Pravdaの日記: 〔DVD〕 博奕打ち 総長賭博
山下耕作監督作品の第二回目は、『博奕打ち 総長賭博』(1968年)。ベタですけど、東映任侠映画の金字塔と謳われるこの作品に触れないわけにはいきません。
昭和十年春、東京のヤクザ天龍一家の総長荒川が脳溢血で倒れ、再起不能になる。跡目を決めるべく一家直系の六人衆の各組長と総長兄弟会の親分衆とが会合を持ち、六人衆筆頭で中井組組長の中井信次郎が二代目に推挙されたが、本来よそ者だからと辞退し、同格の兄弟分の松田鉄男を推す。しかし松田は服役中で、それを理由に親分衆の仙波組組長は荒川の娘婿の石戸孝平を指名し、中井の「筋が通らない」との反対にもかかわらず石戸が二代目を継ぐことに決まる。中井はその決定に従う。初代総長荒川の引退披露および二代目総長石戸の襲名披露の花会開催が一ヶ月後に迫ったある日、松田が仮釈放される。松田は中井から石戸が跡目を継いだ話を聞かされ、さらに「話を呑んでくれ」と中井に頭を下げられるが、自分たちより五厘下がりの弟分の石戸が襲名するのに松田は納得できない。松田が出所の挨拶に出向いた天竜一家の席で、松田は石戸を面罵する…。
中井、松田、石戸の三人は、私利私欲に走っているわけでもなく、また権力欲に取りつかれているのでもない。天龍一家の結束を乱してはいけないと、程度の差こそあれ全員が考えている。しかし各自、自分を慕う子分を持つ身で、このままでは渡世人の面目と男の意地が立たず、ついに悲劇的結末を迎えてしまう。あくまで任侠道を重んじ、天龍一家を分裂させまいと懸命に努力し、あげくに妻を巻き添えにして死なせてしまった中井が、なぜラストで「任侠道? そんなもの俺には無え。俺は、ただのケチな人殺しだ」などと言わねばならないのか。
この映画を観た三島由紀夫は「ギリシア悲劇にも通じる構成」と絶賛したそうですが、ロジカルで緻密な葛藤劇を書いた、脚本の笠原和夫を第一に讃えるべきでしょう。完成版試写を観た笠原和夫は「自分の意図が反映されてない」と不愉快だったそうですけど。このDVDの特典映像の予告篇や特報を観ると、殺陣のシーンが多く撮られているにもかかわらず、本篇では殺陣シーンが相当カットされ、そのぶん登場人物の心理描写に時間を使っているのが判ります。誰がそういう英断を下したかは不明です。
中井の役は鶴田浩二。我慢を重ね耐えに耐える役どころ。渋いですね。松田に扮するのが若山富三郎。激情家で直情径行、暴力的なキャラが居ないと、このドラマは成り立ちません。石戸の役は名和宏。貫禄があります。裏で糸を引く仙波組組長は金子信雄。『仁義なき戦い』(1973年)での山守義雄役の前からこんな役をやってたんですか。女優陣では、中井の妻つや子に桜町弘子、松田の妻で中井の妹の弘江には藤純子。
山下耕作監督の特徴の「花」は、あまり前面に出てきませんが、それでも24min.頃の、松田組の若い衆音吉が、弘江の店の女の子とヨーヨーに興じているシーン、あるいは61min.あたりの、音吉が中井に許しを請うシーンは「花」が写っています。68min.からの、松田が石戸を襲撃するシーンは紅葉が撮られていて、「花」に含めていいかもしれません。56min.以降、つや子の墓の前での激しい雨は、まさに情感の美学。
最後のシーンで、中井の判決文が読み上げられ、これだけの葛藤とシガラミと愛憎が渦巻いたのに「私怨を抱いた殺人」で片付けられ、しかも「博徒間の私闘を超える悪質凶悪な犯行である」。(では本当に悪質凶悪な犯行とは? そのあたりは、脚本が笠原和夫ですから…。) 判決文のナレーションと共に、ドスを投げ捨て手前に歩いてくる中井の姿は、ヤクザ讃美どころかその正反対だと思います。
テンコ盛りの内容を、わずか95分間に詰め込んでいる凄い映画。省略の話法を多用してシーンの切り替えが速いにもかかわらず、登場人物の万感の思いがキチンと伝わってくる大傑作。機会のある方は、ぜひご覧になってください。
以下、DVD裏のデータより。
■ CAST
鶴田浩二
藤純子
桜町弘子
三上真一郎
曽根晴美
沼田曜一
香川良介
原健策
小島慶四郎
佐々木孝丸
名和宏
金子信雄
曽我廼家明蝶
若山富三郎■ STAFF
企画:俊藤浩滋/橋本慶一
脚本:笠原和夫
撮影:山岸長樹
美術:富田治郎
音楽:津島利章
監督:山下耕作公開:1968年
日本語(モノラル)
95min.
カラー
販売:東映株式会社
発売:東映ビデオ株式会社
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