Pravdaの日記: 「負けるが勝ち」の生き残り戦略
泰中啓一『「負けるが勝ち」の生き残り戦略 なぜ自分のことばかり考えるやつは滅びるか』(ベスト新書)より。著者は大学院から理論生物物理学を専攻し、現在静岡大学大学院教授の方。以下、カバー見返しの概要より引用。
弱い者ほど生き残る
強い者が勝ち、弱い者は滅びる──生物の世界は、そういう「優勝劣敗」「弱肉強食」の世界だと思われている。しかし、事実は違う。長い進化の果てに生き残った、現存する生物は、長期的に見て、互いに助け合っている。互いに依存しあっている。そのようなものとして、長い自然選択の試練を経て、生き残ることができたのである。
殺虫剤でハエやゴキブリを殺すと、当座は数が少なくなる。しかし、しばらく経つと、以前よりぐっと増えることが知られている。複雑な自然界の現象は、決して、強い者が生き残り、弱い者が滅びる世界ではない。
「利他主義」こそが最適の戦略であり、弱い者ほど生き残る。このパラドックス(逆説)は、選挙をはじめ、人間社会にも数々の実例が見られる
いわゆる「複雑系」の本であります。主な計算機シミュレーションは以下の3つです。
第一に、グー・チョキ・パーの三つ巴の関係にある生物種を考え、それが時間変化する過程をシミュレーションすると、三つの生物種がランダムに衝突する「グローバル相互作用」の場合、そのうち一つの種は絶滅し、さらに別の種が絶滅して一つの種だけが生き残る。
一方、各個体を二次元の格子上に配列し、隣同士としかジャンケンできない「ローカル相互作用」の場合、グー・チョキ・パーがほぼ同じ個体数となり絶滅は起きない。
第二に、上記の二次元の格子上の点で、隣同士と「囚人のジレンマ・ゲームの繰り返しゲーム」 [wikipedia.org] を行わせた場合、しっぺ返し戦略やパブロフ戦略をとる個体群よりも、常に協力する黄金律戦略をとる個体群が優位になる。
第三に、「進化的に安定な戦略」(ESS) [wikipedia.org] で、最適なオスとメスの比率をシミュレートさせると、第一の「ローカル相互作用」の場合、オスとメスの比率が1対1の所でピークが現れる。一方、「グローバル相互作用」の場合には、そのようなピークは現れない。
ローカルで単純なルールが、系としてのグローバルな性質を決定づけ、直感とは反したふるまいをするという点は非常に興味深く読めました。以前に少し書いた、西成活裕『渋滞学』(新潮選書)の「自己駆動粒子」と通ずるものがあります。
ただ、本書のエピローグで、
孔子は黄金率を「汝の欲せざるところを他人に施すなかれ」と言った。これは、利他主義を裏から表現したものであろう。生物が利他行動をとるのは、そうすることが長期的に適応度を高めるからである。
と書くのはどうなんでしょう? ちょっと前、「人間の行動は利己的遺伝子 [wikipedia.org] のふるまいで規定されている」という本が流行り、中にはずいぶんイカガワシイ言説もあったのですが、科学的知見に人間の道徳観を持ち出すのはいかがなものか、と。
その点を除けば、全167ページでコンパクトにまとまっていて筋も判りやすく、グラフや絵も豊富な面白い本だと思います。
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