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電動マルチコプターの話をする前に少しだけヘリコプターの話をしましょう。
皆様よくご存じのことと思いますが、ヘリコプターの回転翼は回転しながら傾きを変えて揚力を調整しています。
仮にヘリコプターの回転翼の傾き(迎え角)を変えないまま飛ぶと、前進するヘリコプターの左回り(反時計回り)の回転翼は機体右側では向かい風になり対気速度が速いので揚力が大きくなり、逆に左側では追い風になり揚力が減ります。するとヘリは右側が持ち上がり左側が下がり、機体は左に傾いて(ロール)しまいます。
そうさせないために、前進中のヘリコプターの回転翼は機体右では迎え角度が小さくなり揚力は小さく、左側では大きい迎え角になり揚力が大きくなりバランスが保たれるわけです。回転翼が一回回転するたびに機体右では迎え角を小さく、左側では迎え角を大きく、というのを繰り返してるのです。(これをサイクリックピッチコントロールといいます。サイクリック(周期的)ピッチ(迎え角)コントロール(制御)です。)
この機構はものすごく複雑で、製造にもメンテナンスにも手間がかかります。だったらこの機構を無くして、その代わりに複数のプロペラ(少しづつ回転面の軸の角度を変えた)を設置してそのプロペラの回転数を精密に制御することによって機体の傾きをコントロールしたらどうだろう?というのが電動マルチコプターなわけです。
(なお、この「精密に制御」というのがミソで、電動モーターだからこそ回転数の精密なコントロールが可能になりミリ秒単位での機体の傾斜制御ができるわけです。レシプロエンジンとかターボシャフトエンジンではこんな芸当は不可能です。やろうとして失敗した事例は過去に山のようにあります。ついでにいうとヘリコプターは基本的に回転翼の回転数はほぼ一定です。上昇したいから回転数を上げる、みたいなことはしません。回転翼の迎え角を全体的に大きくすることで回転翼面全体の揚力を上げて上昇します。こっちのほうはコレクティブピッチコントロールといいます。コレクティブ(全体的)ピッチ(迎え角)コントロール(制御)です。)
この「サイクリックピッチコントロールを廃した単純なプロペラをモーターに直結し回転数を電子制御すれば機体をコントロールできる」というのがドローンの成功のキモで、複雑な機構を廃したことで安価で軽量な機体を作ることができました。
しかしこれを大型化するとなると2乗3乗の法則が効いてきます。
多くのヘリコプターに使われるターボシャフトエンジンはそこそこ重いですが、そのパワーは絶大で燃料は軽く、使った分だけ軽量化していきます。比較するに電動マルチコプターではモーターはそれ自体の重量はたいしたことはありませんが非力で、バッテリーはそもそもが重く(エネルギー密度は低い)使用しても軽くなりません。人が乗れるくらい大型の機体を飛ばそうとすれば非力なモーターをブン回すためにバッテリーの電費が悪くなり、さらに大容量の(重い)バッテリーを積む必要性が出てきます。
さらにいうと、ヘリコプターの回転翼直径を大型化するのはさほど困難ではないですが、電動マルチコプターは「マルチ」であるがゆえに一つ一つのプロペラを大型化することは困難です。機体にぶつかるのでモーター位置を外側にオフセットしないといけなくなり重量増と抵抗増を招きます。さらにいうと、揚力は回転翼やプロペラのスイープする円の面積に比例して大きくなりますが、小さい複数の円より一つの大きな円のほうが面積は大きくなります。電動マルチコプターはここでもヘリコプターに対して不利です。
もっと付け加えると、電動マルチコプターは回転モーメントを打ち消すために隣り合ったプロペラは逆回転するように設定されますが、これも水平飛行時には揚力を打ち消す原因になりヘリコプターに対してさらに劣位になってしまいます。
つまりどういうことかと言うと、電動マルチコプターというのは無人の小さな機体には適しているが大型化することは困難で、人を載せるような用途には向いてない、ってことなんですよ。端的に言って筋が悪い。いくら飛行システムが簡略であっても大型化にかかるコストはデカすぎる。
実際に、小型ヘリコプターはたとえばロビンソンR44という機体(4人乗り)なら1機6000万円程度から買えて、最高速は240km/h、航続距離は500km以上あります。電動マルチコプターはスカイドライブ社のSD-05(3人乗り)だと機体価格2億円、最高速度が100km/hで航続距離が15kmです。これは生産数が少ないから値段がこなれてないとかそういうレベルの話ではなく、純粋に石油燃料で飛ぶヘリコプターの優位性の話なんです。バッテリーは嵩張る上に重いんです。……嫌になるほど。
