Pravdaの日記: フォークボールはなぜ落ちる?
姫野龍太郎『魔球をつくる 究極の変化球を求めて』(岩波科学ライブラリー)より。この本、110ページで1200円+税と、ちと高い。計算結果を可視化した図版も白黒印刷だし。以下、カバー裏の紹介文から引用。
野球を何倍にも面白くしてくれる変化球。一体どのように投げれば、どのような変化球が投げられるのだろうか? 変化させる力は何なのか? 著者によるスーパーコンピュータを用いた解析が、ほぼすべての球種にわたって、変化球の知られざる秘密をつぎつぎと解き明かしてくれる。(以下略)
この本の第一刷は2000年で、あまり明確には書かれてませんが、2001年に出た手塚一志・姫野龍太郎共著『魔球の正体』(ベースボール・マガジン社)にはハッキリと「フォークボールは重力だけで落ちる」とあります。つまり、我々がストレートと呼んでいる球種は、毎秒30回転程度のバックスピンがかかっており、マグナス効果 [wikipedia.org] の揚力によって落ち方が小さいだけ、というのが結論です。
(硬式野球を経験された方は覚えがあるかも知れませんが、硬球でキャッチボールすると最初の頃はリリースがうまくいかずバックスピン不足で、いわゆる「ナチュラル・フォーク」になりますよね。)
では、そのマグナス効果による力が実際のボールの軌道を曲げるだけ大きいか?、というと、1940年代には表面に凹凸の無い真球のデータしかなく、その値を使うと40cm曲がるカーブを投げるには毎秒80回転が必要で、トップレベルの投手でも毎秒40回転未満というデータと合いませんでした。
その後の1950年頃、東大の谷一郎教授が実際の野球のボールを使って風洞実験を行い、40cmカーブさせるのに必要な回転数が毎秒40回転でよいことを証明。ボールの縫い目の高さはせいぜい1mm程度ですが、ボール表面で流速が大きく変化する「流れの境界層」の厚さの約0.1mmに比べると充分に大きい、ということです。
姫野龍太郎先生が変化球研究を始めたのは、まだ日産自動車の社員でクルマの空力シミュレーションをしていた1996年、GRAPE開発で有名な戎崎俊一先生と会い、フォークボールがどうして落ちるのかコンピュータで解析しようという話になったのがキッカケだそうです。
日産社内で承認をもらい、試作部品の精度を測る座標測定器を使ってボール表面形状の座標データを0.1mm以下の精度で採取。そこから計算メッシュの生成ですが、約600万点をボール周辺の空間に置き、それらを線で結んでメッシュを作ったとのこと。佐藤早苗さんという専門のオペレータの方が約1ヶ月かかったそうです。
今だとF1カーの空力解析で1億メッシュとか2億メッシュと聞いても「ほー」と思うだけですが、10年前の話で、当時日産にあったNECのスパコンSX-4でも1ヶ月以上かかるため、仕方なく計算点数を1/8に減らしたそうな。当時の姫野先生の上司は、日産の総合研究所車両研究所所長の矢口英一さんという方で、非常に寛大な方のように思えます。
以下、次エントリの「究極の変化球は必要か?」(仮題)に続く予定。
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