パスワードを忘れた? アカウント作成
1380375 story
サイエンス

「不確定性原理」を破る「小澤の不等式」、実証される 47

ストーリー by hylom
第三のパラメータ 部門より
Aluminum-Carbideおよびinsiderman 曰く、

ハイゼンベルクによって1927年に提唱され、量子力学の基礎原理とされている「ハイゼンベルクの不確定性原理」が、常には成り立っていないという実験結果が公表された(読売新聞Nature Physics掲載論文)。

日経サイエンスに分かりやすい解説が掲載されているが、「小澤の不等式」はハイゼンベルクの不確定性原理を否定するものではなく、より正確に現象を表すものとなる。

不確定性原理というのは、量子力学においては物体の位置と運動量を同時に厳密に測定することはできない、というもの。位置を正確に測ろうとすると運動量の測定結果は不正確になり、逆に運動量を正確に測ろうとすると位置の測定結果は不正確になる、とされている。

一方、「小澤の不等式」では物体には「量子ゆらぎ」という性質があり、この概念を利用すると位置と運動量の両方を正確に測ることができる、という考えが導入されている。

実証を行ったのは、ウィーン工科大と名古屋大の研究チーム。原子核を構成する中性子について、「片方を測定するともう片方の乱れが大きくなる」というスピンの成分を測定、ハイゼンベルクの式が成り立たないことを証明した。これにより「小澤の不等式」の正当性を示せたという。

この成果は基礎科学の発展にとどまらず、ナノサイエンスの新たな測定技術、重力波の検出、量子暗号の開発への応用が期待できる。

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • うむ (スコア:3, おもしろおかしい)

    by clay (41656) on 2012年01月16日 19時45分 (#2081477) 日記
    >ハイゼンベルクの式が成り立たないことを照明した。

    確かに輝かしい研究成果ではありますね
  • phason先生の解説 (スコア:3, 参考になる)

    by Anonymous Coward on 2012年01月16日 19時57分 (#2081487)

    http://srad.jp/~phason/journal/545225 [srad.jp]
    測定系による擾乱から量子の波動性へつなげる説明ってどうにも胡散臭くて仕方ないとずっと思ってたんだけど、そもそも別物だったのか。それが数式の上で明確化された上に実験的にも確認されたというんだからすごい進歩だ。

    • by Anonymous Coward

      phason先生って何者なの?
      スラドの中でもずば抜けて博識だよね。
      ずっと前からすごく気になってるんだけど、正体を明かして活動されてたりするの?
      マジで尊敬してやまない。

    • by Anonymous Coward

      むしろハイゼンベルクすげぇ。
      測定誤差という発想から始まって、勘違いの結果とはいえ、そして結局間違っていたとはいえ、
      全く関係ない量子の波動性の問題を探り当ててしまうなんて。

  • by kamesan (23069) on 2012年01月16日 23時08分 (#2081611) 日記

    小澤の不等式については一般向けに紹介する書籍が既に出ています。
    ハイゼンベルクの顕微鏡 [amazon.co.jp]
    不確定性原理を中心として、量子力学の発展史を紹介する本としても良著だと思いますので、
    興味がおありの方はどうぞ。

  • 以前、フーリエ変換の不確定性について、ちょっとした工夫で抜け道を見つけまして、そんなときに量子力学の不確定性とそれが数学的に同じものだと知り、小澤の不等式にたどり着きました。
    もしかしたら量子力学でも同じようなことができるということなのかな、というのが疑問でした。まだよくわかっていないのですが。

    そういう意味で、今回のことはとても興味深いです。

  • by DesKwa (35996) on 2012年01月16日 20時03分 (#2081492)

    相対論 [srad.jp]に続き量子力学も見直しが必要になるとは、
    1900年代の初頭に相対論、量子力学が出た様な
    新しい物理学の発見を目の当たりにしているようで良いですね。

    #光速越えはまだ検証中ですが。

    • by phason (22006) <mail@molecularscience.jp> on 2012年01月16日 20時22分 (#2081507) 日記

      >量子力学も見直しが必要になるとは

      今回のお話は完全に(古典的な)量子論の範囲で展開されている話ですので,量子論の見直しには繋がりません.
      #Heisenbergの不確定性に関する,学部の講義などでの間違った解説の見直しは必要です.

