パスワードを忘れた? アカウント作成
12777751 journal
教育

yasuokaの日記: 経営情報学者の考えるQWERTY配列の歴史

日記 by yasuoka

ネットサーフィンしていたところ、諏訪東京理科大学経営情報学部のページで、五味嗣夫の「QWERTYキーボード配列の不思議」(経営情報のいま、2016年5月9日)という記事に行き当たった。

実は、その昔1873年に機械式タイプライターが作られたときに採用された配列が元になっています。その理由についてよく耳にするのは次の二つの説。一つ目は、「タイプバー(印字棒)がジャムる(絡まる)のを防ぐためにわざと打ちにくい配列にした」という説です。機械式タイプライターの構造を打鍵式のピアノと同じようなものだと考えるとわかりやすいと思います。

ちょっと待て。打鍵式ピアノのハンマーは、それぞれに別の弦を叩くので、絶対にジャムったりしない。アップストライク式タイプライターの印字構造は、打鍵式ピアノとは全く異なっているので、それを「同じようなものだと考えるとわかりやすい」と言われても困惑せざるを得ない。しかも「わざと打ちにくい配列にした」というのは、私(安岡孝一)の2016年4月2日の日記でも指摘したとおり、全くのガセネタだ。

もう一つは、「セールスマンが営業活動時にTYPE WRITERと打ちやすくするためにそれらを含む10文字を配列した」という説です。

『On the Prehistory of QWERTY』(ZINBUN, No.42 (2011年3月), pp.161-174)でも指摘したとおり、当時の商標は「Sholes & Glidden Type-Writer」で「Type」と「Writer」の間にハイフンが入るのだけど、じゃあハイフンはどこにあるのかしら? また、当時のタイプライターのセールスマンについては、私の2009年9月18日の日記でも指摘したとおり、どうひいき目に見ても「TYPE WRITER」と打ってみせればすむようなものではない。

いずれにしてもQWERTY配列が合理的だと考える人は少なかったのですが、1890年代に入るとこの配列がデファクトスタンダード(業界標準)としての地位を確立しました。それはタイピスト養成学校でQWERTY配列のタイプライターが使われ、タイピストがこの配列を習得したためでした。

『キーボード配列 QWERTYの謎』(NTT出版、2008年3月)の第4章でも示したが、当時のタイピスト養成学校は、「Caligraph No.2」配列のタイピストも養成している。QWERTY配列だけに限定していたわけではない。そもそも、QWERTY配列が他のキー配列を蹴散らして普及したのは、1893年3月のTypewriter Trust成立に負うところが大きい。

その後1936年に、この不合理なQWERTY配列に対抗し、はるかに優れた配列だとされたDvorak(ドボラック)配列が開発されたのですが、すでに業界標準となって市場を席巻していたQWERTY配列の市場を覆すことはできませんでした。

『タイプライターに魅せられた男たち』にも書いたが、August DvorakがDvorak配列を発表したのは、1932年9月24日のAP電が最初だと思われる。特許出願が1932年5月21日なので、いくらなんでも1936年では遅すぎるのだが、この点、五味嗣夫は何を根拠にしているのだろう?

ただ、正直なところ、諏訪東京理科大学経営情報学部のサイトに「経営情報のいま」と題して、こういうガセネタが堂々と掲載される、ということは、諏訪東京理科大学経営情報学部の講義では、このガセネタが堂々と使われているということなのだろう。私個人としては、諏訪東京理科大学経営情報学部の学生さんたちが可哀想でならない。

この議論は、yasuoka (21275)によって ログインユーザだけとして作成されたが、今となっては 新たにコメントを付けることはできません。
typodupeerror

一つのことを行い、またそれをうまくやるプログラムを書け -- Malcolm Douglas McIlroy

読み込み中...