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>これもサイエンスのターゲットなのか
使われている手法はかなりサイエンスに関連していると思います.まあ,手法に限らずとも,社会科学とか考古学もサイエンスと重なる分野ではありますし.
今回の研究では,3つの手法で得られた4つのデータから当時の降水量を推定しています.
・湖底の堆積物中の酸素同位体存在比(2箇所)・湖底の堆積物の密度・石筍中の酸素同位体存在比
実は,酸素同位体存在比は,様々な要因により変動します.例えば海水(など)からの蒸発の際には軽い原子ほど飛びやすいため,16Oを含む水の方が18Oを含む水より蒸発しやすくなります.逆に降る際には,重い水ほど凝集しやすいため逆の効果が生じます.また,温度が高くてたくさん蒸発する際にはこういった選別効果は効きにくくなりますので,元の海水の同位体存在比に近い比率で蒸発します.降るときも,バカスカ降るときは蒸気中の同位体比がそのまま降りますが,ちょっとしか降らないときには重い同位体が濃縮されます.生物中でも,重い同位体ほど分子中に取り込まれて固定化されやすい等の効果(これはどんな物質がどのように作られるかによって,重いものが濃縮されるか,軽いものが濃縮されるかが異なる)が効くため,周囲の環境とはまたちょっと違う同位体存在比になります(さらに温度にも依存する).
湖底の堆積物中には様々なプランクトンの作った炭酸塩やケイ酸塩が含まれますが,気温を仮定すれば,生物濃縮の効果を取り除くことで,当時の湖水中の酸素同位体存在比が推定できます.同じく気温が推定できれば当時の海から蒸発した同位体比が推定できますから(海は海で,当時どういう同位体比であったか?という研究があったりする),これと湖水の同位体存在比の比較から降雨量(降雨量が多いほど,蒸発した蒸気に近い同位体比.降雨量が少なければ,蒸気中に比べ重い同位体が増える)がわかります.無機塩に関しても,湖水中の同位体比(と温度と析出時の濃縮効果)を反映した同位体存在比がわかりますので,他のデータ(当時の気温だとか何だとか.これはまた別の手段で推定した研究が既にある)とつきあわせることで,当時の降水量が推測できます.
また堆積物の量は,上流から運ばれてくるもの(雨が多いほど多い)が堆積するわけで,これがどの程度密に詰まっているかから,当時どの程度の速度で堆積したか=どの程度雨が降っていたか,が推測されます.
石筍ができる際には一度雨水に溶けそれが再析出しますので,雨水中の酸素原子を取り込みます.このため降水中の同位体存在比の影響を受け,それは降水量に依存し,という事でこれまた降水量を推定するデータが得られます.
こういった研究はいわば不確実性の多いいろんな現象のデータを積み木のように積み上げて得られる結果であるため,取り扱いには注意が必要とされます(仮定が一つ間違うと,データの解釈の結果が違ってくる).今回は,場所が3箇所の異なるもの(ただし,ユカタン半島はそんなに大きくないので,降水量に大きな差はないと仮定.実際,現代の全般的な気候は似通っている)を用い,さらに手法も3つの異なるものを利用しています.で,そういった異なるデータが全て同じ傾向を示していたので確実性は高いよね,と.
人文側からのアプローチとして
・都市間の衝突が激化した。・なんらかの理由で人口が維持できなくなって、都市を捨てて沿岸部に移り住んだ。・原因が干魃と思われるような話が伝わっている。
ってのがあって、これに対して科学側からの裏付けが見えてきたと。お互いが補強する関係になり得るので、マヤ文明衰退に対する理解が一歩進むはず。
次に出てくるのが、何故こんな長期に渡って干魃が起こったのかという気象学への発展。
人文、というか歴オタに近い人種だと、こういう環境成因的な歴史の変化の『可能性』を『ちょっとでも』語ると、
「そんな自然の変化や影響で人類様の歴史が決まって or 変わってたまるか~、 フランス革命は小氷期の影響なんて一滴もないんだ、アントワネットがくそ・ナポレオンが英雄だったからだ~」
って言い募るグループがいるんですよね。「銃・病原菌・鉄」を「くだらない」と評価するような人たち。
たれこみの>だが同論文は、気候変動による干ばつだけが文明滅亡の原因とはしておらず、
というところはそういう人向けの記述(著者が言いたいことではなかった)のような気がします。
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あと、僕は馬鹿なことをするのは嫌いですよ (わざとやるとき以外は)。-- Larry Wall
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>これもサイエンスのターゲットなのか
使われている手法はかなりサイエンスに関連していると思います.
まあ,手法に限らずとも,社会科学とか考古学もサイエンスと重なる分野ではありますし.
