収量2割増しで倒れにくいコシヒカリが誕生
一定の面積から美味しい米をより多く収穫できる様にする品種改良に、 理化学研究所や名古屋大学の芦苅基行助教授らの研究チームが成功し、 成果がサイエンス誌に発表されました。( 理化学研究所のプレスリリース、 サイエンスマガジンの概要、 朝日新聞、 読売新聞、 毎日新聞)
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研究者達は、コシヒカリの遺伝子に、 収量がコシヒカリの2倍にもおよぶインディカ種の「ハバタキ」 という品種の遺伝子を導入して、味はコシヒカリ並で 収穫量が20%多い、しかも草丈が低いため倒れにくいという 優れた品種を開発する事に成功しています。
以下今回の研究の詳細
今回の成果は、ジャポニカ米のコシヒカリと、 インディカ米のハバタキという2つの品種を掛け合わせ、 特定の形質に加算的な影響を及ぼすDNA領域、「量的形質遺伝子座(QTL)」 (遺伝子座とは、染色体地図上で遺伝子が占める位置) の解析を行った結果得られた物です。
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研究の過程で、粒数に影響を与えるQTLが5つ、草丈に影響を与えるQTLが4つ 見つかっています。草丈に最も強い影響を及ぼしていたQTLは、 「イネの緑の革命」の原因遺伝子と同一だったそうです。
一方、粒数に影響を与えるQTLのうち最も強い影響を及ぼしていたものは 第一染色体上腕部に有り、その解析を進めた結果、植物ホルモンである サイトカイニンの分解に関与する「 サイトカイニンオキシダーゼ/デヒドロゲナーゼ遺伝子(CKX)」が 粒数の決定に強い影響を及ぼしている事が明らかになったそうです。 ハバタキでは「OsCKX2」遺伝子の発現レベルが低く、その為植物ホルモン であるサイトカイニンの濃度が高くなり花芽が増加し、 結果として生み出される種子数が増加するのではないか、と考えられるそうです。
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今回の育種では、背丈を低くする遺伝子と粒数を増加させる 遺伝子を両方取り入れ、理想的な形質を発現させる事に成功しています。 成果は、世界中で最も消費されている穀物である米の増産に 結びつく物だと期待され、他の穀類の改良にも応用できる可能性 も有るそうです。
以下参考事項
芦苅助教授は以前、「まだ人々の間に不安がある遺伝子組換え技術 を使わず、従来の育種技術によって増産できる品種に迫るのが、 私たちの研究のミソだ」、とコメントされていましたが、 今回の品種も、従来の育種手法で得られた物です。 「99%以上はコシヒカリの遺伝子を持つため、 味や形はほとんどコシヒカリと変わらない」と発表されています。
イネは全ゲノムの解析が終了した穀物ですが、 ゲノム解析によって得られた情報と交配の結果とを比較する事で、 経験に頼ることなく有用な性質の有無の判断が行える為、 短期間で効率的に品種改良が行えるという利点が得られています。 また、イネは温室で栽培すれば1年に2回は交配可能です。 今回の品種に関しても、4年の期間に5回掛け合わせて作り出された という報道がされていました。
イネの収量を上げるためには、いもち病などのような病気や害虫に 対する耐性を高める事も重要です。例えば亜熱帯地方で いもち病を引き起こしているMagnaporthe griseaによって、 毎年6000万人分の米が失われている、という試算もされています。 (参考記事:ゲノムは米の研究を解放します) 日本でも品種改良によって「病気に強いイネ」が育種されていますが、 それらは全て「遺伝子組み換え」では無く、「交配」によって求める 遺伝子を取り込んでいます。性質がきちんと組み込まれたかどうかを 確認する為に、イネ遺伝子情報が使えるようになった為、 優良品種の選抜のスピードが早くなっているそうです。