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SS1の日記: プレートテクトニクスを否定する地震予知学 2

日記 by SS1

角田史雄,『地震の癖 いつ,どこで起こって,どこをとおるのか?』,講談社+α新書

こないだ,本屋で見つけた新書。同書の著者は,埼玉大学教授の角田史雄さん。現役の大学教授のようです。はじめにオビにある紹介を呼んでもらいましょう。

地震を起こすのは,「マグマの活動」です。マグマが地球をつくってきた,といっても大げさではありません。そのマグマが現在も,地殻変動を起こしているのです。

こ・・・ これは! と直感にしたがって購入してしまいました。

地震を起こすのは,「マグマの活動」です。

これは,地震波トモグラフィによって得られたマントル温度分布の最新知見に基づく,筆者独自の仮説のようです。

最新の技術によって,地球内部のマグマがどのような動きをしているのかがわかってきました。地球内部では「スーパープリューム」と呼ばれる,高温の熱の通り道があります。
-- p.5

すでに,違和感を覚えた方もいらっしゃるとおもいますが。一般的には「地球内部のマグマ」ではなくマントル,「高温の熱の通り道」ではなく地球規模の熱対流。といわれてるはずです。それはさておき,次の段が彼の説です。

スーパープリュームによって運ばれる熱は,行く先々で,岩盤を膨らませて破壊し,地震を起こします。そのルートが決まっているため,地震が起こる場所も決まっているのです。
-- p.5

そのルートに彼は,たとえば「MJルート」と独自に名づけて研究しています。MJルートというのは,マリアナ海溝から小笠原諸島へ抜ける,地震帯と火山帯のルート。マリアナ・日本でMJってことですね。フィリピンから日本につながる地震帯が「PJルート」。これらルートに沿ってトンガ近くの「スーパープリューム」から,熱が移送されることで火山活動および地震活動を起こす。ということらしいです。いわゆる「プリューム・テクトニクス」の説明とは,ちょっと違うところが同氏の説の特徴であります。この違いの原因は次の一点につきると思います。

地震の原因はプレートではない

そうです。この先生はプレートテクトニクス説を否定されていらっしゃるのです。本書では,第一章を費やしてプレートテクトニクス理論を否定します。本書の説明(p.14)によれば,同理論は1969年末に日本に持ち込まれ,「当時の研究者はたちまちこの理論の虜」になったそうです。そして小松左京の『日本沈没』ベストセラーになるなど社会現象化し。その後「地震予知連絡会」が発足しますが,この地震の予知事業の基礎理念として,プレートテクトニクス理論があったといいます。ふむふむ,いわゆる駿河トラフとかでやんすね。

で,東海沖のほかに南関東も観測強化地域にしていされたんだそうですが,同書によれば,指定された理由は「東海沖は昔から大きな地震の多いところ,南関東はプレートが沈み込んでいて,歪が蓄積され,大地震の危険性がある場所とかんがえられたからです。 -p.15」とのこと。科学者の常識は一般人の非常識といいますか,私なんかは南関東は「南関東69年周期説」で知られるように地震が多くて,東海沖は駿河トラフのもぐりこみ(いわゆるプレート性の地震)なんだとおもいましたが,先生にとっては逆のようであります。

日本独自のパラダイム転換

そして,地震予知連絡会を設置した測地学審議会は,2004年に南関東を観測強化地域から外しました。その具体的な理由はいまだにはっきりしないそうです。まあ,普通は「南関東69年周期説」が否定されたんだと思うわけですが。ところが同氏は次のように断言します。

しかし,この(南関東)地域が観測強化地域に経緯を考えれば,「プレートの沈み込みによる大地震の危険性はない」との結論に達したからこそ,こうした措置がなされたことは確かです。
-- p.17,カッコ内はSS1の注釈

はふー。もう私にはこのあたりでおなかいっぱいなんですが,彼自身にはそう断言できる理由があるようです。ひとつは,彼の専門である構造地質学の立場から,かれは「36年間,関東甲信越地域を中心に山や丘陵をくまなく歩いて,断層の割れ方やズレ方,またその時代について調べてきました。-- p.6」とのこと。彼が「大地の動きは,地球内部の熱や,それから生まれたマグマなどによって支配されている --p.19」と実感したのが,こういう現場で,自分の目でしっかりと確かめた経験からだそうです。

いやほんと,自分の目で確かめるというのは大切ですね。また,その実績も評価されてるようで,Wikipediaの記述によると,1987年に地学団体研究会から地球科学賞を授与されているそうです。

「地団研」といえば,PT理論否定派の牙城として知られてる組織ですが,それだけじゃなないのですね。自分の足で調査して,
「丹沢地域の南にあり,伊豆・箱根の真北に位置する足柄地域を調査してみると,プレートの衝突や沈み込みは存在しないことがはっきりわかります --p.19,強調はオリジナルは傍点」とおっしゃってます。

またこの論文も書いており,2002年に日本地質学会で認められることになったそうです。さがすとサイニィに地質學雜誌の掲載論文があります。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110003013247/

あたしゃ,アブストラクトでおなかいっぱいなので,本文は読んでませんが。確かにPTを否定してるようです。2002年に。かれはそれをこう記しています。

私は,その事実を2002年に論文で発表しました。すると,「観測ポイントが10ヶ所とすくないのではないか」などとさまざまな意見や疑問が呈され,OKが出るまで長い時間がかかりました。しかし,結局,事実に基づいた理論が通り,私の論文は,日本地質学会で認められることになったのです。それまでの常識論が崩れた瞬間でした。-- p.20

私の常識も崩れた瞬間でした。2001年のネイチャーにヒマラヤとモンスーンの関係を考察するプレートテクトニクスの新理論があるってのをこないだ知ったばかりでしたから。

日本では,その真逆の理論が承認され,南関東の「太平洋の巨大岩盤が衝突して,大地震を起こす場所--p.20」という説が根底から覆されることになったそうです。

--
いやもう,ここらでおなかが完全にいっぱいになったので,本書の紹介は終了します。ともあれ本書は「戦後日本の地球科学史」に一石を投げかける著書であることは間違いないでしょう。

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • by Anonymous Coward on 2009年09月21日 23時24分 (#1642923)
    刺激的なことが書かれてることが多いけど、中身を読めばさほどでもない。
    そんな経験したことありません? 書のタイトルも同じ。売れることを目的に
    編集が付けてることが多く、著者の意向が反映され難い部分だよ。

    だから、中身を読まずに書を語るな、は常識。
    • by Anonymous Coward

      >だから、中身を読まずに書を語るな、は常識。

      いや、どう見ても中身を読んで(といっても最初のあたりまでですが)書いているようにしか見えませんが。

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私はプログラマです。1040 formに私の職業としてそう書いています -- Ken Thompson

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