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インターネット

インターネットの父ビント・サーフ@本家

タレコミ by yh
yh 曰く、
「インターネットの父」として知られるビント・サーフ(Vinton Gray Cerf)博士が本家のインタビューに応じている。1年前に本家に掲載されたもので、以下にその抄訳を、インタビュー翻訳企画の第15回としてお送りしたい。
原題は、"Vint Cerf Talks About Internet Changes"。TCP/IPの開発者のひとりとして、またICANNの理事のひとりとして、科学技術的また法的側面から、インターネットの利用や運営のあり方を中心に様々な側面と時代変化について思うところを語っている。

1) 匿名性についてはどうお考えですか?
Planesdragonによる

――プライバシーに関する個人の権利についてある種のモラルの議論があるにも関わらず、ひとは匿名となるとあっさりと無責任に振舞うという統計的な議論もあります。

インターネットにおける匿名性についてはどうお考えですか? 良いことですか? 悪いことですか? 語る価値もないことでしかなかったりしますか?

ビント:

匿名性については、非常に語る価値がある。プライバシー権は、ときとして、匿名の権利として表れる。ウィンドウ・ショッピングや現金決済では、個人の特定が要求されるべきではない――また多くの人々は、ネットサーフィンについても同じように感じている。あるケースにおいては、個人情報へ第三者がアクセスすることを保護するばかりでは十分ではなく、ネットワーク・ユーザに個人の特定を要求するまでの主張がなされるかもしれない。ホイッスル・ブローイングが問題になるケースにおいては、つまり、なんらかの犯罪を告発するには、保護のために匿名性が重要であるだろう。しかしながら、あなたが上に述べているように、同じ保護の仕方でも濫用の可能性をもたらすことにもなる。匿名性を悪用する力は、匿名性によって合法的に保護される力よりも、真の難問を生むのだ。だから、これは実に語るに値する。――あなたがより考えていくことに関心を持ちたい。

2) DRM?
GreyWolf3000による

――DRMについては、どういう見方をされていますか? 特に、フリッツ・チップやPalladium、MPAA/RIAAのロビイングが、インターネットを底から変えてしまうとお考えにはなりますでしょうか? 現段階でインターネットを手懐けることはできるでしょうか? できるのだとしたら、そういったDRMなどが公正な使い方を侵害するとはお見受けになりますか? 将来的には、インターネットへのアクセスを得るがために、インターネットそれ自身を蝕み始めるようなたくさんの規制がコンピュータ自体に持たされるようになっていくだろうというよく言われる恐れがありますが、それはもっともなものでしょうか?

ビント:

技術的に執行不可能な、あるいはデジタル技術の分野全体を機能不全にさせる効果をもつであろう法的政策には、私は非常に懸念している。デジタル・ミレニアム著作権法に表れたようなDRMの位置付けには、知的財産を保護すべく使われるのかもしれない暗号メソッドの情報を公開したり研究したりすることを違法とするものがあるが、これは現実的でないし、根本的に不健全だ。あなたのご心配は、十分根拠あるものだと私も思う。私も、知的財産保護のための科学技術は望ましいと強く信じる一方、「ある種の」情報は基本的に自由には共有できないようにしてしまおうという議論に悩まされている。インターネットとは大きなテントであって、高度に保護された情報からまったくオープンな情報まで広がる、たくさんの異なった運用モデルをサポートできるべきなのだ。

3) 商業的電子メールの創生期
ekroutによる

――1982年〜1986年の間、MCIデジタル・インフォメーション・サービスの副社長として、あなたは、インターネットに接続する初の商業的電子メール・サービスであったMCIメールのエンジニアリングをひっぱっておいででしたね。

エンジニアのほとんどが知るように、どんなプロジェクトでもいか程かの犠牲は負わなければならないし、金銭的制約などによって、あるべきと願った機能を諦めなければなりません。

かのプロジェクトにおいて、長としてあなたがしなければならなかった難しい決断について、お話をいただけませんでしょうか? また、そのプロジェクトで、その最終製品でやっていけると誰も考えなかったという時はありましたか?

