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500416 journal

Francisの日記: [すらど文芸部]映画の、あの人。 4

日記 by Francis

ベタな話が書きたくなったので書いた。たぶん後で読んで恥ずかしさに身悶える。でも書いちゃったから置いておく。
#曜日のつじつまが合わないので修正しました
‐‐‐‐‐‐

日曜日の朝、楽しみなことがあります。
私は映画を見るのが一番の趣味で、休日最も早い時間の上映を見に行くのが習慣だっていうのはもう何度も書いたよね。
確かに二月前までは、それが楽しみなことでした。
今は違います。
映画館へ向かう電車、改札に最も近い車両の最後尾。女性専用車両と一般車両の境界。
私はそこに座って、あの人を見るのです。
友達と楽しそうに話しているあの人を。

‐‐‐‐‐‐

斉藤はキーボードから手を離すと、デスクにひじを付いたまま指を組んであごをのせる。
「まだちょっと、言葉が足りないかな。いやむしろ書きすぎなのかな」
日曜の夜、23時。風呂上りのビールを開けながら、匿名で書いているブログにこうやって気持ちを吐き出すのが一週間の終わりを締めくくる儀式である。
「もうちょっとこう、自然に表現できないものかな。変にポエムだよね。文章うまくなりたいな」
一人暮らしをはじめてから、独り言が多くなった。つぶやくだけで足りない気持ちはブログの上に載せる。
来週もあの人は隣の車両にいるだろうか、今度こそは話しかけようか。そんな思いのたけをつづって満足すると、むにむにとつぶやきながらベッドに入った。また一週間、仕事だ。

金曜日。
会議から自席に戻ると、私のノートPCを派遣の鈴木さんが覗き込んでいた。
「ちょっと何してるんですか」
鈴木さんが慌てて立ち上がる。大きな黒ぶち眼鏡、俯いた落ち着かない表情、への字口の口元。化粧気のない顔。
「佐藤課長に言われて。お客様が斉藤さんのメールアドレスに間違えて資料送ってしまったかもしれません、もしあったら転送してもとのメールを消すようにと電話があったので、急ぎだというし斉藤さんは来客中でしたし」
袖口を落ち着きなくいじりながら言う。
「それならしょうがないけど、ちゃんと一言断ってよ。来客ったって永嶋工業さんはそのぐらいで怒ったりしないから。来たばかりでまだわかんないだろうけど」
「すみません。以後気をつけます」
「あ、ついでに言っとくと矢島商事さんの時は絶対に割り込んじゃダメ。機嫌を損ねちゃう」
「はいっ」
返事だけは良いのが救いだ。

日曜日。
午後のファミレスで今見たばかりの映画のパンフを手にぼやく。
「なあ、いくら毎週恒例とはいえ男4人でベタベタの恋愛映画はきつかったな」
「ほんとに何が悲しくて俺ら…」
「毎週毎週見てると見るもんがなくなるんだよ。しょうがねえだろ?」
「先週見た戦争ものをもう一度見たほうが良かったな。というか今週は取りやめにしときゃ良かった」
「目の前の二人なんて今にも抱き合いそうだったし居心地悪かったな」
「女同士で見るのは自然なのに男同士で見るのが不自然なのは何でだろ」
「そういやあ、お前の女神様も見に来てたんだろ?右列の前のほうの5人組」
「なかなか悪くない趣味をしてらっしゃいますなー」
「なんでナンパしにいかなかったの今日?」
「お前ら、そういうのとは違うんだってば。ほっといてくれ」
「何が違うんだかなー」
「ねー」
「違うんだってば。お近づきになりたいとかじゃなくて、楽しくしてるのを眺めてるのが楽しいというか」
「恋だな」
「恋だね」
「ねー」
「だーかーらー」
午後がゆるゆると過ぎていく。
その夜、自分のブログにもそんなことを書いて、ビールをかっ食らって寝た。

