ChaldeaGeckoの日記: ただ今処女作執筆中 トリック編
いよいよトリック編なのです。究極のユリの誕生を、いかにありふれた男女のラブストーリーに見せかけるかなのです。
魔法使いを自称する花梨ちゃんが妄想の人だと読み取れるようにもするのです。つまり三重のトリックなのです。三重トリックは『良い読者と良い作家』以外には、〇ビも見たことがないのです。精神病の美少女が大好物の〇ビは処女作でわがままチャレンジするのです。
- 馨は男で花梨は魔法使い
- 馨は男で花梨は精神病
- 馨は女で花梨は魔法使い
なのです。馨の男女と花梨の魔法使い/精神病を直交させて、馨が女で花梨が精神病のケースを潰すように書けばいいのです。
その最大のトリックがこれなのです。苦労したのです。
花梨兄:花梨に新しい生活をさせたが…
花梨兄:君も魔法のことを聞いているのか?なら話が早い
花梨兄:彼女は君から指輪をもらえばそれで終わりだと言っている
馨:指輪?
花梨兄:ああ、安い指輪でいいんだ。君が渡すことに意味があるんだ
花梨兄:悪いが買って渡してやってくれ
花梨兄:指輪の魔法で女の子のしあわせを見せてやってくれ*
「それで終わり」は、関係が終わるのか任務が終わるのかあいまいなのです。
指輪で結婚指輪を読者に連想させるのです。
最後の文の「女の子」 は花梨だとも馨ちゃんだとも取れるのです。前者だと
・馨くんと別れざるをえない花梨にしあわせな夢を見せてやってくれ
・精神病の花梨にしあわせな夢を見せてやってくれ
と取れるのです。
後者だと
・馨ちゃんのしあわせぶりを花梨に見せてやってくれ
だとわかるのです。
この小説では、*以外にはしあわせの話はしないのです。*はそのまま読むと「花梨はしあわせではない」という含意があるのです。女の子=馨ちゃんだとすると、この含意が消えてしまうのです。だから花梨が精神病の目もなくなるのです。
「花梨が精神病の可能性もある」と知って*を読むと、非常にさびしく哀れな気分になるのです。なぜなら〇ビは*を先に書いて、あとから精神病の可能性に気づいたからなのです。
トリックには二種類あり
- 普通の読み方とは別の可能性を提示するもの。読者はどちらの読み方を選んでもよい
- 普通の読み方が間違いであることを提示するもの。読者は普通の読み方をしてはならない
なのです。小説の肝心なところで2を使うのです。それが小説を決定づけるのです。1はそのつじつま合わせに使うのです。全部1の作品もありますが、よほどキテレツなものでないと迫力がでないのです。睦美ちゃんの「蟲好き」は1ですがキテレツなのです。
上の三重トリックは1なのです。ここだけ見るかぎりではどの読み方も正しいのです。だからほかの場所で2を使う必要があるのです。
馨は女の子
「馨は女の子」は上の2なのです。ここを1にすると迫力がでないのです。この小説に2はここだけなのです。
花梨の編入から一週間がたったが、あいかわらず休み時間にはクラス中の女子がまわりに集まってきた。馨は隣の席で会話を聞くだけだったが、花梨のフランクな性格はよくわかった。目配りもきき、かたよらないように話していた。これでとりこにならない人間はいないな、と思った。男子も花梨が気になってしかたがない様子だったが、女子の鉄壁のガードのため近づけずにおり、話ができた男子はまだいなかった。
馨は花梨の隣の席で、転校初日から話をしていることにしてあるのです。
これで「話ができた男子がまだいなかった」のだから、馨は女の子で確定なのです。
花梨は帰る?帰らない?
馨が男だと花梨は帰るし、女だと帰らないのです。
花梨「兄から聞いたの?」
花梨「そうよ、指輪を受け取ったら帰るの」
だれが帰るとは言ってないのです。これは1なのです。
馨「それはどういうことだ?帰らないことができたのか?」
花梨「あなたが男の子なら、わたしは女の子だから帰らなくちゃいけない」
花梨「そういうものなの、魔法って」
花梨「わたしにもどうにもならないのよ」
馨が男なら、花梨が帰るのは確定なのです。馨が女なら「帰らないことができた」のは事実になりうるので、花梨が帰るかどうかはわからないのです。これは1なのです。
魔法使いを信じる?
英語教師「このcharmは『魅力』という意味です。日本語でもチャーミングって言いますよね。charmには『魔法』という意味もあるんです。魅力的な女の子が魔法使いに見えたんですね」
花梨:わたしは魔法使いなの、信じる?
信じるのは「花梨は本当に魔法使い」or「花梨が自分を好きだから魔法をかけている」なのです。1なのです。
馨はオカルトマニア?
馨は自分の席で本を読んでいた。あまり頭に入らなかった。
「……女のくせにオカルト雑誌かよ」と男子生徒が言うのが聞こえた。
「別にいいじゃない」と女子。
(オカルトねえ……どうなんだろう)馨は花梨のことを思い出し、独り言ちた。
男子がだれに言ったのかはわからないのです。これは思い込みを強化するものなのです。1なのです。
馨は美少女?
