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>それが分子の運動量と関わっていることを知ったとき。
身の回りの熱平衡の通常物質を考える際はそれでも良いんですが,より物理的に一般的な意味だと温度はもうちょっと定義が変わります.どちらかというと,「運動量の分布のしかた」と言った方が近いんじゃないかと.たくさんの原子からなる集団があって,それら原子すべてがすさまじく大きな運動量を持っていても,全体が一様に同じ方向に運動しているような場合は温度は低いことになります.(これは,その集団の重心と同じ座標系から見ればそれぞれの原子がほとんど動いていないことに関連)
温度が高い状態というのは,様々な状態が励起されていることを指します.同じエネルギーを持った状態がほぼ同じぐらい励起されている(=熱平衡な)状態下,あるエネルギーがE1である状態の数と別なエネルギーE2である状態の数の比N(E1)/N(E2)が(ボルツマン分布をする系の場合で)exp(-(E1-E2)/(k*A)),kはボルツマン定数)と表されるとき,その系の温度はAであると定義されます.
例えば固体中の分子振動.全部の分子が位相をそろえてある単一のモードで振動しているようなときは,エネルギーは高くなりますが温度は定義できません(平衡状態になっていないので).これが長時間放っておくと,微妙の位相のずれやら欠陥やら何やらの効果でたくさんいる分子間で振動の位相がどんどんずれ,さらにはもっとエネルギーの高い振動モードや低い振動モーとなどいろいろな励起にエネルギーが緩和していって平衡状態に達したとき,温度が定義できるようになります.このとき,励起エネルギーの低い振動モードはたくさん励起され,エネルギーの高い振動モードは少ししか励起されない状況になります.温度が高い状態というのは,このうちエネルギーの高いモードが結構な比率で励起されている状態を指します.例えば,ある低エネルギーのモードの励起数を10としたら別の高エネルギーのモードが1励起されている状態と,同じく9と3との状態では後者の方が温度が高い,ということになります.(ただし,熱平衡状態では低エネルギーのモードの方が励起される数が少ないことはない)
極限まで温度が高い状態,つまりどこまで温度を上げても壊れない理想的な物体で温度無限の状態とは,すべてのモードが同じ確率で励起されている状態になります.つまり,完全に励起のしかたの分布がばらけきった状態です.逆に温度が低い状態とは,低エネルギーの励起のみが行われ,高エネルギーの励起がほとんど行われていない状態(励起の分布が偏った状態)になります.
こういった定義を使うと,物質が無くても温度が定義できます.例えば物質の存在しない空間の温度も,そこに励起されている電磁場のモード数から定義できます.高エネルギー=短波長の光子が多く励起されているほど高温ということになるわけです(cf. 黒体輻射,3K背景放射).温度無限大だと,あらゆる光が等しく励起されます.#現実にはそこまで温度が上がる前に,生じているエネルギー密度で空間構造が崩壊してブラックホール化しますが.
さて,高温の物体からは必ずその温度の黒体輻射(黒体じゃないんで,厳密に言えばそれに近いもの)がありますので,出てくる光のスペクトルを見てやると温度がわかります.今回の実験でもそういった手法が使われているかと思います.
これが低温になってくると,温度の定義が難しくなります.というのも,低温では緩和が遅いのでなかなか熱平衡状態にならず,自由度ごとに温度が異なってしまうからです.例えばレーザー冷却を用いると,分子ガスの並進運動のエネルギーを極端に減らすことが出来ます.このため,並進の自由度のみに注目すると,そこでは高エネルギーのモードにはほとんどエネルギーが分配されないため温度が低くなります.ところがこのとき,分子の回転に注目すると,未だ高速でぐるぐる回っていたりするわけです.そうすると回転のみに注目すると温度が高い,ということになってしまいます.同様に,断熱消磁を用いると,まずスピンの配向がそろいます.つまり分布がばらけていない状況ですので,スピンの温度はかなり低いと見なせます.ところがこの段階では,分子の回転や並進,振動などの自由度は元のままですので,そちらのエネルギーは高く温度が高い,ということになります.#放置しておくと,次第に並進・回転からスピン系へのエネルギー移動が起き,全体で熱平衡に達します.時間がかかりますが.このため,こういった低温ではそれぞれの自由度のみに注目して,「スピン温度」「並進温度」「回転温度」などと自由度ごとに別の温度を持っているとして扱います.