この電動マルチコプターの筋の悪さを機構で多少なりともマシにすることはできますよ。例えばティルトローター機にしてプロペラで垂直に上昇した後でプロペラを水平に倒して推進力として使い、揚力は翼で得るとかいう方法があります。今度の大阪万博で使われる予定の「eVTOL Joby S-4」(6ティルトローター)とか「VX4」(4ティルトローター+4ローター)はこの方式ですね。これだと電動飛行機というジャンルになるので航続距離はちょっとだけ伸びます。ただプロペラ面を水平に傾ける機構がコスト増になりますがそこは電費の向上と比較検討したらメリットはあります。(VX4は上昇/推進用のプロペラとは別に上昇専用のプロペラも持つ機体みたいですね。水平飛行時にはデッドウェイトにはなりますが推進用のプロペラを上に向けるだけでは上昇できなかったのでしょう)
しかしこういう努力をしても結局のところ電動マルチコプターはヘリコプターにあらゆる面で劣っている下位互換の劣化版でしかないわけで。面白い玩具ではあっても実用性のあるモビリティにはなり得ません。前述した小型のヘリコプターであるロビンソンR44を改造して電動ヘリコプター化したeR44という機体があるのですが、これ実はどの電動マルチコプターよりも航続距離・飛行可能時間が長いんですよ。マルチコプターの筋の悪さを捨てれば電動でもけっこういけるんです。つまり・バッテリー&モーターは燃料&エンジンに比べて重く非力・マルチコプターという形式はヘリコプターよりも非効率という物理的な制約がある限り、電動マルチコプターは実用モビリティ(笑)にはなりえないと思います。
しかし「空飛ぶクルマ」を標榜してるんだったらなんで「ターボシャフトエンジンのヘリコプターの自動運転」って言い出さないんでしょうか。
・電動化・無人制御・IT化、ネットワーク化
これって別個のものであって全部電動マルチコプターでやらなきゃいけないものじゃないですよね?
いまの石油燃料燃やしてタービン動力で飛ぶヘリコプターを無人運転させれば航続距離も飛行時間も全部解決できちゃいますよ。なんでやらないんです?
それはたぶんいま「空飛ぶクルマ」を開発しようとしてる連中がIT屋だから「ターボシャフトエンジンもヘリもわかんねえよ」と忌避してるだけなんじゃないでしょうか。
ホントは「空飛ぶクルマ」を作りたいんじゃなくて、手のなかにある技術で飛行機械を作りたいというエゴなんじゃないですか?(まあそのエゴが悪いってわけじゃないです。ライト兄弟だって非効率なのにエンジンとプロペラを自転車のチェーン(ライト兄弟は自転車屋)でつなぎましたから。技術屋ってのはそういうもんです)
エゴのほかにも、「空飛ぶクルマ」と銘打てば今なら簡単に予算が下りるってのもありますよね。各方面のロビー活動のおかげで今なら「空飛ぶクルマ」って書けば国から簡単に予算が降ってきます。「電動ヘリコプター」じゃダメですよねそりゃ。
まあ現状の結論として、電動マルチコプターは無人の小型で空撮用・レジャー用機材としてなら成り立つが、人を載せて飛ぶのならヘリコプターにしたほうがあらゆる面で優れた選択肢である、とゆー事なんです。
しかしここまで長々書いたけどここじゃなくてnoteにでも上げればよかったなと思いつつまあいいや
まず大雑把に言うと、BEVで出遅れたのは、BEVが不合理だと考えた合理思考にある。
個別の議論は長くなるのでかいつまんで、・巡航が固定翼ベースの機材がeVTOLの本命だろう・非固定翼系は短距離用なら必ずしも否定しない(現在のバッテリー技術では無理筋)・固定翼系でもティルト機構を廃したリフト+クルーズ方式が有利だろう・最初の実用機はハイブリッドが本命だろう(それでもCO2削減効果は大きい)
エンジンありの無人ヘリならヒロボーが前から手掛けてますね。というかいわゆるドローンなどが登場する前から販売されています。
ヤマハ発動機が農薬散布用等でずっと昔からやってるでしょ
ヘリコプターは滑走路要らないとはいえ通常運用では垂直離着陸しないんだからそもそもeVTOLと比較するものじゃないのになあ。
まあ、Skydrive SD-05のスペックが箸にも棒にもかからないことには同意。
ChatGPTで要約してきて。
つ 電動マルチコプター、端的に言って筋が悪い
空撮や小さい荷物の配送などにはよいとしても、人を載せて飛ぶ規模になると向いてなさそう。
天然知能で要約:電動マルチコプターは小さいモデルを作って見せて、2乗3乗法則を理解していない間抜けから金を集めるのに向いている。
昆虫を例えに大型化したら空飛べないことを説明したら理解してもらえることもある。半数ぐらいはそれでも理解してもらえないが。
半数も理解してくれる人がいるなんて理系の人ばっかの特殊な環境ですか?