ビント:

プロジェクトが始まったのは1982年後半のこと。デイブ・クロッカーと私がそのテクノロジの基礎部分の設計において直面した最も難しかった判断のひとつは、MCIメールにおいてはリニア・アドレッシングは採らずに、マルチライン・「アドレス」にできるようにしたことだった。MCIメールの受信者コミュニティ内の電子メール宛にも、郵便の住所宛にも、MCIメールでない宛先(例えばCompuServe)にも、Telex宛にも、そして(後には)FAX宛にも、送ってよいようにした。インターネットの電子メールの古典的なリニア・アドレッシング構造は採らずに、そういったマルチライン・アドレス体系を提供するのが重要だと結論するに至るまでには数ヶ月の討論を要した。

私たちは、業者たち(HP,DEC,アメリカン・マネジメント・システムズなど)にTCP/IPを使ってもらうよう当たってみた。けれど、インターネットやTCP/IPが彼らにはまったく知られていなかったことが想像できるかな。――で、それはただ、1983年1月1日、ARPANETで大規模な「出発」となったのだ! これにより、TCP/IPの商業的なサポートがなかったためにMCIメールに特化して開発された様々なプロプライエタリなプロトコルやX.25を使わなければならないというのはおしまいになったのだった。

私たちがMCIメールを立ち上げた時(1983年9月27日)には、ビジネス・セクターでは電子メールなんてものはあまり知られていなかった。ビジネスマンが電子メールを使うようになるなんて到底思えなかった。「接続性」を拡げることによって、MCIメールがもっと有用なものになるようにと、MCIメールの普及キャンペーンの一部としてCompuServeにMCIメールをつなげた。全般的に、電子メールがビジネス界でも広く認められるサービスとなるには、1983年から1992年までかかった。

4) TCP/IP
sdjunkyによる

――TCP/IPプロトコルについてなさったお仕事で、今から変えるとしたらどこでしょうか? 今となってみれば、それがどう利用ないし誤用されてきたかを過去回帰的に振り返ることができるわけですけれども。TCP/IPが作られたときでは思いもつかなかったものを、今から設計に採り入れるとしたら、それは何でしょうか?

ビント:

思うに、アドレス空間は32ビットより大きなものに決めておけばよかった!(その判断は、それに関する議論から1年後の1977年に行われていた。) 加えて、どの端末ユニット(「1個のIPアドレスを伴うもの」)にもそれ自身で他の端末ユニットを「認証」する方法を備えるという概念を、その設計原則に採り入れておけば賢明だったのに今となっては痛感している。現状では、そういった端末デバイスが自分で自身のIPアドレスを宣言しなければならず、それが、構造上、詐称やスプーフィングの機会を導いているのだ。それに加えて、ネットを経由する情報の機密性を高めるために、IPSECのようなエンド・トゥ・エンドの暗号メソッドを開発するある種の機会を設けておけばよかった。私は、1975年から国家安全保障局とともにインターネットのセキュア版に取り組み始めたのだった。皮肉にも。というのも、その設計の詳細は機密扱いで、その設計は、大学や産業界でインターネットの設計を展開することに勤しんでいる開発者で不確かな者とは、まったく共有されなかったからだ。

5) インターネットの欠点
Dirk Pittによる

――インターネットはしょうもなくも発展してきていますけれど、どの側面に最も失望なさっていますか?

ビント:

それは難しい質問だ。スパムや、ポルノとか不快なウェブ・サイトや、ドメイン名と商標の衝突や、検閲に執り行う当局の目論見、それらすべては、私がインターネットに失望した側面の例だ。それを相殺するような例としてインターネット上で非常に価値があるアプリケーションや情報の共有がなされていることは、そういった欠陥を埋め合わせてあまりあるように思える。一般的に言って、インターネットが、私たちの複雑で世界的な社会のすべての部分のインフラになればなるほど、私たちは、インターネットに映し出された社会のすべての側面をもっと目にするようになっていくのだ。――ネット上のユーザの人々の多様性について、ひとは現実的になっていかねばならないね。

6) 最も驚いたことは?
zero110による

――インターネットで用いるよう考案された驚くような使い方のうちで、最も(良い意味で、あるいは、悪い意味で)驚かされたのは何ですか?

ビント:

ティム・バーナーズ・リーがWWWを発明してから、その後急速に、マーク・アンドリーセンがMosaicをWWWに実装し、Netscape NavigatorやInternet Explorerやその他ウェブ実装やアプリケーションが続き、インターネットにコンテンツが雪崩れ込んでいったというのが、一番驚いたことだと思っている。もちろん、ネット上のコンテンツが信じられないほど幅広いものでがあることには、同じくらい驚きだ(あるいは、失望だ――上述のとおり)。インターネット・ラジオ、ビデオやインスタント・メッセージングには驚かなかった。1960年代の終わりから1970年代の始めごろにはそのコンセプトはすでにあったのだから。でも、何百万人ものひとがそういう機能を手にして使うようになると、過去にそういった機能を小規模に展開していたのをベースに全体がどうなるかという予想を立てるというのが難しくなったね。

7) インターネット・ガバナンス
cleetusによる

――インターネットには、最も基本的な技術レベルでも機能するように、ある種のスタンダードが必要となります。つまり、ある種のガバナンスです。ガバナンスないしスタンダードの設定の適切な範囲について、どうお考えですか? その投票資格があるのはどんな人でしょうか? ガバナンスを行うための適切なメカニズムとはどんなものでしょうか?

