phasonのコメント: 概要 (スコア 5, 参考になる) 68
論文はまず,よく知られたロータス効果(表面に微細な突起を多数作り空気を抱え込むことで,液体をはじく)による表面加工にはいくつか弱点がある,という指摘から始まります.
挙げられているのは例えば
- 構造の構築に比較的コストがかかる.特に以下に示す弱点を解決しようとすればするほど,化学的&物理的に複雑な形状になりコストが増大する
- 圧力に弱い.例えば高圧の流体を流すパイプ内にロータス効果を使った加工を施しても,高圧がかかった際に抱え込んでいる空気が圧縮され,ロータス効果が消失してしまう.
- 空気との間での表面張力の弱い親油性液体に対しては,そもそも効果が弱い.
- 表面に繊細な構造を作ることで発生している効果のため,傷が付きやすい上に,最近はやりの自己修復的な事もできない.
と言った点です.そしてこれらを解決する構造として提出しているのが今回の手法になります.
考え方はある意味非常に単純で,例えば油をはじきたいと考えたとき,水の上に1滴落とした油滴を考えると,こいつは水面の上をほとんど抵抗なくスルスルと移動できます.だからこれと同じ事を物体表面で行ってやればいい,と言うことになるわけです.
実際の構造としては,何でも良いから微細な孔のたくさんあるポーラスな構造を持ってきます.スポンジみたいなものでも良いですし,蜂の巣のように穴がいくつも空いた構造でもかまいません(ただし当たり前ですが,これらの穴のサイズは非常に小さい必要がある).
で,ここに,はじきたい液体と混ざらない溶液を染みこませておく,と.例えば油をはじくために,スポンジ状のコーティング剤に水を染みこませた状況を考えましょう.当然ながら,スポンジ状の物質の表面は,化学的に水と親和性の良い置換基で修飾しておく必要があります(そうしないと,穴の中に水が入らない).
この構造は,微視的に見れば,穴がいっぱい空いてぼこぼこした構造の上に,水の膜が厚く張った状態となります.そのため,下のスポンジ状の構造が多少でこぼこしてようがなんだろうが,表面には影響がありません.従って,コーティング剤部分の作り方は多少ラフでもかまわないわけです.
さて,このコーティング剤+水の上に,油滴を垂らします.微視的に見れば,水の膜の上に油がのっているわけですから,当然上の油ははじかれます.そのため油滴は物体の表面にくっつかず,流れ落ちることになります.
極端な言い方をすれば,「池の上から油を垂らしても,水槽の底には油がくっつかず,水面の上を漂って流れてくだけだよね」と言うようなものです.
水をはじきたければ,表面のスポンジ状の構造の最表面を親油性に加工して,そこに油を染みこませておけばいいわけです.水を垂らしても,油が間に入っているんで表面にはくっつかず,油膜の上を水が滑って転がっていく,と.
水も油もはじきたい場合は,論文で行われているように,水とも通常の炭化水素類とも混じらないフロリナートのような液体を用いればOK.
パイプラインの内張に使うのなら,輸送したい液体と混ざらないものを選ぶ必要があります.だからまあ同じ表面加工が全ての液体に対し使えるわけではありませんが,はじきたい対象さえ決まっていれば,それに応じた表面を作ることができるよ,と.
この手法の優れている点は,
- 表面構造は微細な穴さえあればよく,あまり細かい構造に依存しないので安く作れる.
- 圧力下でも問題ない.
- どんな液体に対しても,適切な表面修飾とそこに吸着させておく液体さえ選べば使用できる
- 少々傷が付いても,単に周辺から液体が流れてきてそれを埋めるだけなので問題ない.スポンジ状の構造体に,今はやりの自己修復性ポリマーのようなものを使えば自己修復性も持たせられる.
- スポンジ構造を作る素材とそこに染みこませる液体の屈折率を同じぐらいのものにしておけば,透明なコーティングができる(ロータス効果の場合,微細な構造&空気の界面が多数あるので,そこで散乱され白く濁る)
などです.
一番最後の,蟻とジャムがずり落ちてく実験って必要なのかなあ……
いや,面白いから良いんですけど.