今回の研究では,3つの手法で得られた4つのデータから当時の降水量を推定しています.
・湖底の堆積物中の酸素同位体存在比(2箇所)
・湖底の堆積物の密度
・石筍中の酸素同位体存在比
実は,酸素同位体存在比は,様々な要因により変動します.
例えば海水(など)からの蒸発の際には軽い原子ほど飛びやすいため,16Oを含む水の方が18Oを含む水より蒸発しやすくなります.逆に降る際には,重い水ほど凝集しやすいため逆の効果が生じます.
また,温度が高くてたくさん蒸発する際にはこういった選別効果は効きにくくなりますので,元の海水の同位体存在比に近い比率で蒸発します.降るときも,バカスカ降るときは蒸気中の同位体比がそのまま降りますが,ちょっとしか降らないときには重い同位体が濃縮されます.
生物中でも,重い同位体ほど分子中に取り込まれて固定化されやすい等の効果(これはどんな物質がどのように作られるかによって,重いものが濃縮されるか,軽いものが濃縮されるかが異なる)が効くため,周囲の環境とはまたちょっと違う同位体存在比になります(さらに温度にも依存する).
湖底の堆積物中には様々なプランクトンの作った炭酸塩やケイ酸塩が含まれますが,気温を仮定すれば,生物濃縮の効果を取り除くことで,当時の湖水中の酸素同位体存在比が推定できます.同じく気温が推定できれば当時の海から蒸発した同位体比が推定できますから(海は海で,当時どういう同位体比であったか?という研究があったりする),これと湖水の同位体存在比の比較から降雨量(降雨量が多いほど,蒸発した蒸気に近い同位体比.降雨量が少なければ,蒸気中に比べ重い同位体が増える)がわかります.
無機塩に関しても,湖水中の同位体比(と温度と析出時の濃縮効果)を反映した同位体存在比がわかりますので,他のデータ(当時の気温だとか何だとか.これはまた別の手段で推定した研究が既にある)とつきあわせることで,当時の降水量が推測できます.
また堆積物の量は,上流から運ばれてくるもの(雨が多いほど多い)が堆積するわけで,これがどの程度密に詰まっているかから,当時どの程度の速度で堆積したか=どの程度雨が降っていたか,が推測されます.
石筍ができる際には一度雨水に溶けそれが再析出しますので,雨水中の酸素原子を取り込みます.このため降水中の同位体存在比の影響を受け,それは降水量に依存し,という事でこれまた降水量を推定するデータが得られます.
こういった研究はいわば不確実性の多いいろんな現象のデータを積み木のように積み上げて得られる結果であるため,取り扱いには注意が必要とされます(仮定が一つ間違うと,データの解釈の結果が違ってくる).
今回は,場所が3箇所の異なるもの(ただし,ユカタン半島はそんなに大きくないので,降水量に大きな差はないと仮定.実際,現代の全般的な気候は似通っている)を用い,さらに手法も3つの異なるものを利用しています.で,そういった異なるデータが全て同じ傾向を示していたので確実性は高いよね,と.
Re: (スコア:0)
人文側からのアプローチとして
・都市間の衝突が激化した。
・なんらかの理由で人口が維持できなくなって、都市を捨てて沿岸部に移り住んだ。
・原因が干魃と思われるような話が伝わっている。
ってのがあって、これに対して科学側からの裏付けが見えてきたと。
お互いが補強する関係になり得るので、マヤ文明衰退に対する理解が一歩進むはず。
次に出てくるのが、何故こんな長期に渡って干魃が起こったのかという気象学への発展。
Re: (スコア:0)
人文、というか歴オタに近い人種だと、こういう環境成因的な歴史の変化の『可能性』を『ちょっとでも』語ると、
「そんな自然の変化や影響で人類様の歴史が決まって or 変わってたまるか~、
フランス革命は小氷期の影響なんて一滴もないんだ、アントワネットがくそ・ナポレオンが英雄だったからだ~」
って言い募るグループがいるんですよね。「銃・病原菌・鉄」を「くだらない」と評価するような人たち。
たれこみの
>だが同論文は、気候変動による干ばつだけが文明滅亡の原因とはしておらず、
というところはそういう人向けの記述(著者が言いたいことではなかった)のような気がします。
『文明崩壊』にマヤ文明の章が (スコア:1)
要約するとこちらも、人口が増加しギリギリまで農地が開拓される→土壌流出などにより再生産能力が劣化する→大干ばつによる食料不足を引き金に戦争や飢餓で人口激減、という内容だったかと。
今回のは、この大干ばつが「大」ではなかった [srad.jp]、という話のようですが、いずれにせよ同じような方向性の話にみえます。