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通常,X線に対する屈折率(の実部)は1+δで表され,δは負の値を取る.なお,通常のX線の領域ではδは大雑把に10-5程度の大きさとなる.ここでδは電子による散乱(トムソン散乱)などにより引き起こされ,X線のエネルギーの逆二乗に比例する.このため波長が短くなると屈折率は急速に1に近づく.
今回,このような屈折率の測定をガンマ線領域(182, 517, 786, 1165, 1951keV)に適用した.すると,リファレンスビームに対し,Si結晶を通したガンマ線では10 nanoradianオーダーの屈折が確認された.δで言うと,上記の5つのエネルギーに対しそれぞれ-1.11*10-8, -4.63*10-10, +1.83*10-10, +1.48*10-9, +1.11*10-9であった.
ここからわかる事は,まず517keVと786keVの間でδの符号が反転していること,それ以上のエネルギー領域ではδが小さくなるものの前述の「エネルギーの逆二乗」から比べると遙かに緩やかな減衰を示すこと,の2点である.
この挙動は,通常のトムソン散乱に加え,Delbrück散乱(*)を考慮に入れることでよく説明出来る.
*Delbrück散乱:強電場中での光子の散乱の一つ.光子が一時的に電子-陽電子ペアとなり,それがまた光子に戻る過程を通しての散乱(確か).とんでもない強電場が必要となるので,通常は超強力な集光したレーザー中や,原子核のごく近傍以外では無視出来るほど小さい.今回の場合,ガンマ線が原子核の近傍を通るパスでこの散乱が引き起こされ,屈折率にわずかな影響を及ぼしている.
Delbrück散乱は低エネルギー側から1MeV(=電子-陽電子対の生成エネルギー)あたりにかけてほぼ平坦(やや微増),1MeVあたりで小さな山を持ち以後のエネルギーでなだらかに低下する.通常のトムソン散乱がもっと急速に減衰するため,1MeV以上の領域ではDelbrück散乱が屈折率への寄与で支配的になり,これに伴いδの符号の変化と(この領域ではトムソン散乱は負の値,Delbrück散乱は正の値を取る),1MeV以上の領域での(これまでの予想に比べれば)比較的大きな屈折率が実現している.
Delbrück散乱のn次の摂動項は,強電場の発生源となる原子核の原子番号Zに対しZ2nで効いてくるので,重原子を使えばδの値をそこそこ大きくすることも可能であると予想される.例えば金を使って(Delbrück散乱が一番良く効く)1MeVのガンマ線を曲げる場合,屈折率1+δにおけるδの値は10-5のオーダーが期待出来る.これは現在のX線光学系に用いられるX線集光用ミラーなどと同等の屈折率(ただし,δの符号は逆だが)となる.
どうもありがとうございます。従来考えられていたよりは(通常の散乱とは異なる効果の寄与によって)大きく屈折することが判った、という学問上の興味はあれど、今回使われたシリコンではかなり屈折率は小さいので、これでただちに「ガンマ線レンズが作れる」とはならなさそうですね。
とはいえ、ガンマ線の取り扱い(?)に新しい選択肢が加わることになるので、誰かがうまい応用を思いついてガンマ線光学に革命が!…なんて可能性もなくはないのでしょうけど。
金やそれに類するぐらいの重原子を使えば現在のX線光学系と同程度の屈折率は実現出来るようですので,http://www.asicon-tokyo.com/imt01.php [asicon-tokyo.com]のような多段のレンズを鉛や(何かの容器に満たした)水銀で作れば,ガンマ線レンズは出来そうな気がします.使い道があるのかどうかはよくわかりませんが.回折を使ったガンマ線用レンズはあったはずなので,それに比べてどういう利点があるか,というあたりがポイントなんでしょうけど,よく知らないのでいまいちわかりません.
ビームラインの予算申請書の品目に「金塊」とか書かれる日が来るのか。胸が熱くなるな。
鉛ブロックで十分。無駄金使うな。そこらへんに転がってるだろ(笑
最近は鉛も毒性が問題になることが多くて気軽に使わせてくれないのですよ。
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計算機科学者とは、壊れていないものを修理する人々のことである
いつものごとく流し読み (スコア:2)
通常,X線に対する屈折率(の実部)は1+δで表され,δは負の値を取る.なお,通常のX線の領域ではδは大雑把に10-5程度の大きさとなる.
