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実はこれ、「カフェイン摂取した後に動き回ったら餌が減らされる」というのをマウスが学習したために、「わざと動き回らなくなった」現象です。その証拠としてこういう、行動の結果がデメリットにつながるような実験系(2での設定の仕方)だけで見られます。こういうのを「行動耐性」と呼びます。「耐性」という名前から紛らわしいのですが、薬の効き目自体が変わったことによるわけではないので、薬理学的メカニズムを伴った「耐性」ではありません。 つまり、A1受容体などについての知見が出てくる前の(薬理学の教科書なんかで採用されてきた)考え方だと、「カフェインの中枢作用には代謝耐性も組織耐性も生じない=耐性を生じない(行動耐性は出るケースがあるけど、それは耐性とは呼べないしね)」という扱いでした。それが現在は「いくつかの経路では組織耐性も出るけど、主要な経路の一つは耐性を生じないので、全体としては耐性にならずに効き続ける(せいぜい、部分的な耐性に留まる)」ということになってきてます。
その一方、同じ頭脳労働でも、例えば新しいアイデアを出したりするようなケースには、カフェインによる恩恵はほとんど期待できないと言われてます。それどころか、カフェインを摂取することで神経が昂ったり、落ち着きがなくなったりすることで、考えがまとまらず、却って効率が落ちてしまうケースもあると。
…この話が本当なら、IT土方じゃないプログラマにとっては害でしかないってことじゃないかい。
でも「昂る」効果を、やりたくもない仕事でも疲れなく乗りこえなきゃ、ってときに期待するのはOKなのかも。
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日本発のオープンソースソフトウェアは42件 -- ある官僚
どうやら体感出来そうに無い (スコア:0)
朝、起きて最初に飲むのも珈琲です。
日中も二時間に一度ぐらいは珈琲を飲んでます。
12時間も間が空かないので、常時カフェインが入ってるのかも、
Re: (スコア:0)
# いざと云う時に、カフェイン錠剤(エスタロンモカとか)を飲んでも効かなかったりして。
Re: (スコア:0)
Re:どうやら体感出来そうに無い (スコア:5, 興味深い)
カフェインの作用のうち、少なくとも中枢興奮作用については、薬理学の教科書なんかでも「耐性はない」と記載されてることが多いと思います。この中枢興奮作用ってのは、ヒトだと計算なんかの効率を上げたり(特に単純計算の繰り返し等で、頭脳労働の疲労を軽減する)、目を覚ましたりする作用で、マウスなどの動物実験では特に自発運動量の増加あたりを指標にして測定するんですが、これらについては、連用していても効果が低下することはない…すなわち「耐性があらわれない」部類に当たります。
実際問題、連日の睡眠不足時なんかに立て続けで飲むと効かない、ということはあっても、普段から2-3杯/日くらい常用してる人で全く効果が得られなくなるとか、「2-3杯じゃ効かないから5-6杯、いや7-8杯」と行った具合に「効かなく」なっていくということは、実はあんまりありません。「効かなくなった」というときには、むしろそもそも立てこんだ仕事が何日も続いて疲労や睡眠不足の方が蓄積してる時などが多く、そうなってくると「もうカフェインで抑えられる範囲を超えちゃった」という点が原因になったりもするので、効かないのが「カフェイン耐性」のせいなのか、それとも状況のせいなのか、そこらへん「個人の感想」だけで主張されても、全く当てにならないという。
ただその一方で、やっぱりカフェインが「まったく効かない」わけではないにせよ、効きにくくなってくるというケースもあるにはあるようではあるし、そのすべてを「個人の感想」だけで片付けていいものかどうか、そこらへんがややこしいところだったりしたわけです。
この中枢興奮作用については、大脳にあるアデノシン受容体に対して、カフェインが拮抗的に阻害することによると言われてるのですが、このアデノシン受容体、脳にはA1受容体とA2A受容体という二種類のものがありまして。カフェインはこの両方に対して作用しうることが判ってます。
A1とA2Aの両者の働き方はかなり複雑で、例えば線条体あたりだとこの両者はそれぞれを逆に調節するように作用する(A2Aは鎮静的に、A1は神経興奮に)部分があったりもするんですが、(まだ細かい部分はよく判ってないながら)大脳皮質での作用とかまで含めて、トータルに見るとA1もA2Aもどちらも普段は中枢を鎮静させる方向に調節していると考えられてます。そして、カフェインによってこれらの作用が阻害されることで中枢興奮が起こる、と考えられてます。
で、実はカフェインは、この中枢A2A受容体の阻害については耐性が出ませんが、その一方で中枢A1受容体の阻害には耐性が現れる、という報告が出てまして。ただA1受容体への作用に耐性が出来ても、A2A受容体阻害だけでも十分に中枢興奮作用は得られるのだ、と。このことで、カフェインの中枢興奮作用全体で考えると耐性は現れないんだけど、A1受容体での耐性で、一部効きが悪くなったようにも感じることがあるんじゃないか、というのが最近の解釈になってます。
……これは割と納得のいく仮説でして、これまで薬理学の教科書的には「カフェインに耐性は出ない」ということになってたので、個人的には、説明を求められたときなどには教科書的な説明をしながらも、正直内心では疑問を感じつづけてた部分でした。それがこの仮説であれば、「効き目が弱くなること」と「作用全体としては耐性が現れないこと」の両方が説明できます。