オスプレイすげー!まで読んだ。
いや実際、オスプレイはすげーです。オスプレイについてるのはただのプロペラじゃなくてサイクリックピッチコントロールのできる回転翼なんですよ。
https://business.nikkei.com/atcl/opinion/16/021900056/050200007/?P=2 [nikkei.com]
この記事でも絶賛されてますが、水平方向に実用的な速度で飛行しようと思ったら回転翼面を水平にするティルトローター機以外の方法はありえません。上向きの固定プロペラでモビリティ(笑)とか寝言ですよ寝言。
でもまあ、バッテリーとモーターの組み合わせは筋が悪いことに違いはないです。素直にターボシャフトエンジンかレシプロエンジン積みましょう。こないだのJapanDrone2023でIHIが発表してたhttps://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2306/28/news079.html [itmedia.co.jp]ガスタービン発電機をドローンに搭載、ってのはその筋の悪さを解消する手段の一つとしてアリなんじゃないの?とは思います。(それにしてもやっぱ「貨物用」であって人を積んで運ぶのには向いてないと思います)
えーと、元コメの理論だとローター二つも付けてるオスプレイは筋悪の設計じゃないんでしょうか
効率上げるには固定翼で揚力を得てローターは水平にする方法があるって話も元コメにあるよ。それをやってるのがオスプレイって事では。
元コメの理屈がよく分からんがマルチローターは効率悪いってんだから、シングルローターでティルトするべきでしょ
それじゃ従来のヘリに戻ってしまう
細かい理屈が分からんでも「固定翼を持ちシングルローターを垂直から水平に切り替えて飛ぶ構造」を想像すれば、割と無理がある機構になるよな~くらいは分かると思うんだが・・・# センターにローターを配置、揚力から推進力に切り替えることを考えればローターを後ろに倒すのはNGだろうから倒す方向は正面# 鳥山明がデザインするような夢のある機体しかイメージ出来ない
https://en.wikipedia.org/wiki/Tail-sitter [wikipedia.org]
従来のヘリのほうが効率が良いなら、それで良いのでは?何が不満なのか。
で、お前は何が不満なの?
ちゃうねん。「回転翼のサイクリックピッチコントロール機能を省くために複数の固定ピッチプロペラで機体制御するのは小型機ではアリだが大型化するのは難しい」ってこと
(この場合「回転翼=サイクリックピッチコントロールのあるもの」「プロペラ=サイクリックピッチコントロールのないもの」と定義しています)
複数の回転翼のサイクリックピッチコントロールで垂直上昇時の機体制御を行い、水平飛行時には回転翼を進行方向に指向して推進力に替え揚力は翼で得るというのは垂直離着陸機としては理想的な形態ですよ。賞をあげてもいい。
ま、クラッチ滑りで両側のプロペラが同時に止まる欠陥が発覚したけどな。オスプレイとマルチコプター、凄いのもダメなのも似たり寄ったりだ。
この理論だとタンデムローターのヘリも筋が悪いことになりそうだがチヌークやらオスプレイやら
サイドバイサイド式や交差反転式も思い出してあげて。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%9E%E3%83%B3_K-MAX [wikipedia.org]
そうよ。だから、ソビエト連邦は1ローターの巨大ヘリ [wikipedia.org]作っている。Mi-26はローター直径32mもあり、CH-47チヌークの18mと比べても圧倒的。シングルローターなのにタンデムローターの面積合計よりも1.6倍ぐらい面積が広い。
まぁローターデカすぎてだたっ広くないと使えないだろうけどね。ソ連向きなんだろうね。
オスプレイはチルトローター機だから比較する意味が薄い。主要な飛行は固定翼機モードなので、ヘリモード時に多少効率悪くても問題無いんだろう。
※空飛ぶ車についても、チルトローター/パワードリフト機なら芽があると思う。電源は小型のガスタービンとかでね。※とはいえ、それは「車」と言えるのかと問われると、ちゃうだろ、って思うよなぁ…。
長文過ぎて読む気も暇もないので頭のほうだけ。
> 皆様よくご存じのことと思いますが、ヘリコプターの回転翼は回転しながら傾きを変えて揚力を調整しています。
皆様あまりご存知ないかもしれませんが、ヘリコプターが前進するときの推進力は前かがみになって斜め後ろ下へ気流を発生させることで進んでるのではなく(急加速時にはやる)、プロペラが回転して後方にまわった時に羽の角度を変え、後方への気流を起こして進むんですよね。