      今回の話を単純に説明すると,

      1. 「不確定」をもたらす以下の二つの別の原因がある.

      (a) 量子系には元々共役な物理量の間に不確定性がある.例えばx方向の位置と運動量が両方とも厳密に決まった状態というものはあり得ない.

      (b) ある物理量を測定すると,系を乱すことによって共役な物理量の測定にばらつきを与える.位置を測定しようとする行為が運動量に影響を与えてしまうので,位置を決めると運動量に不確定な部分が出る.

      2. Heisenbergが両者をしっかり区別せずに……というか,不確定性の原因は(b)だけだと思ってHeisenbergの不等式を提案.

      3. Kennard,Robertsonらが,(a)の方の不確定性に関して数学的にしっかりとした基礎を与え証明.

      4. Heisenbergが,「よし,不確定性のしっかりした基礎が出来たから,これで問題ないな」と満足して時が流れる.

      5. 測定技術の進歩とともに,「あれ?あまり運動量に影響を与えずに位置を測定する手法があるんじゃね?」といろいろな測定法が提唱される.

      6. 小澤先生が,「いや,だからそれはそもそもHeisenbergが測定による擾乱と量子系の元々の不確定性を区別しないで定式化したから変なことになるんだ」と,そもそもの量子系の不確定性と,観測行為による擾乱の両方を含んだ小澤の不等式を提示(2003年).
      また同時期に, いろいろ実験が行われ,Heisenbergの不等式を破る結果がいくつか報告される.

      7. 単にHeisenbergの不等式を破るだけではなく,「小澤の不等式」で定量的にきれいに再現できる測定結果が示される(←いまここ)

      という流れだと思います.

      親コメント
      • by DesKwa (35996) on 2012年01月16日 20時56分 (#2081532)

        つまり
        旧:(a)の式:Kennard,Robertson作、(b)の式:なし((a)の式と同じと扱われる)

        新:(a)と(b)の式:小澤の不等式
        と云う事ですね。

        少なくとも、以前から(b)は(a)の式とは違う(のでは?)、
        と考えられていたんですね。これは知らなかったです。

        親コメント
        • by Anonymous Coward

          いや、
          旧:(a)の式:Kennard,Robertson作、(b)の式:小澤の不等式
          ということで、量子系の不確定性については、何ら変更されていません。

      • by Anonymous Coward

        早い話、Z項の発見みたいなもんか。
        #で、あってる?

      • by Anonymous Coward

        ノーベル賞が云々という話が上にありますが、こういう観測がらみの話でノーベル賞とった人っているんでしょうか。

        例えば今回の話と、ベルの不等式とどちらが重要と思われますか?
        (ジョン・スチュワート・ベルはノーベル賞もらってないので。)

        • >観測がらみの話でノーベル賞とった人

          観測がらみ,という区分けがなかなか難しいかもしれません.
          「測定法」というところになると結構居ますし,観測の元となる「理論の構築」を含めばそれはそれでまた結構居ます.
          が,純粋な意味で「観測行為」というものの物理となると,そもそものターゲットをかなり絞ってしまっていますので……
          #そこまで対象を絞るなら,多分今までには居ないと思いますが.
          #今後,観測問題をスッパリと解決するエレガントな何かが出てきたら該当するかもしれません.

          >今回の話と、ベルの不等式とどちらが重要と思われますか?