それらは、今現在あるようなものとはどう異なるのでしょうか? そのすべてについて、楽観的でらっしゃいますか? それとも悲観的でらっしゃいますか?

ビント:

明らかなのは、相互作用する数十億ものシステムが互換性を持つよう支えるスタンダードを、私たちは必要としているということだ。――そして、IETFで策定されている自主的なスタンダードや、様々な主体によって策定されているその他多くのものが、その相互運用性がもたらされていることによって、効果的な手段となっているように思える。私は、技術的スタンダードは、「ガバナンス」という、より一般的な言葉からは区別したい。その言葉は、技術的な相互運用性をはるかに超えた数々の問題を含んでいるのだ。ご質問では、技術的スタンダードの策定と、インターネットが機能する法的なフレームワークを、ごっちゃにしているのではないかと思わせる言い方ですね。もし、スタンダードを作る過程のガバナンスに焦点を当てることだけを意図して言っているのなら、IETFの公開手順がインターネットのユーザやプロバイダのコミュニティに長年資しているということを申し上げよう。

スタンダードの策定とインターネットの全般的なガバナンスの両方に機能しうるメカニズムを、私たちが維持し発展させていくことには、私は楽観的であり続けよう。この体系は非常に価値があるものだから、両方のニーズを満たすのに必要とされる支援が得られないことなどないのだという信念に大きく拠っているのだ。

8) ジョン・ギルモアからの手紙
Evroによる

――あなたはなぜカール・オウルバッハに反対するのかと問うたジョン・ギルモアからの書簡には返信なさっていますか? (私の知る限りでは)オウルバッハはICANNの財務書類の入手に務められた方ですよね。私の理解によると、ICANNの唯一のモチベーションは、ICANNにもっと影響力を持たせようというところにあるわけですね(例えば、その役員たちが私腹を肥やせるようにとか)。ICANNが法的には非営利組織だとすると、これはあまり倫理的なこととは思えません。

ビント:

ジョンの手紙には返信しなかった。

もしあなたが、ICANNの役員やそのスタッフたちが「私腹を肥やす」機会を持っているのだと思うなら、ファクト・シートをもっと慎重に見る必要がある。役員たちは誰一人として自分の仕事についてICANNから報酬をもらっていない――旅費の返還は例外だが、役員の多くは自分の旅費は自分で(あるいはその会社が)支払っている。

私の知る限りでは、カールの提訴から生じた裁判所命令に従って、ICANNはカールが要求した情報のすべてを彼に開示している。紛争の基本的なところは、情報をカールに開示すべきではないということでは「なく」て、むしろ、公に開示すべきはどの情報であるかという絶対的な裁量がカールにあるのか否かということだった。ICANNでは、様々なドメイン名のサービス・プロバイダから提供される専有的な情報を扱っているのだ。たとえば、私の理解では、役員の誰ににしてもいったん機密情報が公開されると、それはどう守られるのかをめぐって論争は進展したのだった。

ジョンが言うICANNの特徴づけは同意しない。ICANNはその活動のすべてについての膨大な量の情報をウェブに載せている。多くの非営利組織に比して、ICANNはよりずっと透明だし、どんな方面から寄付を得る機会もかなり大きく設けている。理性的なひとでもそんなことやこれには同意しないというなら、ジョンと私は単に物事を違く見ているというだけのことだ。

9) IPv6?
Ransakによる

――これから数年でIPv6に移行するという「計画」や宣伝を聞いています。でも、アメリカではIPv4でかなり満足しているようです。IPv6は、近い将来(2〜3年で)実現すると思いますか? ご高察では、この移行に拍車をかけることができるであろうものは(明らかなアドレスの枯渇の他には)何だと思われますか? あるいは、移行するべきではなく、NATにもっと依存するべきなのでしょうか?