ところがマルチコプターの大半はプロペラの角度は変えず、前部の回転を下げて前かがみにして進むという話ですか?機体が斜めになるので、病人けが人搬送には適さないと。
それ以前に着座しなければならないのと、(ほぼ)二人しか乗れないことを考えると実用性はないですね。それの実験を公費で払うというのはちょっと筋が違うような。
前かがみになってると思いますよ。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/ad/Airflow_in_auto-2.jpg [wikimedia.org]
>皆様あまりご存知ないかもしれませんが、ヘリコプターが前進するときの推進力は前かがみになって斜め後ろ下へ気流を発生させることで進んでるのではなく(急加速時にはやる)、プロペラが回転して後方にまわった時に羽の角度を変え、後方への気流を起こして進むんですよね。
いったい誰からそんなデタラメを吹き込まれたの?普通に前かがみになって斜め後ろ下に推進力を発生させて前に進むんですよ。
Bardさんの要約
電動マルチコプターは、ヘリコプターよりも小型で軽量であり、操縦が簡単なため、空撮やレジャー用に人気があります。しかし、ヘリコプターと比べると、航続距離が短く、飛行時間も短いという欠点があります。また、バッテリーの重量が大きく、電費も悪いため、大型化が困難です。そのため、人を載せるような用途には向いていません。
一方、ヘリコプターは、電動マルチコプターよりも航続距離が長く、飛行時間も長いというメリットがあります。また、バッテリーの重量が軽く、電費も良いため、大型化が容易です。そのため、人を載せるような用途に向いています。
結論として、電動マルチコプターは無人の小型で空撮用・レジャー用機材としてなら成り立つが、人を載せて飛ぶのならヘリコプターにしたほうがあらゆる面で優れた選択肢であると言えます。
なんか変
ドクターヘリの運用費って年間二億円(十年前に病院関係者に聞いた)という話なんですけど、導入してからの運用費も考えてるんですかね。
電動マルチコプターのスジが悪いのはおっしゃる通りだとよくわかりました。
ふと思ったんですけどホバークラフトなら80km/hで海も陸地も移動できるからそっちのほうがいいんじゃないの?
# 大分にあったのに乗る前になくなっちゃった。
ホバークラフトは横方向のグリップが致命的に無いので、海のような広いところならともかく、既存の道路上を走行(飛行?)するのは無理じゃないかと思います。
あまり知られていませんが、ホバークラフトは浮上用より推進用の方に、動力を必要とします。特にわずかな坂になった砂浜でも、揚陸すると覿面に現れます。況して坂になると(同等高線を進む場合でも、停止する場合でも)もう悲惨。
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身近な人の偉大さは半減する -- あるアレゲ人
電動マルチコプター、端的に言って筋が悪い (スコア:5, 興味深い)
電動マルチコプターの話をする前に少しだけヘリコプターの話をしましょう。
皆様よくご存じのことと思いますが、ヘリコプターの回転翼は回転しながら傾きを変えて揚力を調整しています。
仮にヘリコプターの回転翼の傾き(迎え角)を変えないまま飛ぶと、前進するヘリコプターの左回り(反時計回り)の回転翼は機体右側では向かい風になり対気速度が速いので揚力が大きくなり、逆に左側では追い風になり揚力が減ります。
するとヘリは右側が持ち上がり左側が下がり、機体は左に傾いて(ロール)しまいます。
そうさせないために、前進中のヘリコプターの回転翼は機体右では迎え角度が小さくなり揚力は小さく、左側では大きい迎え角になり揚力が大きくなりバランスが保たれるわけです。
回転翼が一回回転するたびに機体右では迎え角を小さく、左側では迎え角を大きく、というのを繰り返してるのです。
(これをサイクリックピッチコントロールといいます。サイクリック(周期的)ピッチ(迎え角)コントロール(制御)です。)
この機構はものすごく複雑で、製造にもメンテナンスにも手間がかかります。
だったらこの機構を無くして、その代わりに複数のプロペラ(少しづつ回転面の軸の角度を変えた)を設置してそのプロペラの回転数を精密に制御することによって機体の傾きをコントロールしたらどうだろう?というのが電動マルチコプターなわけです。
(なお、この「精密に制御」というのがミソで、電動モーターだからこそ回転数の精密なコントロールが可能になりミリ秒単位での機体の傾斜制御ができるわけです。レシプロエンジンとかターボシャフトエンジンではこんな芸当は不可能です。やろうとして失敗した事例は過去に山のようにあります。ついでにいうとヘリコプターは基本的に回転翼の回転数はほぼ一定です。上昇したいから回転数を上げる、みたいなことはしません。回転翼の迎え角を全体的に大きくすることで回転翼面全体の揚力を上げて上昇します。こっちのほうはコレクティブピッチコントロールといいます。コレクティブ(全体的)ピッチ(迎え角)コントロール(制御)です。)
