パスワードを忘れた? アカウント作成
439515 journal

Pravdaの日記: 〔DVD〕 魅せられて

日記 by Pravda

マックス・オフュルス監督作品の第二回目は、『魅せられて』(1949年)。日本では劇場未公開で、テレビ放送のみだそうです。ハリウッド時代の作品。

DVDのパッケージに「耽美的フィルム・ノワール」と書いてありますが、どうなんでしょう。たしかに人物の影の落とし方や広角レンズによる遠近の強調など、ノワール映画の特徴がみられます。しかし男を破滅に追いやる「ファム・ファタール(運命の女)」が出て来ません。オフュルス監督は女性をそんなふうに描けないのですね。

舞台は1947年のロサンジェルス。貧しい家庭に育った若い娘リオノラは、ウェイトレスをしながらチャーム・スクール(魅力開発学校)に通うなど、無邪気に上流の生活にあこがれていた。彼女はあるキッカケで富豪スミス・オルリグと知り合い、電撃的に結婚する。しかし彼は支配欲に満ちた偏執的な男で、妻に対し「自分の財産目当てに結婚した女」と、尊大かつ冷酷な態度をとる。そんな夫に耐え切れなくなったリオノラは贅沢な生活を捨てて身元を隠し、貧民街にある診療所の受付係となる。診療所の若い医師ラリーは多少荒っぽいが、他人のために尽くそうとする無欲な男。やがてリオノラとラリーは惹かれ合う。しかし彼女はスミスの子を宿しており、スミスは離婚の条件として、生まれてくる子供の養育権を渡せと迫る…。

DVD付属のリーフレットにも記載がありますが、富豪スミス・オルリグには実在のモデルが居て、大富豪で奇人のハワード・ヒューズ。映画プロデューサーでもあったヒューズは、この映画が作られる1年前の1948年に映画会社RKOを買収します。偏執的な反共主義者ヒューズは、共産主義のシンパ、あるいはリベラル色が強いと見なした従業員を大量解雇し、RKOはガタガタになります。この作品の制作は独立系のエンタープライズ・プロで、このプロダクションは左翼およびリベラルな映画人の巣窟でしたから、ハワード・ヒューズが干渉したそうですが、富豪スミス・オルリグへの悪意ある描き方は隠せません。

若い娘リオノラの役はバーバラ・ベル・ゲデス。アルフレッド・ヒッチコック監督『めまい』(1958年)にも出てましたね。医師ラリーに扮するのが英国出身のジェイムズ・メイソン。演技力バツグンの俳優ですが不思議と賞に縁がなく、無冠のままでした。富豪スミス・オルリグの役はロバート・ライアンが怪演。富豪スミスのかかりつけ精神科医には、『忘れじの面影』(1948年) [srad.jp] にも出ていたアート・スミス。味わいのある渋い役者さんですけど、赤狩りのハリウッド・ブラックリストに名前が載ってしまいました。バーバラ・ベル・ゲデスもブラックリストに載り、10年ほど仕事を干されます。

オフュルス監督の「流麗なカメラワーク」は、言い換えれば一つのシーンでカメラを移動させながら撮る「長回し」で、芝居をする俳優さんたちは大変ですが、ライトの位置をしょっちゅう変える必要がないため、撮影は意外に短期間で済み効率的だったようです。日本の溝口健二監督と同じですね。しかし「自由の国」であるはずのアメリカはヨーロッパ以上に検閲が厳しく、この後オフュルス監督はフランスに活動拠点を移します。

少しネタバレですが、前作 『忘れじの面影』(1948年) [srad.jp] は、未婚の男女の間に性交渉があったワケで、そのことを肯定すると検閲に引っかかるので、結局みんな死んでしまうという、ご都合主義的な結末になったようです。ハリウッドのメロドラマにご都合主義が多いのは、観客動員の問題もありますが、検閲の厳しさもまた原因のひとつと言えるでしょう。

以下、DVD裏のデータより。

■ CAST
ジェイムズ・メイソン
バーバラ・ベル・ゲデス
ロバート・ライアン

■ STAFF
製作:ウォルフガング・ラインハルト
監督:マックス・オフュルス
原作:リビー・ブロック
脚本:アーサー・ローレンツ
撮影:リー・ガームス
音楽:フリードリヒ・ホレンダー

製作年度:1949年
字幕スーパー、日本語字幕のみ
88min.
モノクロ
発売・販売:紀伊國屋書店

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
typodupeerror

日々是ハック也 -- あるハードコアバイナリアン

読み込み中...