          さすがにそれを比べると,ベルの不等式の方がインパクトがあったと思います.あちらはある意味,今まで出来ないと思われていたことを評価できるようになるわけですので.
          今回の話はそれと比べると,「今までごたまぜにされていい加減なまま放置されていたことを,しっかりと再構築した」という感じではないかなあと.
          #とは言え,小澤先生の仕事も素晴らしいものです.
          #今後の精密測定における理論限界などにも関わってきますので,純粋物理的と言うよりは,
          #実用的な意味での「重要性」は高くなる可能性もあるかもしれません.

          親コメント
      • by Anonymous Coward

        これって量子系に対する観測は古典系との相互作用、というある意味極端条件に基づいた不確定性原理が、観測対象と観測する系両方を量子系と取り扱うと不確定の範囲に修正が入った、ということでしょうか?

        済みません、よく解ってなくて。

        • by phason (22006) <mail@molecularscience.jp> on 2012年01月17日 1時19分 (#2081663) 日記

          以下,単純のために位置と(それと共役な)運動量で話をします.
          元々のHeisenbergの主張は,

          ・位置を精密に測定しようとすればするほど,運動量を大きく乱す測定手法となってしまう.だから位置と運動量の不確定性の積はある値より小さくできない

          というものです.つまり,元々の位置と運動量がきっちり決まっていようがなんだろうが,測定でかき乱されるから,両者を同時にきっちり決めるのは無理だ,という主張です.

          さて,これとは別に,量子論そのものに由来する不確定性があります.つまり,

          ・位置と運動量はそもそも測定と関係なくある程度の不確定性を持っており,その不確定性の積はh/4πより常に大きい.

          これは量子論が波の力学に近いところに由来します.例えば位置の決まった波というのはデルタ関数になりますが,これは数学的には無限個の波長の異なるサイン波の重ね合わせになります.波長は運動量に関連していますので,デルタ関数状の波というのは様々な運動量の重ね合わせ=運動量の不確定性が大きい,とならざるを得ないわけです.

          簡単にまとめますと,

          Heisenbergが考えた不確定性:主に観測により系が乱される効果.測定に由来する不確定性.

          量子力学の本質から来る不確定性:そもそも共役な物理量は同時に決められない.測定する前から存在する不確定性.

          という二つが存在します.
          当たり前ですが,この二つは別なものです.別なものですが,まあいろいろと歴史的な流れもあり,その区別があまり意識されないまま量子論が一気に発展してしまいました.で,両者がごちゃごちゃに使われている,と.
          (「測定」のセッティングによっては,両者を混同しやすいそれなりに正当な理由もあるので,まあごっちゃになることもあるのです)

          で,この「系が元々持っている不確定性」と「観測により系が乱される効果」という二つをちゃんと区別して,両方の効果を合わせると最終的な観測結果としてどういう不確定性が出てくるのかを考えようじゃないか,と定式化したのが小澤先生です.系は元々量子論的な不確定性を持っています.それがさらに測定によって乱され,最終的に我々が測定結果を得られるわけで,ちゃんと両者の効果を入れましょうよ,と.
          つまり,

          測定前の系(量子論的な不確定性) → さらに観測による擾乱(Heisenbergが主に考えていた効果) → 最終的な観測結果(さて,どうなる?)

          というものになります.

          親コメント
          • by Anonymous Coward

            神が振っていたダイスは実は6面ではなく4面だったんだよ!!
            くらいの認識でいいですか?

            • by Anonymous Coward

              6面のダイスの運動と出目は別だから、出目の方に不確定性を押し込めば、
              ダイスの運動を確定させる事が出来るって事。

          • by Anonymous Coward

            「この料理が不味いのは、安物の食材とお前の腕の両方が原因だ」って感じで?

