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せっかくなんで今回の話を理解するために必要なリチウムイオン電池の知識を.
・バインダー電池の電極は基本的に活物質とバインダーから出来ています.
活物質というのは実際にLiイオンを吸収・放出する材料です.ただ,粒子が大きいと内部までイオンが浸透するのが大変になる(使える容量が減る,充放電速度が遅くなる)ため,通常はナノ粒子化して使用します.こうすると表面積が増えてイオンの吸収・放出が速くなり(=充放電が速くなる),中心まできっちりイオンが入れるため容量もしっかり使い切れるようになります.
その一方,ナノ粒子のままだとバラバラに崩れてしまいますし,集電極(外部と繋がっている電極)との電気的な接触も取れませんから,ナノ粒子をしっかり結びつけて全体の形状を保持するための「糊」が必要になります.これがバインダーで,今回の報告ではこのアルギン酸ナトリウムをバインダーとして15wt%使用しています.リチウムイオン電池は電位が高く有機物が分解しやすいので,通常は丈夫で良く伸びるフッ化物(テフロンの仲間)を使用します.
また,Siであるとか,正極材のオリビン鉄であるといった導電性の低い電極材料を使用する場合は,これに加えて導電性助剤としてグラファイト系の物質も加えます.これがSiナノ粒子などの表面を適度に覆うことで導電性を担い,電極として使用できるようになるわけです.
・Si電極典型的なLiイオン電池の負極には,グラファイトが使用されています.Liイオンはグラファイトの層間に入っていき,最終的にはC6Liという形で飽和します.つまり,理論容量は炭素原子6個に付きLi原子1つですから,96500クーロン/72gで372mAh/gとなります.そして現在の負極の実容量はほぼこの値を実現しており,容量を増やすにはグラファイト以外のものを使う必要があります.
次世代負極材料として有望なのはSnやSiと言った系で,Liイオンはこれらの金属に取り込まれると合金を生成します.例えばSiなら,究極的にはLi4.4Siという合金を作りますので,容量はSi原子1mol(28g)あたり96500*4.4クーロン,つまり4210mAh/gとなります(実際には0-4.4の領域をフルに使えるわけでは無いので,もっと減る).
ただ,Si原子1つに対してLi原子を4.4個取り込む,なんてことをすればどう考えても体積が馬鹿みたいに増えますので,充放電の過程で電極材料の膨張・収縮が激しくなり,粒子の崩壊や電極からの剥離が起こってきます.これを防止するためにどんなバインダーをどうつけるか,が重要になるわけです(バインダーが伸び縮みしてうまいこと粒子を保持し続けてくれる).で,今回はそのバインダーとしてアルギン酸ナトリウムを使ったら良い特性が出たよ,と.なお,一応書いておくと,これまでにも様々なバインダーを利用することでSi系負極材料は実現されており,実際に販売されているものもあります.ですので,「今回の研究でSi系負極が使えるようになる」というわけではありません.結構特性の良い新しいバインダー候補が出来たよ,という研究です.
また水溶性云々の部分はちょっとミスリーディングですね.Si負極材料は,Si自体が酸素・水ですぐ酸化されるため,水の使用は絶対に不可です.ですから,Si負極を利用する上では水溶性であることには意味がありません.グラファイト系などには使用できますが,その場合は(当たり前ですが)容量は増えません.
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皆さんもソースを読むときに、行と行の間を読むような気持ちで見てほしい -- あるハッカー
基礎知識 (スコア:5, 参考になる)
せっかくなんで今回の話を理解するために必要なリチウムイオン電池の知識を.
・バインダー
電池の電極は基本的に活物質とバインダーから出来ています.
活物質というのは実際にLiイオンを吸収・放出する材料です.ただ,粒子が大きいと内部までイオンが浸透するのが大変になる(使える容量が減る,充放電速度が遅くなる)ため,通常はナノ粒子化して使用します.こうすると表面積が増えてイオンの吸収・放出が速くなり(=充放電が速くなる),中心まできっちりイオンが入れるため容量もしっかり使い切れるようになります.
その一方,ナノ粒子のままだとバラバラに崩れてしまいますし,集電極(外部と繋がっている電極)との電気的な接触も取れませんから,ナノ粒子をしっかり結びつけて全体の形状を保持するための「糊」が必要になります.これがバインダーで,今回の報告ではこのアルギン酸ナトリウムをバインダーとして15wt%使用しています.リチウムイオン電池は電位が高く有機物が分解しやすいので,通常は丈夫で良く伸びるフッ化物(テフロンの仲間)を使用します.
また,Siであるとか,正極材のオリビン鉄であるといった導電性の低い電極材料を使用する場合は,これに加えて導電性助剤としてグラファイト系の物質も加えます.これがSiナノ粒子などの表面を適度に覆うことで導電性を担い,電極として使用できるようになるわけです.
・Si電極
典型的なLiイオン電池の負極には,グラファイトが使用されています.Liイオンはグラファイトの層間に入っていき,最終的にはC6Liという形で飽和します.つまり,理論容量は炭素原子6個に付きLi原子1つですから,96500クーロン/72gで372mAh/gとなります.そして現在の負極の実容量はほぼこの値を実現しており,容量を増やすにはグラファイト以外のものを使う必要があります.
次世代負極材料として有望なのはSnやSiと言った系で,Liイオンはこれらの金属に取り込まれると合金を生成します.例えばSiなら,究極的にはLi4.4Siという合金を作りますので,容量はSi原子1mol(28g)あたり96500*4.4クーロン,つまり4210mAh/gとなります(実際には0-4.4の領域をフルに使えるわけでは無いので,もっと減る).
ただ,Si原子1つに対してLi原子を4.4個取り込む,なんてことをすればどう考えても体積が馬鹿みたいに増えますので,充放電の過程で電極材料の膨張・収縮が激しくなり,粒子の崩壊や電極からの剥離が起こってきます.これを防止するためにどんなバインダーをどうつけるか,が重要になるわけです(バインダーが伸び縮みしてうまいこと粒子を保持し続けてくれる).で,今回はそのバインダーとしてアルギン酸ナトリウムを使ったら良い特性が出たよ,と.
なお,一応書いておくと,これまでにも様々なバインダーを利用することでSi系負極材料は実現されており,実際に販売されているものもあります.ですので,「今回の研究でSi系負極が使えるようになる」というわけではありません.結構特性の良い新しいバインダー候補が出来たよ,という研究です.
また水溶性云々の部分はちょっとミスリーディングですね.Si負極材料は,Si自体が酸素・水ですぐ酸化されるため,水の使用は絶対に不可です.ですから,Si負極を利用する上では水溶性であることには意味がありません.
グラファイト系などには使用できますが,その場合は(当たり前ですが)容量は増えません.