コメント: Re:ボインジャーとか動いてる (スコア 4, 参考になる) 43
フライホイールの持つ運動エネルギーと機体が逆方向に受ける運動エネルギーは釣り合うんだよ。宇宙から見て機体が右回転している時にフライホイールの左向き回転数を上げていくと、エネルギーが釣り合った所で回転が止まる。上げすぎると左に回り出す。回転を落とせばエネルギーが機体に渡ってまた機体は回り出す。
そこで通常は機体が静止する状態でホイール回転数を定格に落とし、回転をスラスターで殺す。スラスターの反動質量は系の外へ出ていくから、探査機の中でエネルギーが保存せず、ホイールの定格回転と姿勢の静止が両立する。その状態から必要に応じて随時ホイール回転数を操作して人為的に機体を回転・静止させ、機体を任意の姿勢に指向させるのが基本的な運用。
一度機体を静止させホイールを定格に合わせれば半永久的にその姿勢を維持できそうなもんだが、太陽風だデブリだ光圧だと何だかんだですぐ崩れる。外部からエネルギーが加えられているんだからホイールにも釣り合うまでエネルギーを注ぎ込まなければ静止状態が維持できない。いくら可変でもいずれホイール回転数はモーターの回転数限界に達して機体はホイールと逆方向に回り出す。そうなる前にスラスターに乗せてエネルギーを放出し定格まで下ろす(または上げる)必要がある。これは角運動量のアンローディングという表現で呼ばれる。
さて、外部からのエネルギーで姿勢が崩れるなら飛行機の尾翼のように風見安定ができそうなもんだ。当然出来る。はやぶさの場合は元からある程度宇宙での風見安定を考慮した機体デザインになっていた。そこでスラスターとホイールが次々死んでからは死んだ軸を風まかせに静止させ、抵抗の大きい軸周りに回転軸を近づけるといった方法でアンローディングを行なうことが可能だった。ただあれはどんどん地球に近づいてくる前提かつとにかくカプセルの帰還だけを考えればよかったからそれで用が済んだという性質のもので、それで本来の三軸安定と同等の通信速度や観測性能に間に合うわけではない。
今回の探査機はそれでは間に合わなかった。アンローディングが出来なければ姿勢は崩れアンテナを指向出来なくなる。アンテナの指向が出来なければSNRが悪化する。悪化しすぎれば通信不能となる。だから放棄された。当然だな。