  • by Anonymous Coward on 2012年01月16日 20時15分 (#2081501)

    http://www.nature.com/nphys/journal/vaop/ncurrent/full/nphys2194.html [nature.com]
    観測の意味を明確にしたということかな。ハイゼンベルクが不確定性原理を出したときは、たぶん観測問題ってまだあまり明確に意識されていなかったと思うので。

    それにしてもこういうアイデアを一人で考えて発表するのって勇気がいるよなー。

  • by Anonymous Coward on 2012年01月16日 19時45分 (#2081478)

    ノーベルもびっくりだな。

  • by Anonymous Coward on 2012年01月16日 20時02分 (#2081491)

    これでやっと観測問題 [wikipedia.org]が解決するのかね?

    • 残念ながら解決しません.
      あくまで,「量子系として元々持っている不確定性」と,「測定による擾乱による誤差」とをまとめてどんな関係になるか,ってのを示しただけですので,観測のプロセス(観測でなぜ波束が収縮するか)そのものは取り扱っていません.

      親コメント
      • ただ観測問題の2つの側面

        • 観測という行為による観測対象への影響
        • 量子波束という性質からなる本質的な不確定性

        を明確に区分して説明しやすくなったんではないかと思います. 特に通俗的な解説では前者を示して不確定性としている場合が多く(例えばこの読売新聞の記事 [yahoo.co.jp]なんかがそうですね), 観測すると初めて不確定性が生じるという誤解を広めてきたのではないでしょうか.

        それが少しでも改善されればいいなとは願っています.

        親コメント
      • by Anonymous Coward

        例えば、判子絵のような萌えキャラの個々の違いが、
        描き手の下手糞によるものか、キャラの書き分けによるものか、
        これまで違いが分からなかったが、それを明確に区別する方法を確立した、みたいな?
        # これまでモノクロで見ていたが、カラーで見たらなるほど髪の色が違ってた、みたいな。

        ## 単なる茶々です。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。orz

  • by Anonymous Coward on 2012年01月16日 21時48分 (#2081563)

    これからの受験(センターなど)には影響するのでしょうか?

  • by Anonymous Coward on 2012年01月16日 22時11分 (#2081574)

    物理系の解説本とかで「時間とエネルギーは共役関係にあるから、ごく微少の時間内ではエネルギーの値は確定できず、何もない空間でも膨大なエネルギーが存在しうる」というのを見たことがあるのですが(そしてそのエネルギーが素粒子・反素粒子を生み、事象の境界線近傍で片方が飲まれることでホーキング放射が生じる・・・と理解していた)、これも変わるんでしょうか?
    それとも、そっちはもうひとつの量子ゆらぎの方?

    • by Anonymous Coward

      そっちは量子ゆらぎ(観測に関係なく、共役な物理量の間に存在する不確定性)の方だな。
      この交換関係から来る不確定性に関しては特に変更はないからそのまんま。

      • by inashiro (45190) on 2012年01月17日 12時26分 (#2081904) 日記
        ふつう、量子力学では時間は物理量(=演算子)ではありません。よって当然、時間(ただの変数)とエネルギー(物理量)は共役な関係ではありません。
        位置とエネルギーの不確定性関係の式は、ある量子的な状態遷移が起こるのにかかる時間のオーダーを与える式です。
        親コメント
  • by Anonymous Coward on 2012年01月16日 23時55分 (#2081629)

    この”量子ゆらぎ”が、イマイチ理解できない。。。

    別の状態を作り出すような作用をいっているのか、それとも、重ね合わさっている状態のことをいっているのか、、、、

    うーん、位置xと運動量pを同時に正確に測定できたときに、
    それを受け止める量子揺らぎってどんなものなんだろう?

    • by Anonymous Coward

      量子論的確率と、ハイゼンベルグ的不確定性原理は別物だと言う事を証明した。
      という事だよ。つまりこれで、量子論的揺らぎはより一層強固なものだという事に
      なって、猫は死んでないし、生きてないんだよ。

      • by Anonymous Coward

        わかんねw
        ただ一つ言えることは、学生時代(物理学科)に学んだことは何一つ残らなかったってことかな

typodupeerror

人生unstable -- あるハッカー

読み込み中...