この「サイクリックピッチコントロールを廃した単純なプロペラをモーターに直結し回転数を電子制御すれば機体をコントロールできる」というのがドローンの成功のキモで、複雑な機構を廃したことで安価で軽量な機体を作ることができました。
しかしこれを大型化するとなると2乗3乗の法則が効いてきます。
多くのヘリコプターに使われるターボシャフトエンジンはそこそこ重いですが、そのパワーは絶大で燃料は軽く、使った分だけ軽量化していきます。
比較するに電動マルチコプターではモーターはそれ自体の重量はたいしたことはありませんが非力で、バッテリーはそもそもが重く(エネルギー密度は低い)使用しても軽くなりません。
人が乗れるくらい大型の機体を飛ばそうとすれば非力なモーターをブン回すためにバッテリーの電費が悪くなり、さらに大容量の(重い)バッテリーを積む必要性が出てきます。
さらにいうと、ヘリコプターの回転翼直径を大型化するのはさほど困難ではないですが、電動マルチコプターは「マルチ」であるがゆえに一つ一つのプロペラを大型化することは困難です。機体にぶつかるのでモーター位置を外側にオフセットしないといけなくなり重量増と抵抗増を招きます。さらにいうと、揚力は回転翼やプロペラのスイープする円の面積に比例して大きくなりますが、小さい複数の円より一つの大きな円のほうが面積は大きくなります。電動マルチコプターはここでもヘリコプターに対して不利です。
もっと付け加えると、電動マルチコプターは回転モーメントを打ち消すために隣り合ったプロペラは逆回転するように設定されますが、これも水平飛行時には揚力を打ち消す原因になりヘリコプターに対してさらに劣位になってしまいます。
つまりどういうことかと言うと、電動マルチコプターというのは無人の小さな機体には適しているが大型化することは困難で、人を載せるような用途には向いてない、ってことなんですよ。
端的に言って筋が悪い。いくら飛行システムが簡略であっても大型化にかかるコストはデカすぎる。
実際に、小型ヘリコプターはたとえばロビンソンR44という機体(4人乗り)なら1機6000万円程度から買えて、最高速は240km/h、航続距離は500km以上あります。
電動マルチコプターはスカイドライブ社のSD-05(3人乗り)だと機体価格2億円、最高速度が100km/hで航続距離が15kmです。
これは生産数が少ないから値段がこなれてないとかそういうレベルの話ではなく、純粋に石油燃料で飛ぶヘリコプターの優位性の話なんです。バッテリーは嵩張る上に重いんです。……嫌になるほど。
この電動マルチコプターの筋の悪さを機構で多少なりともマシにすることはできますよ。例えばティルトローター機にしてプロペラで垂直に上昇した後でプロペラを水平に倒して推進力として使い、揚力は翼で得るとかいう方法があります。今度の大阪万博で使われる予定の「eVTOL Joby S-4」(6ティルトローター)とか「VX4」(4ティルトローター+4ローター)はこの方式ですね。これだと電動飛行機というジャンルになるので航続距離はちょっとだけ伸びます。ただプロペラ面を水平に傾ける機構がコスト増になりますがそこは電費の向上と比較検討したらメリットはあります。(VX4は上昇/推進用のプロペラとは別に上昇専用のプロペラも持つ機体みたいですね。水平飛行時にはデッドウェイトにはなりますが推進用のプロペラを上に向けるだけでは上昇できなかったのでしょう)
しかしこういう努力をしても結局のところ電動マルチコプターはヘリコプターにあらゆる面で劣っている下位互換の劣化版でしかないわけで。面白い玩具ではあっても実用性のあるモビリティにはなり得ません。前述した小型のヘリコプターであるロビンソンR44を改造して電動ヘリコプター化したeR44という機体があるのですが、これ実はどの電動マルチコプターよりも航続距離・飛行可能時間が長いんですよ。マルチコプターの筋の悪さを捨てれば電動でもけっこういけるんです。
つまり
・バッテリー&モーターは燃料&エンジンに比べて重く非力
・マルチコプターという形式はヘリコプターよりも非効率
という物理的な制約がある限り、電動マルチコプターは実用モビリティ(笑)にはなりえないと思います。
しかし「空飛ぶクルマ」を標榜してるんだったらなんで「ターボシャフトエンジンのヘリコプターの自動運転」って言い出さないんでしょうか。
・電動化
・無人制御
・IT化、ネットワーク化
これって別個のものであって全部電動マルチコプターでやらなきゃいけないものじゃないですよね?