月曜日、朝。
斉藤が出勤して鞄からノートPCを出し、設置しようとすると裏返しになったメモがあった。
「ブログのシステムにログインしっぱなしにするのはあぶないです。」
几帳面な文字。書いたのは多分鈴木さんだ。席を見てもいない。給湯室に行ってみると、電気ポットの水垢をゴリゴリこすっていた。
「鈴木さん」
「何ですか?」
鈴木さんは手を止める。斉藤はメモをひらひら振った。
「見たんですか?」
「社内から書くと危ないですよ。会社によってはシス管がログとってることもありますしね。家からだけ書くんでもまめにログアウトしないと」
「一般論はわかりました。以後気をつけます。私のブログを見る限りいたずらできる状態だったのにした形跡はないし、一般論の警告だってのもわかります。で、見たんですか?」
「すみません。IDはわかっちゃいました」
「あー…」
「その、当然ですけど、誰にも言いませんから。かわいいくまさんのテンプレですねとか言いませんから」
「みちゃったんだね…」
斉藤は自席に戻ると猛然と仕事を始めた。鈴木さんがちらちらと何かいいたそうに視線を送ってきたが、目を逸らし続けた。

水曜日、朝。
斉藤が出勤して鞄からノートPCを出し、設置しようとすると裏返しになったメモとチケットがあった。
「お詫びに斉藤さんのご趣味の映画を一回おごります。ごめんなさい」
今週封切の小品だ。なまじ大作を薦められるよりも趣味に合う代物であることが、ブログを見られていることを強調されているようで余計に腹が立つ。
鈴木さんがちらちら見ていたが、斉藤はメモとチケットをデスクに突っ込んで仕事に没頭した。

金曜日、朝。
斉藤はメモを置いた。

金曜日、夜。
携帯電話を手にベッドに転がる。
「日曜日いけなくなった」
「何?ついにデート申し込んだ?」
「そういうんじゃなくて。職場の同僚と映画を見に行くだけ。お詫びだって」
「ほおおー。んで本当は?」
「だからそういうんじゃないって」
事情を詳細に説明したが、どうにもわかってくれたとは思えない。

日曜日の朝、いつもの格好でいつもと違う待ち合わせ場所に行った。
日曜日の朝、いつものようにおめかししていつもと違う待ち合わせ場所に行った。

日曜日、朝。
おかしい。待ち合わせ場所に鈴木さんがいない。10分前からいるから、もう25分も待っている。上映開始まであまり時間がない。
さらにおかしいことには、別人が息せき切って目の前に走ってきてひざに手を付いて呼吸を整えている。しかもこの人は、
「女神様…?」
「え?」
ああ、この声は。
「遅れて、ごめ、なさ、い、」
私が立ち直るのは、彼女の息が落ち着くよりは早かった。
「いえ、まだ間に合いますよ。それにしても…化けますね。別人かと思った」
「化けるとは人聞きの悪い。そりゃあ平日とは違いますよ」
仕事場で見ることのできない笑顔。

日曜日、夜。
「それで初デートしてきたわけだ。封切興行だー。」
「そういうんじゃないってば。結局斉藤さんの友達が後をつけてきててみんなでご飯食べて遊んで夕方にはかえってきたもの」
「じゃああれだ、シネコンだ。目移りした?」
「しないもん」
「気をつけなよー本篇の上映ー」
「本篇って」
「だって結局両方とも予告篇は好感触だったわけだしさあー。あの人あの人ってもーうるさいわー」
「えへへ」
「女神様とか言われて舞い上がってちゃだめよーしっかり本編で捕まえないと」
「うん。」

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • by Anonymous Coward on 2007年03月06日 10時40分 (#1121375)
    ちょっと息を弾ませながら自宅への帰路を急ぐ鈴木。
    最近のコンビニで疲れ切るまで立ち読みをしていた雰囲気はない。

