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14041510 journal
日記

ChaldeaGeckoの日記: J.G.バラード「太陽の帝国」その6

日記 by ChaldeaGecko

一般論
・戦争で貿易が潤う
・成金はパーティが好き
・成金は愛国心を示すため、きそって戦争基金に寄付する
・子供はパーティで酒を飲ませてもらえない
・スピットファイアは一機一億円くらい
・酒をたくさん飲むと酒臭くなる

戦時の成金の姿は、映画でも見られますが、酒を一杯飲むごとに「美少女♡、お国のために一万円寄付しまぁす♡」と宣言するんですの(キャッシュではありません)。キャバクラみたいな見栄の張りあいですわ。寄付総額は黒板に書いて、クラウドファンディングみたいにリアルタイムで更新されますのよ。

書かれた事実
・英国にも戦争基金があった

一般常識
・租界の人は貿易関係者だった

However, watching the newsreel had become every expatriate Briton's patriotic duty, like the fund-raising raffles at the country club. The dances and garden parties, the countless bottles of Scotch consumed in aid of the war effort (like all children, Jim was intrigued by alcohol but vaguely disapproved of it) had soon produced enough money to buy a Spitfire - probably one of those, Jim speculated, that had been shot down on the first flight, the pilot fainting in the reek of Johnnie Walker.

これらの知識と、この文が書いていることは矛盾しないということがわかりますわ。ジムくんが泥酔したパイロットのことを考えたのは、泥酔したパーティ客をおおぜい目の当たりにしたからですの。それが、この小説の真実、明示されてはいないけど、そうに違いないと思えることがらで、この文がいちばんいいたかったことですわ。パーティ三昧でいい気な金持ちが、翌日に収容所にブチこまれぁす。楽しみにしてね!、ということですの。ユカイツーカイですのよ!
raffleは宝クジのことですが、「ゴミ」という意味もあって、戦費調達のクジに大当たりがないことのシャレです。当然みんな知ってるけど、愛国的な義務だから引いています。山田氏はexpatriateとpatrioticのシャレも理解していません。

とはいえ、ニュース映画を見ることは、カントリークラブでの募金宝くじ大会と同様、今や海外に居住するイギリス人の愛国的な義務となっている。ダンス会やガーデンパーティで戦争活動支援の一環として消費される大量のスコッチは(すべての子供がそうであるように、ジムもアルコールに興味をそそられていたが、そこにはどことなく後ろめたい気持ちが伴っていた)、あっという間にスピットファイアを一機買えるだけの資金を生み出した。初飛行で撃墜されたスピットファイアのうちの一機はたぶん、パイロットがジョニー・ウォーカーの強烈な臭いで気絶してしまったからだ。ジムはそう思っていた。

山田訳はまあデタラメなんですけど、この小説の真実をなにも書いていないんですの。固有名詞が出てくるだけの、ぜんぶ一般論なんですの。気が抜けて非常にナマクラな文になっていますわ。小ネタもぜんぶ落とすし。まともな小説を読んだことがない人は、「初飛行で撃墜されたスピットファイアのうちの一機はたぶん、パイロットがジョニー・ウォーカーの強烈な臭いで気絶してしまったからだ」を幻想的だといってありがたがるという仕組みですの。

山田氏がどちらも「集会所」と訳したcrypt地下聖堂あるいは納骨所vestry聖具室ですの。ぜんぜん別ものですわ。ややこしいことに、聖具室はsacristyと呼ぶことが多く、vestryはこちらも指しますの。

A vestry was a committee for the local secular and ecclesiastical government for a parish in England and Wales, which originally met in the vestry or sacristy of the parish church, and consequently became known colloquially as the "vestry".

ここから山田氏は「集会室」を思いついたのかもしれませんわ。

were marched down to the crypt (礼拝堂の地下の集会室に行くよう指示された。)

Outside the vestry doors (集会室の扉の外では)

どちらも「集会室」したので、スケール感がめちゃくちゃですわ。

Jim listened as Yang, his father's driver, badgered the Australian verger.

ジムは、オーストラリア人の聖堂番にしつこく文句を言っている、父の運転手・楊(ヤン)の声に耳をすました

山田氏の頭の中では、ジムくんが集会室にいて、ヤンさんがその扉の外にいて、ヤンさんが文句を言うのを扉ごしに聞いていた、ようですわ。どれだけでかい声なのかしら!
でもそれは違って、地下聖堂に聖具室があって、ヤンさんはその扉の外にいて、ジムくんはヤンさんの近くにいて、声を聞いていた、というのが正しいんですの。
the cement roofから、地下聖堂が防空壕に改造されていることがわかり、神の加護と戦争が結びつくイメージ、これもまた小説の真実ですが、なんちゅうかほんちゅうか、ですわ。

それにしてもバラードの頭の中にはイヤラシイことばかりがつまってますわ!

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あと、僕は馬鹿なことをするのは嫌いですよ (わざとやるとき以外は)。-- Larry Wall

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