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Mozilla

Brendan Eich はなぜ辞任を迫られたのか

タレコミ by Kodakana
Kodakana 曰く、
3月24日に Mozilla の CEO に任命された Brendan Eich だが、かつて同性婚に反対する活動に多額の寄付をしていたことを批難され、/.j にも掲載されたようにわずか二週間足らずで辞任することとなった。この事件が日本語媒体では表面的に伝えられ、前提条件に対する無知もあってか、誤解に基づく反応も見受けられるようだ。そこで、ここでは以前のストーリーの補足として、Brendan Eich がなぜ辞任を迫られたかについて解説させていただきたい。

アメリカでは、同性愛者の権利の確認を求める動きに反応して、2000年代までにほぼ全ての州で結婚を明示的に男女間に限定する改憲や法律の制定が行われた。しかし、2004年にマサチューセッツ州で同性間の法的結婚が認められるなど、ここ10年ほど−−特にこの2〜3年で急速に−−同性婚の支持と法制化が拡大している。

そうした動きの中で、2008年6月、カリフォルニア州では州最高裁判所の判決により同性婚が可能になったが、その11月の選挙で同性婚を禁止する「提案八号」の住民投票が行われ可決された。Brendan Eich が反同性婚の活動に1000$を寄付したというのはこの時である。この禁止は、2013年6月の連邦最高裁判所判決による無効確定まで続いた。

今年3月に公表された ABC News/Washington Post の全米の成人1002人を対象とする調査では、同性婚の法制化に59%が賛成している(Record Support for Gay Marriage; Half See it as a Constitutional Right — ABC News)。また、昨年の Pew Research Center の調査では、自身を反対派とする人の59%も同性婚の法的認知は「避けられない」と答えている(In Gay Marriage Debate, Both Supporters and Opponents See Legal Recognition as ‘Inevitable’ | Pew Research Center for the People and the Press)。

このように同性婚の支持が拡大している背景には、そもそも法の下の平等という近代法秩序の大原則に例外を作るのはまずいという認識と、平等の原則を敷衍すれば同性婚は認められるという理解がある。Hampton Catlin は、自身がカリフォルニア人であり、提案八号によって同性の伴侶との結婚を妨げられたことから、Eich の CEO 就任に敏感に反応した(Goodbye, Firefox Marketplace — rarebit)が、この件を伝えた BetaNews の記事は、そのことをよく表している。

同性婚は同性愛者の問題でも、自由主義か保守主義であるかという問題でもない。アメリカ人(誰かは偶然に同性愛者であるのだ)の基本的権利が脅かされているのだから、それは平等の問題である。…

New Mozilla CEO is allegedly anti-gay marriage — Firefox developers boycott

反同性婚主義者の依拠する所は日々狭まっている。もともとキリスト教では結婚に宗教的な契約としての意味合いがあるため反発も根強いが、政教分離の原則があるから民事的な同性婚に反対する根拠にならない。反対派は子どもの権利なども持ち出している。最近ミシガン州の裁判で証人として出廷し禁止の保持を主張した社会学者 Mark Regnerus は、2012年に反対派に有利な研究を発表したが、その内容や資金源などで批判を受けているという(Professor: More study needed on kids, gay marriage — Yahoo News)。どうも創造論に似ているようだ。

経済界でも、多様性の社会的受容が革新につながるといった考えなどから、同性婚の支持が拡大している。昨年も、Google、Microsoft、Citigroup、Goldman Sachs Group を含む200社以上が同性婚を支持して連邦最高裁に意見を提出した。この4月1日にも、オレゴン州の裁判で、Nike や Intel などは共同で摘要書を提出し、同性婚の排除は差別的で、才能を募集し雇用することを難しくすると述べている(Judge Stays Virginia Same-Sex Marriage Class Action | Legal Times)。経済界では今や同性婚を支持する方が常識的であり、政界では共和党でも経済派の方は支持に傾きつつある。

こうした状況の中−−しかも Firefox OS の浸透を図る重要で困難な時期でもある−−で Eich が Mozilla の CEO に指名された。Eich は否定している(Exclusive: Mozilla CEO Eich says gay-marriage firestorm could hurt Firefox (Q&A) — CNET)が、三人の役員が辞任したことについて、Wall Street Journal は三人がモバイル産業の経験者を候補として探していたという話を伝えている(Three Mozilla Board Members Resign over Choice of New CEO)。三人の真意は別としても、彼らは Eich の資質が不満で辞めたのだという見方が出るのは不思議ではない。

Eich の就任は Mozilla の組織内部を含む少なくない反感を買った。誤解のないように言っておくと、彼らは反同性婚主義者と一緒に働けないとか、その人の作ったものだから使えないなどと短絡的な主張をしたのではない。Eich は Mozilla の共同創設者であり、最近まで最高技術責任者として開発に携わってきた。Eich の寄付は既に2012年に知られていたことでもある。Hampton Catlin も言ったように、組織全体に責任を持つ地位を Eich に与えるという人事が失望を呼んだのである。

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typodupeerror

計算機科学者とは、壊れていないものを修理する人々のことである

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