糸状のカーボンナノチューブ(CNT)を作ったのではなく,CNTを紡績して糸にしたものです.湿式紡績自体は既知のもので,おそらく今回は条件等を最適化して特性が優れたものを作ったあたりが注目点.
著者所属にライトパターソン空軍基地があったのがちょっと物珍しかったり.
ご存じの通り,CNT自体は長さが非常に限られており,そのままでは用途が限られます.そのためCNTを紡いで糸にして利用しよう,と言う研究が多数行われています.その場合よく利用されるのが
(a)長めのCNT(場合によってはミリメートル単位)を直接紡いで糸にする乾式法.特性に優れるが,多段階の面倒な手間がかかる.
(b)短いCNT(通常マイクロメートル以下程度)を溶液に分散し(長いと分散しないので短いものを使う),そこから通常の化学繊維の紡績と同じように紡いでいく湿式法.量産性に優れるが特性は劣る.
という2つです.今回用いられているのは後者の手法で,使用しているCNTも5 μm程度と短い(でもこれまでの湿式法よりは10倍程度長い)のですが,それでもちゃんと紡績すれば乾式法並みの結構良い特性が出たよ,と言うのが売り.
手法としては,CNTをクロロスルホン酸(硫酸のOH一つを塩素に置換したもの.CNTをよく分散できる)に数wt%程度の濃度で分散させ,100 μm程度の孔からアセトンや水といった溶媒中に射出.そうするとクロロスルホン酸が溶媒中に拡散して行ってしまうので,溶けきれなくなったCNTが析出して糸になる,という紡績法です(化学繊維とまあ同じようなもの).出来上がる糸を構成する繊維の太さは約9 μm,長さは20-30 mm程度.この中に多数のCNTが詰まっていて,さらにこの繊維を撚って長い糸となっています.
でもって得られた繊維の特性です.
重さで規格化した引っ張り強度では,既存の湿式法CNT紡績糸よりは強く,乾式法CNT紡績糸に並ぶレベル.市販の炭素繊維(グラファイト系繊維)に比べると半分程度?とやや落ちるが,まあ合格点.重量あたりの熱伝導度も非常に高く,炭素繊維とほぼ同程度.銅やアルミなどに比べると数倍程度優れる(ただし重量で規格化してある点に注意).同時に電気伝導性にも優れ,重量あたりで見ると鉄や金を超え,銅に近い値を実現.アルミには負ける.強度や熱伝導性ではカーボンファイバーにやや劣っていたものの,この導電性ではカーボンファイバーの数倍と,今回のCNT紡績糸の方が上となります.
CNT紡績糸の範囲だけで既知の各種最高値と比較すると,引っ張り強度では7割程度,弾性率では1.5倍,導電性では5倍,熱伝導性では10倍と,CNT紡績糸の中ではほぼ全ての特性がトップクラスとなっています.既存の0.5 μmという短いCNTを使った湿式法と比較するとさらに差は広がり,引っ張り強度で20-30倍,弾性率で1.5倍,導電性で10倍以上,熱伝導性で30倍近くです.
また,射出時の孔のサイズを変えることで,全体的な特性はほぼ変わらないまま繊維の太さだけを増減させることも可能.
ラフに言ってしまえば,強度と熱伝導性が既存の炭素繊維にほぼ匹敵し,導電性で大きく上回る素材の開発,といった感じでしょうか.著者らの簡単な分析によれば,この優れた特性はこれまでの湿式法よりも10倍近く長いCNTを原料に使えるようになったことで整列性が良くなり,繊維長軸方向への導電性・熱伝導性・強度が向上したのだろう,とのこと.もっと長い,例えば50 μmぐらいの,欠陥の少ない単層&金属性CNTを原料にできれば多分全特性がもっと向上するだろう,とは書いてありますが,まあ,そういった原料の量産性とか,その場合でも同じ条件でいけるのか?とかの検討は必要になります.