この他だと、カフェインは高濃度ではアデノシン受容体だけでなくニコチン作動性アセチルコリン受容体にも作用することも知られてまして、こちらの作用にも耐性が出ることが判ってました。なので、以前はこの作用がカフェインの部分的耐性の出現に関与している、とも考えられてました。例えば、栗原先生の『カフェインの科学』なんかでもこちらの説が紹介されてます(まだA1/A2Aの耐性出現がよく判ってなかった頃に出された本なので)。この可能性もまだ捨てがたい部分はありますが……それよりも新しく見つかった、このA1受容体とA2A受容体への作用の違いから説明する仮説の方がより正しいんじゃないかなあという感じを持っています。この他にも、カフェインの全身性の作用については、ノルアドレナリンやインスリンなどの分泌を介して行われる部分があり、これらの作用については耐性が出るということも言われてます。この辺りが複雑に絡み合ってくるのでややこしい。
#つってもまぁ、大抵の「効かなくなった」という個人の感想では精神疲労の蓄積が主因になってる場合が多いんじゃないかなぁ、と思ってますが。
Re:どうやら体感出来そうに無い (スコア:5, 興味深い)
>カフェインの作用のうち、少なくとも中枢興奮作用については、薬理学の教科書なんかでも「耐性はない」と記載されてることが多いと思います。
この「耐性はない」と言われていたことの根拠ですが、耐性には「代謝耐性」と「組織耐性」という二つの主な機構が知られてまして、そのどちらもカフェインでは生じていないから、というのが理由になってます。
代謝耐性は、ある薬剤を投与しつづけてるうちに、主に肝臓などでその薬剤を分解する酵素の活性が上昇することで、体内での分解が促進されることで薬剤の体内濃度が速やかに低下するために効かなくなる、というものです。実は、カフェインには肝臓や腎臓でCYP1A(チトクロムP450の一種)などを誘導する作用があるのですが、連用によって増強されることはないため、代謝耐性は生じないと考えられてます。
組織耐性は、実際の標的組織で生じる耐性機構で、これは例えばその薬剤の受容体の数が増減するような変化によって、薬剤の効き方が低下するものです。これについてもカフェインでは起こらないと言われてました。実際、A2A受容体には変化がないようなのですが、実は慢性投与によって、アデノシンA1受容体やアセチルコリン受容体(ニコチン作動性、ムスカリン作動性)の発現レベルの増加が起こりうる、ということが最近示されてきてます(受容体の数が増えると、それを阻害するにはより多い量のカフェインが必要になります)。カフェインの部分的耐性にはこの機構が関与してるのではないかというのが、最近の考え方になってます。
もう一個「行動耐性」というものがありまして……実はカフェインでは動物実験によっては、この行動耐性が見られるのですが、これは薬剤に対する「耐性」ではありません(ややこしい名前なんですが)。これは、こんな感じの実験系で見られるものです。
実はこれ、「カフェイン摂取した後に動き回ったら餌が減らされる」というのをマウスが学習したために、「わざと動き回らなくなった」現象です。その証拠としてこういう、行動の結果がデメリットにつながるような実験系(2での設定の仕方)だけで見られます。こういうのを「行動耐性」と呼びます。「耐性」という名前から紛らわしいのですが、薬の効き目自体が変わったことによるわけではないので、薬理学的メカニズムを伴った「耐性」ではありません。
つまり、A1受容体などについての知見が出てくる前の(薬理学の教科書なんかで採用されてきた)考え方だと、「カフェインの中枢作用には代謝耐性も組織耐性も生じない=耐性を生じない(行動耐性は出るケースがあるけど、それは耐性とは呼べないしね)」という扱いでした。それが現在は「いくつかの経路では組織耐性も出るけど、主要な経路の一つは耐性を生じないので、全体としては耐性にならずに効き続ける(せいぜい、部分的な耐性に留まる)」ということになってきてます。
Re:どうやら体感出来そうに無い (スコア:5, 興味深い)
>中枢興奮作用ってのは、ヒトだと計算なんかの効率を上げたり(特に単純計算の繰り返し等で、頭脳労働の疲労を軽減する)、目を覚ましたりする作用で
カフェインは割と「頭の働きをよくする」みたいに考えられがちなんですけど、実は同じ「頭脳労働」でも、作業内容によっては逆効果なことがあります。
カフェインがもっとも有効とされるのは、上述したような「単純計算の繰り返し」みたいな作業です。よく「カフェインによって、計算能力が向上する」というのが取り上げられ、大学の学生実習などでも行われてますが、あの手の実験でよく用いられる内田クレペリン検査 [wikipedia.org](二つの数字を足し算し、その下一桁を延々と書いていくヤツ)なんてのは、その最たる例です。この手の作業であれば、普段よりも続けるのが苦にならず、また計算ミスも減ります。これが「精神疲労の軽減」というやつです。
その一方、同じ頭脳労働でも、例えば新しいアイデアを出したりするようなケースには、カフェインによる恩恵はほとんど期待できないと言われてます。それどころか、カフェインを摂取することで神経が昂ったり、落ち着きがなくなったりすることで、考えがまとまらず、却って効率が落ちてしまうケースもあると。
#なお元ネタはこ [nih.gov] の [nih.gov]辺りの総説です。上の二つも同様。
Re: (スコア:0)
その一方、同じ頭脳労働でも、例えば新しいアイデアを出したりするようなケースには、カフェインによる恩恵はほとんど期待できないと言われてます。それどころか、カフェインを摂取することで神経が昂ったり、落ち着きがなくなったりすることで、考えがまとまらず、却って効率が落ちてしまうケースもあると。
…この話が本当なら、IT土方じゃないプログラマにとっては害でしかないってことじゃないかい。
でも「昂る」効果を、やりたくもない仕事でも疲れなく乗りこえなきゃ、ってときに期待するのはOKなのかも。