないというべきである。

つまり、同じ事件について引用しているにもかかわらず、抗告人の名も養父の名も、『判例時報』と『判例タイムズ』とで全く異なっている。どうしたものかと考えあぐねていたところ、『家庭裁判月報』の第23巻第11・12号(1971年11・12月号)のpp.67-69にも同じ事件が掲載されていて、そこでは、抗告人は「相川幸子(仮名)」、法定代理人親権者は「相川壽一(仮名)外一名」となっていた。つまり、少なくとも「幸子」と「壽一」は仮名だ。また、私(安岡孝一)がおこなった非公式な調査で、この決定には少なくとも「惠」に関する部分があることがわかったので、本日、「恵」と「惠」の形で発表したわけである。

家事審判の判例紹介ではプライバシーに配慮する立場から、仮名処理がおこなわれることがしばしばだ。しかし、人名用漢字に関わる審判の紹介で、その漢字まで仮名にしてしまうというのは、正直なところ困ってしまう。今回のように、複数の法学雑誌の間で矛盾があれば、まだ気づく可能性もあるが、そうでない例もあるのかもしれない。さて、こういう場合、どうしたらいいんだろ。

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