ここでδは電子による散乱(トムソン散乱)などにより引き起こされ,X線のエネルギーの逆二乗に比例する.このため波長が短くなると屈折率は急速に1に近づく.
今回,このような屈折率の測定をガンマ線領域(182, 517, 786, 1165, 1951keV)に適用した.すると,リファレンスビームに対し,Si結晶を通したガンマ線では10 nanoradianオーダーの屈折が確認された.δで言うと,上記の5つのエネルギーに対しそれぞれ-1.11*10-8, -4.63*10-10, +1.83*10-10, +1.48*10-9, +1.11*10-9であった.
ここからわかる事は,まず517keVと786keVの間でδの符号が反転していること,それ以上のエネルギー領域ではδが小さくなるものの前述の「エネルギーの逆二乗」から比べると遙かに緩やかな減衰を示すこと,の2点である.
この挙動は,通常のトムソン散乱に加え,Delbrück散乱(*)を考慮に入れることでよく説明出来る.
*Delbrück散乱:強電場中での光子の散乱の一つ.光子が一時的に電子-陽電子ペアとなり,それがまた光子に戻る過程を通しての散乱(確か).とんでもない強電場が必要となるので,通常は超強力な集光したレーザー中や,原子核のごく近傍以外では無視出来るほど小さい.今回の場合,ガンマ線が原子核の近傍を通るパスでこの散乱が引き起こされ,屈折率にわずかな影響を及ぼしている.
Delbrück散乱は低エネルギー側から1MeV(=電子-陽電子対の生成エネルギー)あたりにかけてほぼ平坦(やや微増),1MeVあたりで小さな山を持ち以後のエネルギーでなだらかに低下する.通常のトムソン散乱がもっと急速に減衰するため,1MeV以上の領域ではDelbrück散乱が屈折率への寄与で支配的になり,これに伴いδの符号の変化と(この領域ではトムソン散乱は負の値,Delbrück散乱は正の値を取る),1MeV以上の領域での(これまでの予想に比べれば)比較的大きな屈折率が実現している.
Delbrück散乱のn次の摂動項は,強電場の発生源となる原子核の原子番号Zに対しZ2nで効いてくるので,重原子を使えばδの値をそこそこ大きくすることも可能であると予想される.例えば金を使って(Delbrück散乱が一番良く効く)1MeVのガンマ線を曲げる場合,屈折率1+δにおけるδの値は10-5のオーダーが期待出来る.これは現在のX線光学系に用いられるX線集光用ミラーなどと同等の屈折率(ただし,δの符号は逆だが)となる.
Re:いつものごとく流し読み (スコア:2)
どうもありがとうございます。従来考えられていたよりは(通常の散乱とは異なる効果の寄与によって)大きく屈折することが判った、という学問上の興味はあれど、今回使われたシリコンではかなり屈折率は小さいので、これでただちに「ガンマ線レンズが作れる」とはならなさそうですね。
とはいえ、ガンマ線の取り扱い(?)に新しい選択肢が加わることになるので、誰かがうまい応用を思いついてガンマ線光学に革命が!…なんて可能性もなくはないのでしょうけど。
Re:いつものごとく流し読み (スコア:1)
金やそれに類するぐらいの重原子を使えば現在のX線光学系と同程度の屈折率は実現出来るようですので,
http://www.asicon-tokyo.com/imt01.php [asicon-tokyo.com]
のような多段のレンズを鉛や(何かの容器に満たした)水銀で作れば,ガンマ線レンズは出来そうな気がします.使い道があるのかどうかはよくわかりませんが.
回折を使ったガンマ線用レンズはあったはずなので,それに比べてどういう利点があるか,というあたりがポイントなんでしょうけど,よく知らないのでいまいちわかりません.
Re: (スコア:0)
ビームラインの予算申請書の品目に「金塊」とか書かれる日が来るのか。
胸が熱くなるな。
Re:いつものごとく流し読み (スコア:1)
--ただ重原子でいいなら、鉛やビスマスあたりがいいのかな?
Re: (スコア:0)
鉛ブロックで十分。無駄金使うな。そこらへんに転がってるだろ(笑
Re: (スコア:0)
最近は鉛も毒性が問題になることが多くて気軽に使わせてくれないのですよ。