phasonのコメント: Re:雑記その1 (スコア 5, 参考になる) 23
注:統計・熱力は(道具として使うものの)あまり専門ではないので,以下,変なことを言っている可能性があります.そのまま信じないようお願いします.
>紛らわしいだけのように思えます。
一理あります.実際に,似たような理由で負温度という言葉を使わない方もいらっしゃいます.
ただ,
>エネルギー分布が変な形をとるときには、ふつう、温度は定義できません、と言います。
と言う点に関しては,(準)平衡状態にある負温度の系,と言うものが知られています.
代表例がスピン系です.スピン系は準位が離散的(1/2スピンだと2準位しかない)なうえ,スピン間での相互作用以外の相互作用が弱く(特に核スピン系),さらにスピンの反転は光学的には禁制なので光を放出しての緩和もできません(実際には微妙に禁制が解けるので,ゆっくりとは緩和できる).
磁場中にスピンを置くと熱平衡に達しますが,そこで磁場だけを反転させると分布が完全に反転した系が得られます.ところがスピン系は孤立性が高く外部にエネルギーを放出して低エネルギーに緩和するのに非常に時間がかかるため,短い時間スパンでは事実上負温度のまま平衡に達します(もちろん,超長時間放置すればゆっくりと外界とエネルギーのやりとりをして正の温度に戻る).
こういった系の統計力学というものがずいぶん昔(5-60年ぐらい前?)から理論・実験の両面でいろいろ研究されており,その結果こういった系でも熱力学の各種の法則は保たれていることなどが示されました.
ただし負の温度は到達不能点である+∞よりも大きいと考える必要があり,低い方向の極限である-0の絶対零度と,高い方の極限である+0の絶対零度はともに到達不能点である,という事になります.
と言うわけで流れとしては,
・通常の温度では実現できない変な(準)平衡系が存在する.
・既存の熱力学の枠組みをできるだけ維持したままそういう系を扱おうとすると,単純に温度を負に置くのが良い.
・+∞の向こうに-∞があるのは変だが,そこには目を瞑る.どうせ∞の点は到達できない特異点なのだから,そこでの接続は気にしない.
とかそんな感じでしょうか.
>たんなる反転分布で「負温度」と呼ぶのは、
>そのほかの(温度が定義できない)「自然な分布でない分布」がかわいそうです。
まあこれもまた一理あるのですが,準平衡である程度の時間安定して存在しているのなら,どんな分布であってもそこでの温度は定義できるはずです.∂S / ∂E = 1 / Tがありますので,こっちで出せるかと.
ですから言ってしまえば,他の「変な分布」であっても,それが(準)平衡状態で成立するのならば,そこでの温度として負温度を用いることには何の問題もないと思います.
>反転分布のことを「負温度」と呼ぶからには、なにかメリットがあるのでしょうか。
そういう変な分布も世の中に実在していて,そういう系も含めて一つの同じ「統計.熱力学」と言うもので扱おうと考えたときに収まりが良くなる,とかそういう感じなのでは.
確か理論の枠組みを変えずに,様々な統計的性質はそのまま扱えた……はず.
ただしいくつかの(旧統計力学における)理論的帰結は,前提としている仮定(要は正の温度で必ず実現している条件)があったりするので,そういうのに関しては成立しなくなりますが.
統計・熱力も扱う範囲を次第に拡張しながら来ており,負温度もそうですが,そもそも平衡状態でのみ定義されていた「温度」と言うものを非平衡定常系でも適用できるように拡張したり(まあ,我々の身の回りは全て非平衡状なので,昔の厳密な定義では宇宙のどこでも「温度」は定義できない,なんて困ったことになっちゃいますしね),将来的には完全に非平衡な系も扱おうとしていたりとしていますので,そういう拡張政策(より広い対象を,同じ原理で取り扱う)の一環と思っておけば良いんじゃないでしょうか.多分.