せっかく低温での話が書かれているので、
> たくさんの原子からなる集団があって,それら原子すべてがすさまじく大きな運動量を持っていても,> 全体が一様に同じ方向に運動しているような場合は温度は低いことになります.> (これは,その集団の重心と同じ座標系から見ればそれぞれの原子がほとんど動いていないことに関連)(改行付加して引用)
この場合も「集団の重心の並進自由度」については高温だけど、「集団内部の自由度」については低温、って言っておきたい今日この頃。
# ただし、この場合は古典力学的に熱平衡(色んな自由度の温度が均一化する感じ)# にはなれない(運動量保存則のおかげで)ので、どんなに時間がたっても# この集団の温度を単一の値で定義することはできない。# …他との相互作用があればその限りじゃないけど。
なお、分子シミュレーションやってる時に初期速度をテキトーに与えて、のほほーんとしてると自然にこういう状態になってることがあります…。(分子シミュレーションでは重心の並進等は初めに消します。)
興味深い話ありがとうございます。エネルギーが高いだけではなく、それがボルツマン分布していることが高い温度を意味するということでしょうか。まったく違う分野、生態学とか情報工学とか金融工学などでも「温度」を考えることができるか興味あります。生物種の多様性や偏り、株売買時の約定価格の分布・・・・とか。平衡とかエネルギーをどう考えるのか・・・ちょっと分からないですが。そんなことを考えてみても何かの役に立ちそうもありませんが・・・。
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犯人は巨人ファンでA型で眼鏡をかけている -- あるハッカー
運動量そのものではないんですよね (スコア:2, 参考になる)
>それが分子の運動量と関わっていることを知ったとき。
身の回りの熱平衡の通常物質を考える際はそれでも良いんですが,より物理的に一般的な意味だと温度はもうちょっと定義が変わります.
どちらかというと,「運動量の分布のしかた」と言った方が近いんじゃないかと.
たくさんの原子からなる集団があって,それら原子すべてがすさまじく大きな運動量を持っていても,全体が一様に同じ方向に運動しているような場合は温度は低いことになります.
(これは,その集団の重心と同じ座標系から見ればそれぞれの原子がほとんど動いていないことに関連)
温度が高い状態というのは,様々な状態が励起されていることを指します.同じエネルギーを持った状態がほぼ同じぐらい励起されている(=熱平衡な)状態下,あるエネルギーがE1である状態の数と別なエネルギーE2である状態の数の比N(E1)/N(E2)が(ボルツマン分布をする系の場合で)exp(-(E1-E2)/(k*A)),kはボルツマン定数)と表されるとき,その系の温度はAであると定義されます.
例えば固体中の分子振動.全部の分子が位相をそろえてある単一のモードで振動しているようなときは,エネルギーは高くなりますが温度は定義できません(平衡状態になっていないので).
これが長時間放っておくと,微妙の位相のずれやら欠陥やら何やらの効果でたくさんいる分子間で振動の位相がどんどんずれ,さらにはもっとエネルギーの高い振動モードや低い振動モーとなどいろいろな励起にエネルギーが緩和していって平衡状態に達したとき,温度が定義できるようになります.このとき,励起エネルギーの低い振動モードはたくさん励起され,エネルギーの高い振動モードは少ししか励起されない状況になります.温度が高い状態というのは,このうちエネルギーの高いモードが結構な比率で励起されている状態を指します.
例えば,ある低エネルギーのモードの励起数を10としたら別の高エネルギーのモードが1励起されている状態と,同じく9と3との状態では後者の方が温度が高い,ということになります.(ただし,熱平衡状態では低エネルギーのモードの方が励起される数が少ないことはない)
極限まで温度が高い状態,つまりどこまで温度を上げても壊れない理想的な物体で温度無限の状態とは,すべてのモードが同じ確率で励起されている状態になります.つまり,完全に励起のしかたの分布がばらけきった状態です.逆に温度が低い状態とは,低エネルギーの励起のみが行われ,高エネルギーの励起がほとんど行われていない状態(励起の分布が偏った状態)になります.