ビント:

一般的に、IPv6が使えるデバイス(インターネットができる携帯電話、PDA、双方向テレビ、その他家電など)がインターネット空間にたくさん出てきたときに、その圧力ができるのだと思う。ひとはしばしば、IPv6への「キラー・アプリケーション」なんてものを考えるが、一般的に、大量のアドレス空間と簡単な設定(プラグ・アンド・プレイ)がただ利用可能となれば、十分に意義のある利点となると私は考えている。IPv4とIPv6が混在している環境というのは、管理が簡単なものにはならないだろうね。――IPv4空間の利用を「拡げる」べく今日用いられているNATは、IPv4の全世界からIPv6の全(ないしほとんどの)世界へと橋渡しをするものとして活躍する必要を明らかにするだろう。IPv6が飛躍的に浸透するのには2〜3年かかるだろうが、2005年までにはそうなると私は予想している。これは、日本でIPv6の実装が大きく進捗しているし、ヨーロッパではご存知のように「プッシュ」されているのだ。「6 by 6」のスローガンは、2006年までにIPv6を大いに発展させようという課題の一種として起こったものだ。数年内に、それが現実的なものか否かが分かるようになるだろう。

10) 人民のインターネット? あるいは人民のための?…
tekratによる

――(今あるような)インターネットが開発中の頃に目を戻しますと、それは政府の軍事プロジェクトでありました。

ビント:

ええと、アメリカ国防総省の高等研究計画局から資金を受けてはいたが、それはアメリカやイングランドやノルウェーやドイツやイタリアの大学とか研究所の院生によって設計されたものだ。

――でありながら、(90年代初めの)インターネット革命によりそれがARPA-Netから解き放たれてからは、誰でも接続でき、技術的なノウハウが十分ある者なら誰でもサーバを走らせてそのシステムの恒久的な一部分となれるという「黄金時代」を手に入れました。

ビント:

ええと、インターネットが初めて広まった1983年ごろ、APRANETはARPANET (bis)とMILNETに分離した。商業的利用は1989年ごろから。APRAPNETは1990年に、またNSFNETは1995年に役目を終えた。それは、商業アクセスやサービスの出現で、事実上誰にでも開かれたものであった。

――とはいえ、今や、おぼろげにも先が見えるようになってきました。巨大なメディア複合体が、「リンク訴訟」や、露骨なビジネス・メソッドの特許のみならず、個人は自分の家庭でサーバを走らせてはいけないとする過酷なサービス約款を通してインターネットをすべてコントロールし、人民の圧倒的多数が、インタラクティブに情報を発信するのに加わるのではなく、消極的に情報を眺めることしかできないという結果に終るだけという未来です。

ビント:

インターネットでの商業的拡大に関してのそういった問題はたくさんある。――とはいえ、ひとびとの大部分が情報を寄与できないというあなたの結論には同意しかねる。私の印象では、多くのISPでは、ウェブ・サイトに情報を掲載する機会を提供している。自宅でサーバを動かすのも未だ一般大衆向きではないけれど、サーバがもっと簡単に操作できて設定できる(プラグ・アンド・プレイ)ようになるにつれ、それは変わっていくものだと考えている。加えて、ISPは、対称で高容量のギガビット・イーサネット・サービスを提供すべく模索するようになるだろう。というのは、それが顧客のニーズに広範にサービスをするとても効率的な方策だからだ。

――みんながみんなしてサーバを動かすこと(人民のインターネット)は「良いこと」だとお考えになりますでしょうか? あるいは、政府や企業が市民への情報の流れをコントロールすること(人民のためのインターネット)の方が良いことだと信じておいでですか?

ビント:

その両方ともに価値を見つけるものでしょう。――加えて、十分な、対称容量がもたらされるまでは、ユーザは委託して自分のサーバ・サイトを運営してもらう方を好むだろうし、ホーム・サーバが自然視されるようになっても、ユーザはそういった運営を専門家に委ねる方を好むだろうし。

――それは自明な選択に見える一方、今現在の私たちの状況を想起していただくと、そこは、インターネットは「ワイルド・ウェスト」であり、メール・ボックスはspamのゴミで散らされ、また、インターネット上の風説は予想外の記事として登場する状況ですが、それが、「人民の」インターネットの直接的な帰結なのです。

したがって、どちらにしても賛成・反対があるのです。根本的には、この質問は、「あなたはワイルド・ウェストの方がいいのですか?」対「あなたはコントロールされてモデレートされたインターネットの方がいいのですか?」というものに凝縮されます。

ビント:

もし、どちらかを選ばなければならないなら、私はより開かれた環境の方がいい。でも、予測の範囲にある法的枠組みや執行の必要性も認めてはいる。ISPに不意打ちされたりするのが好きな人なんていないのだから。

――ビント

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UNIXはシンプルである。必要なのはそのシンプルさを理解する素質だけである -- Dennis Ritchie

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