    知ってしまった。あの人のblogを。

    お風呂をためながらノートPCを起動させる。
    サスペンドから起きた画面は、昨日寝る前に読んでいた小説サイトの画面のままだ。

    さっそく検索サイトにblog名を入れてみる。

    検索結果のトップに、あの かわいらしいクマのテンプレを使ったblogがヒットした。

    ちょっと鼻歌を歌いながらユニットバスへ向かう鈴木。今日はちょっと夜更かししてしまうかもしれない。

    火曜日は欠勤した。

    結局寝られなかったのだ。

    月曜の夜、お風呂から上がった鈴木は濡れた頭をタオルで巻いたまま、ノートPCの前にしゃがみ込んでいて動かなかった。

    とりあえずblogはすべてローカルにコピー。blogばれを知った斉藤さんが改変してしまうかもしれないからだ。内容は後でゆっくりと読めばいい。

    さて、ここれからどうしよう。
    blogの開始の時期を見ると、半年ほど前。このblogサービスは1年ほど前からスタートしていたけど、途中から移ってきたらしい。
    更新スタート近辺はどうも「本家」や「感想室」という言葉が並ぶ。もともとは別のblogを持っていて、映画の感想のためにblogを分けたらしい。

    鈴木は目を輝かせながら幸せそうにため息をついた。まだまだあの人のことを知ることができる。ちょっとお茶を入れに立ち上がりながら、どんな語句で検索するか考えはじめた。

    結局、外がやや明るくなり、新聞配達のバイクの音が聞こえてくるようになって、やっと鈴木は満足げに伸びをした。
    最終的に斎藤さんのblogの本家を見つけ出し、2年以上の記事を読み切った。
    blogにあった彼のメールアドレスから、彼のよく使うIDを見つけ出した。「STM-75」だ。ハイフンがピリオドになることはあるけど、blogのURLやメールアドレスなどに使われている。きっと、「サイトウマサヤ1975年生まれ」という彼のプロフィールから来ているんだろう。

    このIDで検索して、映画評論サイトにたどり着いた。ここではSTMというIDで何件か書き込みがあり、彼の見ていた映画とほぼ一致した。
    blogの方とは違って評論サイトの彼は辛口だった。でも、おかげで本当に好きな作風がわかったのは大きな収穫だ。

    今週末に、彼が推薦していた監督の作品が封切られる。近所のコンビニで前売りがあることを確認してから鈴木はベッドに潜り込んだ。

    病欠の電話のタイミングにベルが鳴るように目覚ましをセットしながら…。
    「webアーカイブで、彼の大学をサルベージするのもいいな・・・」
    そんな独り言をつぶやきながら、もうすでに寝息をたてはじめていた。

    • うわ、うわわー。
      これはよい。床を転がってしまった。
      感想かかれるよりこそばゆいなあ。

      あと「斉藤がどこの誰ともわからない女性に一目ぼれの片思いをしていてブログで女神様とか書いているようだと知って対抗意識を燃やす」フェーズがあったらもう完璧。
      たとえばこんな。

      ‐‐‐‐‐‐
      ひとつ心配なのは、週末のエントリにたまに出てくる「女神様」がなんなのか、ということだ。極度にぼかしているから、何らかの比喩表現なのか、実在の人物なのかすらわからない。好意的な雰囲気はわかるが、少なくとも食事をした会話をしたという文脈にはない。
      「週末限定だから…特定の女優さんかな?」
      キャストの一覧を作って照合してみる。つじつまが合わない。
      「引きずってる昔の彼女とすれ違ったとか?考えても仕方ないか」
      とにかく自分にはライバルがいるらしい。それだけわかれば十分だ。
      「負けない。うん、負けないもん」
      ‐‐‐‐‐‐

      まあとりあえず斉藤君は詰んでますな。もう逃げられない。

      あ、読み返していたらよりによって一番最初にTYPO発見。
      「土曜日の朝、」
      じゃなくて
      「日曜日の朝、」
      じゃないとおかしいや。
      親コメント
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普通のやつらの下を行け -- バッドノウハウ専門家

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