いまの石油燃料燃やしてタービン動力で飛ぶヘリコプターを無人運転させれば航続距離も飛行時間も全部解決できちゃいますよ。なんでやらないんです?
それはたぶんいま「空飛ぶクルマ」を開発しようとしてる連中がIT屋だから「ターボシャフトエンジンもヘリもわかんねえよ」と忌避してるだけなんじゃないでしょうか。
ホントは「空飛ぶクルマ」を作りたいんじゃなくて、手のなかにある技術で飛行機械を作りたいというエゴなんじゃないですか?
(まあそのエゴが悪いってわけじゃないです。ライト兄弟だって非効率なのにエンジンとプロペラを自転車のチェーン(ライト兄弟は自転車屋)でつなぎましたから。技術屋ってのはそういうもんです)
エゴのほかにも、「空飛ぶクルマ」と銘打てば今なら簡単に予算が下りるってのもありますよね。各方面のロビー活動のおかげで今なら「空飛ぶクルマ」って書けば国から簡単に予算が降ってきます。「電動ヘリコプター」じゃダメですよねそりゃ。
まあ現状の結論として、電動マルチコプターは無人の小型で空撮用・レジャー用機材としてなら成り立つが、人を載せて飛ぶのならヘリコプターにしたほうがあらゆる面で優れた選択肢である、とゆー事なんです。
しかしここまで長々書いたけどここじゃなくてnoteにでも上げればよかったなと思いつつまあいいや
Re:電動マルチコプター、端的に言って筋が悪い (スコア:2)
まず大雑把に言うと、BEVで出遅れたのは、BEVが不合理だと考えた合理思考にある。
個別の議論は長くなるのでかいつまんで、
・巡航が固定翼ベースの機材がeVTOLの本命だろう
・非固定翼系は短距離用なら必ずしも否定しない(現在のバッテリー技術では無理筋)
・固定翼系でもティルト機構を廃したリフト+クルーズ方式が有利だろう
・最初の実用機はハイブリッドが本命だろう(それでもCO2削減効果は大きい)
Re:電動マルチコプター、端的に言って筋が悪い (スコア:1)
>
>それはたぶんいま「空飛ぶクルマ」を開発しようとしてる連中がIT屋だから「ターボシャフトエンジンもヘリもわかんねえよ」と忌避してるだけなんじゃないでしょうか。
ヘリ屋さんの方は無人運転に対してどうなの?
協力すればいいと思うけど、IT屋さんの方は現状でも金引っ張ってこれるから、
ヘリ屋さんに利権の主導権渡したくないだけなのかなと邪推しているよ
行き詰まるまでモーターで頑張って、そのあと売れる技術をヘリ屋さんに売りつけるとかかな?
Re: (スコア:0)
エンジンありの無人ヘリならヒロボーが前から手掛けてますね。
というかいわゆるドローンなどが登場する前から販売されています。
Re: (スコア:0)
ヤマハ発動機が農薬散布用等でずっと昔からやってるでしょ
Re:電動マルチコプター、端的に言って筋が悪い (スコア:1)
乗客が乗るレベルの話ですよ?
