アカウント名:
パスワード:
今回の論文の主眼は,「(今までよりは)大きな面積でメタマテリアル構造を作るための手法を開発したよ」というものです.
誘電率の異なる物質をうまい形状に積層したり組み合わせたりすると,各点からの反射波がいい感じに重なり合って,全体としては光を通常では(=通常のバルクの物質では)あり得ない方向に曲げたりすることが可能になります.これがメタマテリアルです.古典的な光学では考慮していない負の屈折率が実現できたりするので,通常では無理と思われていたことが実現できたりします.例えば通常の光学的限界を超える超解像度のレンズであるとか,当たった光を迂回させて完全な裏側から元の光線(の延長線)と全く同じ向きで透過する被覆などです.後者がいわゆる「クローク」で,このクロークに当たった全ての光が「クローク(とそれに包まれている物体)が存在しなかった場合と全く同じ波形」になるように散乱されるため,光学的な検出が(その波長の光では)不可能になります(=見えない).#メタマテリアルは,構造の形とサイズにより適用できる波長に制限があります.
こういったメタマテリアルを作るには,波長と同程度のスケールの微細構造を作成する必要があります.マイクロ波ですとミリからセンチメートル程度の構造を作れば良いので楽なのですが,可視光で同じ事をやろうとすると10~100 nmスケールの均一性の高い構造を,しかも大面積(覆い隠そうとする物体と同程度)で作る必要があり,不可能では無いもののなかなか大変になります.
そんな可視光用メタマテリアルの各種構造(構造の種類によって,出来ることや特性が異なる)の中に,比較的作りやすいものとして「2種類の異なる誘電率の物体が,台形型(=上の方と下の方で面積が違う)に縦に積み重なったもの(が前後左右にずっと並んでいる)」があります.こんな感じですね.
http://newsoffice.mit.edu/2012/metamaterial-absorbs-light-0309 [mit.edu]
でもってこいつを簡単に作る手法としてナノトランスファープリンティングというものがあります.Siウェハーなどの表面に塀のように板状に飛び出た部分を作っておいて,その上に2種類の誘電体を交互に蒸着.蒸着条件をコントロールすると,上に行くほどサイドに出っ張った構造(上の方が広い台形構造)が作成できます.で,こいつを別な基板に押しつけてナノ構造を移植(印刷)すると,きれいに台形の構造が出来るよ,と.元となるSiウェハーの塀の下(出っ張っていない部分)にも同じように積層するんですが,高さが低いんで基板には転写されません.印鑑の全表面(凹んだ部分も含む)にインクが付いていても,印影は出っ張った部分だけになるのと同じです.
ところがこれも言うほど簡単ではなく,蒸着しようとする物質が積層されていく誘電体に横からくっついたり,変な方向に伸びていったりと,きれいな構造を作るのは困難でした.
で,ようやく今回の論文.蒸着法として電子ビーム蒸着を使い,飛ばしたい原子を非常に精密な方向からだけ飛ばすことで積層をかなりうまく制御.さらに誘電体材料をうまく選ぶ(AgとMgF2)ことで目的とする台形状構造をきれいに蒸着で作れたよ,と.もちろん出来た結果のものを基板に転写してメタマテリアルとしてきちんと働いていることも確認しています.
まあそんなわけで,今回の論文を単純にまとめると,
・ナノトランスファープリンティングに適した蒸着法&誘電体を決めて,ちょっと大きめ(センチメートルスケール)のメタマテリアルが作れたよ
という感じになります.※ここからいきなり大面積のクロークが作れるようになったり戦闘機が隠せたりするわけではもちろんありません.
負の屈折率と云っても、古典光学系とは逆に曲がるってだけで、光速自体は遅くなるんですよね?これだと、その素材を通過しない周囲の光線とはズレが生じると思うんですが、その辺どうなるんでしょ?
あと、光線を曲げるとエネルギーの損失が発生しそうですが、熱が溜まりはしないのですかね?
>光速自体は遅くなるんですよね?
群速度が負になったりもするよ!形式的には、パルスが入射する前に向こうから出てくる時間逆行型になる。超光速もいけた気がする。
といってももちろん因果律を破るわけでも何でも無くて、先に向こう側に行った成分(一つ前の波)が次の戻ってくる光を作ったりする感じで、見た目だけの超光速とか時間逆行現象。(先行する波により、次の波を時間反転したものがあらかじめ用意されるようなもの)
連続波に関しては波面が再現できるけど、単パルスだと無理じゃなかったかな?(先行する波面からの散乱波で、次の波面を作るようなイメージ)
群速度が負になるのは、ストロボやカメラ等で、車輪が逆転する様に見えるのと同じ現象だと思ってます。でも、これは、繰り返しが在っての話で、単発事象だと逆転はしないかと。
光速云々は、通常の屈折率は媒体中の光速が低下するのが理由なので、群速度が超高速になるのなら、屈折率が負になるのも当然かと。でも、こちらも、単発事象では起こらないので、準静的な状況で無いと効果が無いと推測されます。つまり、不規則なインパルス観測には、無力ではないかと。
より多くのコメントがこの議論にあるかもしれませんが、JavaScriptが有効ではない環境を使用している場合、クラシックなコメントシステム(D1)に設定を変更する必要があります。
私はプログラマです。1040 formに私の職業としてそう書いています -- Ken Thompson
今回の論文 (スコア:5, 参考になる)
今回の論文の主眼は,「(今までよりは)大きな面積でメタマテリアル構造を作るための手法を開発したよ」というものです.