こういった定義を使うと,物質が無くても温度が定義できます.
例えば物質の存在しない空間の温度も,そこに励起されている電磁場のモード数から定義できます.高エネルギー=短波長の光子が多く励起されているほど高温ということになるわけです(cf. 黒体輻射,3K背景放射).温度無限大だと,あらゆる光が等しく励起されます.
#現実にはそこまで温度が上がる前に,生じているエネルギー密度で空間構造が崩壊してブラックホール化しますが.
さて,高温の物体からは必ずその温度の黒体輻射(黒体じゃないんで,厳密に言えばそれに近いもの)がありますので,出てくる光のスペクトルを見てやると温度がわかります.今回の実験でもそういった手法が使われているかと思います.
これが低温になってくると,温度の定義が難しくなります.
というのも,低温では緩和が遅いのでなかなか熱平衡状態にならず,自由度ごとに温度が異なってしまうからです.
例えばレーザー冷却を用いると,分子ガスの並進運動のエネルギーを極端に減らすことが出来ます.このため,並進の自由度のみに注目すると,そこでは高エネルギーのモードにはほとんどエネルギーが分配されないため温度が低くなります.ところがこのとき,分子の回転に注目すると,未だ高速でぐるぐる回っていたりするわけです.そうすると回転のみに注目すると温度が高い,ということになってしまいます.
同様に,断熱消磁を用いると,まずスピンの配向がそろいます.つまり分布がばらけていない状況ですので,スピンの温度はかなり低いと見なせます.ところがこの段階では,分子の回転や並進,振動などの自由度は元のままですので,そちらのエネルギーは高く温度が高い,ということになります.
#放置しておくと,次第に並進・回転からスピン系へのエネルギー移動が起き,全体で熱平衡に達します.時間がかかりますが.
このため,こういった低温ではそれぞれの自由度のみに注目して,「スピン温度」「並進温度」「回転温度」などと自由度ごとに別の温度を持っているとして扱います.
Re:運動量そのものではないんですよね (スコア:1)
せっかく低温での話が書かれているので、
> たくさんの原子からなる集団があって,それら原子すべてがすさまじく大きな運動量を持っていても,
> 全体が一様に同じ方向に運動しているような場合は温度は低いことになります.
> (これは,その集団の重心と同じ座標系から見ればそれぞれの原子がほとんど動いていないことに関連)
(改行付加して引用)
この場合も「集団の重心の並進自由度」については高温だけど、
「集団内部の自由度」については低温、って言っておきたい今日この頃。
# ただし、この場合は古典力学的に熱平衡(色んな自由度の温度が均一化する感じ)
# にはなれない(運動量保存則のおかげで)ので、どんなに時間がたっても
# この集団の温度を単一の値で定義することはできない。
# …他との相互作用があればその限りじゃないけど。
なお、分子シミュレーションやってる時に初期速度をテキトーに与えて、
のほほーんとしてると自然にこういう状態になってることがあります…。
(分子シミュレーションでは重心の並進等は初めに消します。)
Re:運動量そのものではないんですよね (スコア:1)
えーと…詳しすぎて雰囲気しか理解できていないです、ハイ。
書かれているものを頭の中に想像しながらまったり楽しんでみます。
人間はモノを理解するためにいろんなことを考え出しますなぁ。
スバラシイ。
Re:運動量そのものではないんですよね (スコア:1)
興味深い話ありがとうございます。
エネルギーが高いだけではなく、それがボルツマン分布していることが高い温度を意味するということでしょうか。
まったく違う分野、生態学とか情報工学とか金融工学などでも「温度」を考えることができるか興味あります。生物種の多様性や偏り、株売買時の約定価格の分布・・・・とか。平衡とかエネルギーをどう考えるのか・・・ちょっと分からないですが。
そんなことを考えてみても何かの役に立ちそうもありませんが・・・。