Pravdaの日記: 〔DVD〕 アタラント号
ジャン・ヴィゴ監督作品の第二回目は『アタラント号』(1934年)。唯一の長篇映画にして遺作。
アタラント号はル・アヴールとセーヌ川上流とを往復するはしけ船。その若き船長ジャンは田舎町の娘ジュリエットと結婚し、はしけ船の中に新居を構える。船には変人の老水夫ジュール親爺と少年水夫が乗り組んでいる。やがて船はパリに到着するが、約束したパリでの二人のデートはキャンセルに。しかし大都会パリに憧れるジュリエットは夫に黙って深夜に船を出る。怒ったジャンは彼女を置いてアタラント号を出航させる…。
はしけ船を舞台に、新婚夫婦が仲良くなったりケンカしたりする話とも言えるでしょうが、映画的誇張があるものの、繊細な心の機微がいいですね。また、新妻ジュリエットが加わったことにより、それまでの船長とジュール親爺との心理的なスタンスが変化する描写も秀逸。
新妻ジュリエットの役はディタ・パルロ。キュートで可愛い。また行商人に扮するジル・マルガリティスが、いい味を出しています。圧巻はジュール親爺の役のミシェル・シモンの怪演でしょう。『旅路の果て』(1936年) [srad.jp] にも出ていました。
この映画、よく観るとかなり短いショットの積み重ねで構成されているのが分かります。むろんそのテンポを基調にしているのですが、各ショットの並びは説明的ではなく、むしろ観る側のイマジネーションを喚起するような編集。前のエントリ [srad.jp] で「詩的映画」の特徴に映像のテンポを挙げましたが、観客それぞれの心の中に持っている「詩情」を引き出してしまう映画、とも言えるかもしれません。
監督のジャン・ヴィゴは肺結核の持病があり、この『アタラント号』を撮った1934年、敗血症にてわずか29歳で夭折。それ以降、この作品の受難が始まります。娯楽性に欠けると判断した配給会社と映画館主は20分以上もカットし、音楽を付け直してシャンソン映画『過ぎゆくはしけ』と改題し公開したそうです。おおよそオリジナルな形に修復されたのが1990年。前作の 『新学期 操行ゼロ』(1933年) [srad.jp] が上映禁止措置のため、ほぼオリジナルが残されていたのと比べると皮肉な話です。
蛇足ですが、映画史的にいうと、この時代は映画館主の発言力が強く、フィルムが可燃性だったため映画館には火災対策が必要でしたし、またトーキー時代になると当時の最新テクノロジーの拡声PA装置を設置せねばならず設備投資にお金がかかったので、映画館主の意見は大きな影響力があったのですね。これは日本も事情は同じでした。
1934年と、日本の暦でいうと昭和9年の作品ですけれど、このあふれんばかりのリリシズム、構図の斬新さ、洗練された省略話法の現代性には瞠目させられるものがあります。映画は徐々に進歩しているようにも見えますが、過去の天才の撮った一本を凌駕することは至難の業で、そういう意味でやはり「芸術」であろうかと思います。
以下、DVD裏のデータより。
■ CAST
ミシェル・シモン
ディタ・パルロ
ジャン・ダステ
ルイ・ルフェーブル■ STAFF
監督:ジャン・ヴィゴ
撮影:ボリス・カウフマン
音楽:モーリス・ジョーベール公開年度:1934年
字幕スーパー、日本語字幕のみ
85min.
モノクロ
発売元:株式会社アイ・ヴィ・シー
〔DVD〕 アタラント号 More ログイン