Re:電動マルチコプター、端的に言って筋が悪い (スコア:1)
ヘリコプターは滑走路要らないとはいえ通常運用では垂直離着陸しないんだからそもそもeVTOLと比較するものじゃないのになあ。
まあ、Skydrive SD-05のスペックが箸にも棒にもかからないことには同意。
Re: (スコア:0)
ChatGPTで要約してきて。
Re: (スコア:0)
つ 電動マルチコプター、端的に言って筋が悪い
Re: (スコア:0)
空撮や小さい荷物の配送などにはよいとしても、人を載せて飛ぶ規模になると向いてなさそう。
Re: (スコア:0)
天然知能で要約:
電動マルチコプターは小さいモデルを作って見せて、2乗3乗法則を理解していない間抜けから金を集めるのに向いている。
Re: (スコア:0)
昆虫を例えに大型化したら空飛べないことを説明したら理解してもらえることもある。
半数ぐらいはそれでも理解してもらえないが。
Re: (スコア:0)
半数も理解してくれる人がいるなんて理系の人ばっかの特殊な環境ですか?
Re: (スコア:0)
オスプレイすげー!まで読んだ。
オスプレイはマジでスゴイです (スコア:1)
いや実際、オスプレイはすげーです。
オスプレイについてるのはただのプロペラじゃなくてサイクリックピッチコントロールのできる回転翼なんですよ。
https://business.nikkei.com/atcl/opinion/16/021900056/050200007/?P=2 [nikkei.com]
この記事でも絶賛されてますが、水平方向に実用的な速度で飛行しようと思ったら回転翼面を水平にするティルトローター機以外の方法はありえません。上向きの固定プロペラでモビリティ(笑)とか寝言ですよ寝言。
でもまあ、バッテリーとモーターの組み合わせは筋が悪いことに違いはないです。素直にターボシャフトエンジンかレシプロエンジン積みましょう。
こないだのJapanDrone2023でIHIが発表してた
https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2306/28/news079.html [itmedia.co.jp]
ガスタービン発電機をドローンに搭載、ってのはその筋の悪さを解消する手段の一つとしてアリなんじゃないの?とは思います。
(それにしてもやっぱ「貨物用」であって人を積んで運ぶのには向いてないと思います)
Re: (スコア:0)
えーと、元コメの理論だとローター二つも付けてるオスプレイは筋悪の設計じゃないんでしょうか
Re: (スコア:0)
効率上げるには固定翼で揚力を得てローターは水平にする方法があるって話も元コメにあるよ。
それをやってるのがオスプレイって事では。
Re: (スコア:0)
元コメの理屈がよく分からんがマルチローターは効率悪いってんだから、シングルローターでティルトするべきでしょ
Re: (スコア:0)
それじゃ従来のヘリに戻ってしまう
Re: (スコア:0)
細かい理屈が分からんでも「固定翼を持ちシングルローターを垂直から水平に切り替えて飛ぶ構造」を想像すれば、割と無理がある機構になるよな~くらいは分かると思うんだが・・・
# センターにローターを配置、揚力から推進力に切り替えることを考えればローターを後ろに倒すのはNGだろうから倒す方向は正面
# 鳥山明がデザインするような夢のある機体しかイメージ出来ない
Re: (スコア:0)
https://en.wikipedia.org/wiki/Tail-sitter [wikipedia.org]
Re: (スコア:0)
従来のヘリのほうが効率が良いなら、それで良いのでは?
何が不満なのか。
Re: (スコア:0)
で、お前は何が不満なの?
