phasonのコメント: Re:同じ方向に高速で引っ張られている (スコア 5, 興味深い) 21
ここの話はいろいろ面倒くさいのですが,以下のような流れを辿っています.
1. 宇宙マイクロ波背景放射(CMB)が観測される.これは宇宙の晴れ上がり時(*)に,熱かった周囲全部からまんべんなく放射された光が残ったものなので,その周辺全部から来るCMBを重ね合わせると,(局所的な)静止系のように扱える.
*宇宙の晴れ上がり:それまでエネルギーが高すぎてプラズマ化&光を強く吸収していたしていた物質が,冷えて中性原子へと結合,光が宇宙空間を素通りできるようになった.
2. SZ効果というものがある.これは銀河のようにエネルギーの高い遊離電子を持つ媒体中をCMBのマイクロ波が透過すると,電子と光子との相互作用(逆コンプトン散乱)によって光子のエネルギーが変化する現象.
熱的効果と運動的効果の二つがあり,後者はいわばドップラー効果と似たようなもので,CMBのスペクトルのピークを低波長側にずらしたり高波長側にずらしたりする.
CMB静止系に対しランダムに動いているなら,この運動的な効果はランダムに分布する.一方,CMB静止系に対し多数の銀河が同じ方向に動いているなら一軸性の歪みが出る.例えば今,銀河全てが「右」から「左」に動いているとしよう.我々に向かって右から飛んでくるCMB(のうち,銀河を通過してきた部分)はエネルギーをもらって波長が短くなり,左から来るCMB(の以下略)は逆に波長が長くなる.ここから,多くの銀河が(CMB静止系に対し)右から左へと動いていることが分かる(ただし,観測する我々から見た視線方向の運動しか分からない).
3. 元々の研究は,CMBに含まれるSZ効果の影響を抜き出すことで,ハッブル定数を(既存の方法とは少し違う方法で)決めてやろう,という研究だった.しかし彼らが調べたら,そもそも全体がCMBに対しある方向に動いている,と思える結果が得られた.
4. そこで彼らは「CMBの発生後に,(我々の観測可能な領域の)外側から別な何かによって銀河が引っ張られており,それがCMB静止系との速度差(流れ)として検出されているのではないか?」という仮説(ダークフロー)を提唱.
引っ張る「何か」の候補としては,
・宇宙の観測可能領域の外側に,謎の超重量級の集団がある(ただし,何で我々の周辺と違ってそんな巨大集団が出来るのか?という問題が生じる)
・ブレーン宇宙論で言うところの「お隣の宇宙」が重なっており(我々の宇宙を1枚の紙とすると,上に別な宇宙の紙が何枚も重なっている,という説がある),そっちに銀河の大集団か何かがいる(ただし,そもそも隣接宇宙自体が今のところ実験的事実のない仮想的存在)
などが考えられる,としている.
まあ要するに,
・CMB静止系という,「凄く昔の時点」での「ここら一帯の重心」のような座標系がある.
・外から力が加わらなければ,「ここら一帯の運動の平均値」は今でもその重心に対して静止しているはず.これは宇宙が(等方的に)膨張していても変わらない.
・それに対する銀河の速度を調べたら,なんか今の重心運動は,昔の重心と一致せず一方向に動いていた.
・何かに引っ張られているに違いない!(ダークフロー)
という仮説.
ただし,元々非常に微小で揺らぎも含むCMBから,さらに銀河を通ることで起こる微妙な変調成分を抜き出して議論しているので,統計的な取り扱いを含めダークフローには懐疑的な人も多い.
それに対し今回,Ia型超新星のデータで検証したら,そんな統一的な運動は無さそうだよ,と.