誘電率の異なる物質をうまい形状に積層したり組み合わせたりすると,各点からの反射波がいい感じに重なり合って,全体としては光を通常では(=通常のバルクの物質では)あり得ない方向に曲げたりすることが可能になります.これがメタマテリアルです.古典的な光学では考慮していない負の屈折率が実現できたりするので,通常では無理と思われていたことが実現できたりします.
例えば通常の光学的限界を超える超解像度のレンズであるとか,当たった光を迂回させて完全な裏側から元の光線(の延長線)と全く同じ向きで透過する被覆などです.
後者がいわゆる「クローク」で,このクロークに当たった全ての光が「クローク(とそれに包まれている物体)が存在しなかった場合と全く同じ波形」になるように散乱されるため,光学的な検出が(その波長の光では)不可能になります(=見えない).
#メタマテリアルは,構造の形とサイズにより適用できる波長に制限があります.
こういったメタマテリアルを作るには,波長と同程度のスケールの微細構造を作成する必要があります.マイクロ波ですとミリからセンチメートル程度の構造を作れば良いので楽なのですが,可視光で同じ事をやろうとすると10~100 nmスケールの均一性の高い構造を,しかも大面積(覆い隠そうとする物体と同程度)で作る必要があり,不可能では無いもののなかなか大変になります.
そんな可視光用メタマテリアルの各種構造(構造の種類によって,出来ることや特性が異なる)の中に,比較的作りやすいものとして「2種類の異なる誘電率の物体が,台形型(=上の方と下の方で面積が違う)に縦に積み重なったもの(が前後左右にずっと並んでいる)」があります.
こんな感じですね.
http://newsoffice.mit.edu/2012/metamaterial-absorbs-light-0309 [mit.edu]
でもってこいつを簡単に作る手法としてナノトランスファープリンティングというものがあります.
Siウェハーなどの表面に塀のように板状に飛び出た部分を作っておいて,その上に2種類の誘電体を交互に蒸着.蒸着条件をコントロールすると,上に行くほどサイドに出っ張った構造(上の方が広い台形構造)が作成できます.で,こいつを別な基板に押しつけてナノ構造を移植(印刷)すると,きれいに台形の構造が出来るよ,と.元となるSiウェハーの塀の下(出っ張っていない部分)にも同じように積層するんですが,高さが低いんで基板には転写されません.
印鑑の全表面(凹んだ部分も含む)にインクが付いていても,印影は出っ張った部分だけになるのと同じです.
ところがこれも言うほど簡単ではなく,蒸着しようとする物質が積層されていく誘電体に横からくっついたり,変な方向に伸びていったりと,きれいな構造を作るのは困難でした.
で,ようやく今回の論文.
蒸着法として電子ビーム蒸着を使い,飛ばしたい原子を非常に精密な方向からだけ飛ばすことで積層をかなりうまく制御.さらに誘電体材料をうまく選ぶ(AgとMgF2)ことで目的とする台形状構造をきれいに蒸着で作れたよ,と.
もちろん出来た結果のものを基板に転写してメタマテリアルとしてきちんと働いていることも確認しています.
まあそんなわけで,今回の論文を単純にまとめると,
・ナノトランスファープリンティングに適した蒸着法&誘電体を決めて,ちょっと大きめ(センチメートルスケール)のメタマテリアルが作れたよ
という感じになります.
※ここからいきなり大面積のクロークが作れるようになったり戦闘機が隠せたりするわけではもちろんありません.
Re:今回の論文 (スコア:2)
負の屈折率と云っても、古典光学系とは逆に曲がるってだけで、光速自体は遅くなるんですよね?
これだと、その素材を通過しない周囲の光線とはズレが生じると思うんですが、その辺どうなるんでしょ?
あと、光線を曲げるとエネルギーの損失が発生しそうですが、熱が溜まりはしないのですかね?
-- Buy It When You Found It --
Re:今回の論文 (スコア:1)
>光速自体は遅くなるんですよね?
群速度が負になったりもするよ!
形式的には、パルスが入射する前に向こうから出てくる時間逆行型になる。
超光速もいけた気がする。
といってももちろん因果律を破るわけでも何でも無くて、先に向こう側に行った成分(一つ前の波)が次の戻ってくる光を作ったりする感じで、見た目だけの超光速とか時間逆行現象。
(先行する波により、次の波を時間反転したものがあらかじめ用意されるようなもの)
連続波に関しては波面が再現できるけど、単パルスだと無理じゃなかったかな?
(先行する波面からの散乱波で、次の波面を作るようなイメージ)
Re:今回の論文 (スコア:1)
群速度が負になるのは、ストロボやカメラ等で、車輪が逆転する様に見えるのと同じ現象だと思ってます。
でも、これは、繰り返しが在っての話で、単発事象だと逆転はしないかと。
光速云々は、通常の屈折率は媒体中の光速が低下するのが理由なので、群速度が超高速になるのなら、屈折率が負になるのも当然かと。
でも、こちらも、単発事象では起こらないので、準静的な状況で無いと効果が無いと推測されます。
つまり、不規則なインパルス観測には、無力ではないかと。
-- Buy It When You Found It --