Re: (スコア:0)
ちゃうねん。
「回転翼のサイクリックピッチコントロール機能を省くために複数の固定ピッチプロペラで機体制御するのは小型機ではアリだが大型化するのは難しい」ってこと
(この場合「回転翼=サイクリックピッチコントロールのあるもの」「プロペラ=サイクリックピッチコントロールのないもの」と定義しています)
複数の回転翼のサイクリックピッチコントロールで垂直上昇時の機体制御を行い、水平飛行時には回転翼を進行方向に指向して推進力に替え揚力は翼で得るというのは垂直離着陸機としては理想的な形態ですよ。賞をあげてもいい。
Re: (スコア:0)
ま、クラッチ滑りで両側のプロペラが同時に止まる欠陥が発覚したけどな。
オスプレイとマルチコプター、凄いのもダメなのも似たり寄ったりだ。
Re: (スコア:0)
この理論だとタンデムローターのヘリも筋が悪いことになりそうだが
チヌークやらオスプレイやら
Re:電動マルチコプター、端的に言って筋が悪い (スコア:2)
サイドバイサイド式や交差反転式も思い出してあげて。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%9E%E3%83%B3_K-MAX [wikipedia.org]
Re: (スコア:0)
そうよ。だから、ソビエト連邦は1ローターの巨大ヘリ [wikipedia.org]作っている。
Mi-26はローター直径32mもあり、CH-47チヌークの18mと比べても圧倒的。
シングルローターなのにタンデムローターの面積合計よりも1.6倍ぐらい面積が広い。
まぁローターデカすぎてだたっ広くないと使えないだろうけどね。ソ連向きなんだろうね。
オスプレイはチルトローター機だから比較する意味が薄い。
主要な飛行は固定翼機モードなので、ヘリモード時に多少効率悪くても問題無いんだろう。
※空飛ぶ車についても、チルトローター/パワードリフト機なら芽があると思う。電源は小型のガスタービンとかでね。
※とはいえ、それは「車」と言えるのかと問われると、ちゃうだろ、って思うよなぁ…。
Re: (スコア:0)
長文過ぎて読む気も暇もないので頭のほうだけ。
> 皆様よくご存じのことと思いますが、ヘリコプターの回転翼は回転しながら傾きを変えて揚力を調整しています。
皆様あまりご存知ないかもしれませんが、ヘリコプターが前進するときの推進力は前かがみになって斜め後ろ下へ気流を発生させることで進んでるのではなく(急加速時にはやる)、プロペラが回転して後方にまわった時に羽の角度を変え、後方への気流を起こして進むんですよね。
ところがマルチコプターの大半はプロペラの角度は変えず、前部の回転を下げて前かがみにして進むという話ですか?
機体が斜めになるので、病人けが人搬送には適さないと。
それ以前に着座しなければならないのと、(ほぼ)二人しか乗れないことを考えると実用性はないですね。
それの実験を公費で払うというのはちょっと筋が違うような。
Re:電動マルチコプター、端的に言って筋が悪い (スコア:2)
前かがみになってると思いますよ。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/ad/Airflow_in_auto-2.jpg [wikimedia.org]
Re: (スコア:0)
>皆様あまりご存知ないかもしれませんが、ヘリコプターが前進するときの推進力は前かがみになって斜め後ろ下へ気流を発生させることで進んでるのではなく(急加速時にはやる)、プロペラが回転して後方にまわった時に羽の角度を変え、後方への気流を起こして進むんですよね。
いったい誰からそんなデタラメを吹き込まれたの?
普通に前かがみになって斜め後ろ下に推進力を発生させて前に進むんですよ。
Re: (スコア:0)
Bardさんの要約
電動マルチコプターは、ヘリコプターよりも小型で軽量であり、操縦が簡単なため、空撮やレジャー用に人気があります。しかし、ヘリコプターと比べると、航続距離が短く、飛行時間も短いという欠点があります。また、バッテリーの重量が大きく、電費も悪いため、大型化が困難です。そのため、人を載せるような用途には向いていません。
一方、ヘリコプターは、電動マルチコプターよりも航続距離が長く、飛行時間も長いというメリットがあります。また、バッテリーの重量が軽く、電費も良いため、大型化が容易です。そのため、人を載せるような用途に向いています。
結論として、電動マルチコプターは無人の小型で空撮用・レジャー用機材としてなら成り立つが、人を載せて飛ぶのならヘリコプターにしたほうがあらゆる面で優れた選択肢であると言えます。
なんか変
Re: (スコア:0)
ドクターヘリの運用費って年間二億円(十年前に病院関係者に聞いた)という話なんですけど、導入してからの運用費も考えてるんですかね。
電動マルチコプターのスジが悪いのはおっしゃる通りだとよくわかりました。
Re: (スコア:0)
ふと思ったんですけどホバークラフトなら80km/hで海も陸地も移動できるからそっちのほうがいいんじゃないの?
# 大分にあったのに乗る前になくなっちゃった。
Re: (スコア:0)
ホバークラフトは横方向のグリップが致命的に無いので、海のような
広いところならともかく、既存の道路上を走行(飛行?)するのは
無理じゃないかと思います。
Re: (スコア:0)
あまり知られていませんが、ホバークラフトは浮上用より推進用の方に、動力を必要とします。
特にわずかな坂になった砂浜でも、揚陸すると覿面に現れます。
況して坂になると(同等高線を進む場合でも、停止する場合でも)もう悲惨。