「美少女かぁ……憧れちゃうかな……」
実際その通りだったが、クラスメイトは気づかなかった。馨は毎日夜遅くまで本を読んでおり、姿勢と顔色が悪かった。美少女にはあまりふさわしくなかった。
憧れかたの違いなのです、1なのです。
リアリティvs平行世界
花梨の匂いも、カサブランカの匂いも、自分だけが知っているものだ。他の人は別の匂いを知っているだろう。
匂いは忘れることができない。たとえ花梨のことを忘れてしまっても、カサブランカの匂いを感じるかぎり、花梨がそばにいることを疑うことはできないのだ。それがリアリティというものなのだ。
花梨の匂いとカサブランカの匂いがおなじだということは、こんなにも疑いえないことなのだ。平行世界はべつの可能性の世界だから、疑いえないことはどの世界でも成立しているはずなのだ。しかしどんな平行世界の人も、それを知らない。おなじ花梨、おなじ花なのに、成り立っていない。矛盾している。花梨の言うように、平行世界は存在しえないのだ。
馨くんは平行世界はどうでもいいが、馨ちゃんはオカルトマニアなのですごく大事なことなのです。リアリティはそこにつなぐためのものなのです。1なのです。
馨ちゃんは平行世界がない=>自由意志がないと短絡したのです。エヴェレット解釈を信じていたのです。運命を信じ、なによりも花梨との出会いを最大に意味のあるものとする選択をする<黒>の魔法使いになったのです。脳みそがハッピーなやつなのです。
花梨のキス
見送りの空港なのです。馨は花梨に指輪をわたすのです。馨が男の子だと、花梨は兄と帰るのです。馨が女の子だと、兄だけ帰り、兄の立ち会いの結婚式に見えるのです。
花梨が振り返って馨を見つめた。馨は花梨の唇の感触を予感し、身を硬くした。舌がからみ、なにも言えなかった。
花梨が馨にキスをした。馨は少し考えて、その意味合いを理解した。
(終)
馨ちゃんは魔法使いになったので予知できるようになったのです。馨ちゃんは花梨とのキスを予感(予知)したのです。「その意味合い」は、自分が魔法使いになって、花梨とのディープキスを予知したことなのです。1なのです。
花梨ちゃんは最初から<白>の魔法使いで、馨ちゃんも<黒>魔法使いになったのです。魔法使いのユリなのです。トリックの要請に従うだけで、馨ちゃんが頭はいいが脳みそハッピーなオカルトマニアの魔法使いになったのです。いいキャラがタダで手に入ったのです。「オカルトマニアの魔法使い」は独創性も高いのです。
超美少女の花梨もいい加減アホなのです。バディを組ませるならどういう条件が必要なのかも、すぐわかるのです。小説はキャラから作ってはいけないのです。
〇ビ小説はかなり観念的なものになるのです。なぜなら究極のユリという観念的なものから出発したからなのです。花の匂いのくだりはべつに〇ビの独創ではなく、観念的な存在を現実に担保するのは身体だという昔からある話なのです。
個別のトリックの作り方にはノウハウはあるけど、文章化できるところまでいっておらず、みんなも意図と結果から考えてほしいのです。でもまあ
- ことばを省略する
- ことばが指す先を描かないでおく
- おなじことばが二つの文脈で別の意味になるようにする
- より広いことばを使う(花梨を「女の子」など)
- ことばの素直な解釈が間違いになるような文脈を用意する
といったところなのです。最後の
花梨が振り返って馨を見つめた。馨は花梨の唇の感触を予感し、身を硬くした。舌がからみ、なにも言えなかった
これは「予感し」と「舌がからみ」が、ただの予感で、緊張で舌がからんだのか、予知で、花梨が舌をからめたのを感じたのかの二重の意味になっていますが、「予感し」の意味が「舌がからみ」の文脈を作る、コンボになっているのです。
ついでにいうと、難しいトリックにはあるていどのヒントが必要で、ここなら「舌がもつれ」より「舌がからみ」のほうがいいのです。「(緊張で)舌がからんだ」ってなんだよ、と思わせるくらいのほうがいいのです。しかも「舌がからみ」のほうがディープキスのイメージとしてはビビッドなので、いいところ取りなのです。トリックが解けた瞬間、ディープキスのリアリティが超美少女のキラキラとともにやってくるのです。
これは事実や心情ではなく感覚描写のトリックですが、よそで見た覚えはないのです。見てたら忘れるはずがないのですが。自分でいうのもなんですが超高等テクなのです。イメージではなく感覚を予知するというのも独創的なアイデアのです。三重トリックともどもうまくできたので、がぜんヤル気がでてきたのです。
トリックを考えると表現まで決まってしまうのです。トリックを書くとちょっと変な独創的な表現になってしまうのです。しかし表現が独創的というだけで、なんとなくありがたみがでるものなのです。「自分のイメージにふさわしい表現を選ぶ」のは労多くして功少なしなのです。
たぶんこれはトリック小説の作り方についての世界で唯一の不特定に向けた文書なのです。普通の小説作法とは全く違うし、すくなくとも珍しいという価値はあるのです。作家はこんなもの書いて手の内をさらしたりしないのです。
〇ビ小説はまだ足りないところは多いけど、あとは「埋めるだけ」に近くなってきたのです。そうなると筆力の問題なのです。
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