Pravdaの日記: 〔書籍〕 偽書「東日流外三郡誌」事件
時間ができたので、久々に本の紹介です。斉藤光政『偽書「東日流外三郡誌」事件』(新人物文庫)。東日流外三郡誌は「つがるそとさんぐんし」と読みます。著者の斉藤光政氏は1959年生まれで、青森の地方紙・東奥日報社の編集委員。ジャーナリストとして、この「偽書」問題とかかわった一連の経緯をまとめた本。
以下、新人物往来社のWebページ、カバーの紹介文および目次概要。
http://jinbutsu.chukei.co.jp/detail/index.php?id=9784404037824
「謎の古文書」の、とんでもない正体
青森県津軽地方の農家の天井裏から“発見”された、膨大な数の古文書。正史に記されない驚愕の「失われた古代・中世史」の出現に、人々は熱狂した。しかし、一件の民事訴訟をきっかけに、文書の真贋をめぐって歴史・考古学会、メディアを巻き込んだ一大論争がはじまる──。
追究の最先鋒として、文書群の「トンデモ」ぶりを検証、偽書事件の構造を徹底した取材で明らかにし、論争に終止符を打ったひとりの地元新聞記者の奮闘記が、後日譚を加えて新たに文庫で登場。「なまじの推理小説よりはるかに面白い」傑作ルポルタージュ!(解説・鎌田慧)
■ 目次概要
- プロローグ
- 第一章 訴えられた謎の古文書
- 第二章 筆跡鑑定
- 第三章 偽書説
- 第四章 告発と告白
- 第五章 論争
- 第六章 御神体
- 第七章 聖地
- 第八章 増殖
- 第九章 奉納額
- 第十章 役小角と謎の竹筒
- 第十一章 判決
- 第十二章 背景
- 第十三章 偽化石
- 第十四章 寛政原本
- エピローグ
青森県五所川原市の北30キロにある市浦村。『東日流外三郡誌』は1975年、この村の公史である『村史資料編』として初めて世に現れ、そのあと『東日流外三郡誌』は弘前市の北方新社、東京都品川区の八幡書店と版元を変えて出版され続け、総売り上げは軽く1億円を突破したのだとか。この元となる膨大な古文書は、発見者とされる和田喜八郎氏の名から「和田家文書」と総称されました。
しかし発表初期より「偽書ではないか?」という疑念が呈され、「偽書派」と「擁護派」が対立します。あくまで私見ですが、「擁護派」にひとりのビッグネームがいなければ、さほど大きな論争にならなかったでしょう。そのビッグネームとは、「九州王朝説」で有名な元昭和薬科大学教授(古代史)の古田武彦センセイ。
この本の著者は、まさにジャーナリズムの王道でコツコツと、「偽書派」だけでなく「擁護派」からも取材を積み重ね、中立的な姿勢でこの「偽書」問題を解明しようとしています。「ネタの裏を取る」という地道な取材からどんどん「擁護派」のメッキが剥げていき、その報道記事に対して「擁護派」が泥縄式の反論を試みる様子は、まさに「なまじの推理小説より面白い」。
歴史学という学問は、現在では人文科学と社会科学にまたがる分野ですが、「科学」と名の付く以上、その方法論に従う必要があります。「疑似科学」という点から興味深かった箇所がありますので、以下引用。
また、原田〔原田実・偽史研究家〕は、『外三郡誌』を現代人による偽作と考える一方で、それを取り巻く擁護派の姿勢を「疑似科学」の最たるものだと受け止めていた。疑似科学とは文字どおり「科学を装ったまがいもの」のことで、原田はその基準として、(1)反証不可能性、(2)検証への消極的態度、(3)立証責任の転嫁──の三点を挙げている。〔p.311〕
このうち、(3)の立証責任の転嫁はこの本の中で、分かりやすい例として米国ペース大学の心理学教授、テレンス・ハインズの著作を引いていますので、以下に孫引き。
彼ら(UFO信奉者:引用者注)は、未確認飛行物体は宇宙からの飛行体だと主張している。こうした意見の持ち主たちは、ほとんど無限といってよいほど多数のUFO目撃事件やUFO関連の現象を収集しているのだ。だから疑いを抱く者に対して、その膨大な報告の一つ一つを説明できない限り、UFOが宇宙船であるという説は正しいはずだ、という説得がなされる。言葉を換えていえば、立証責任は問題の説を否定する批判者の側に、いつのまにか転嫁されてしまっているのだ。現実には、法外なことを主張している本人こそ、立証責任を背負ってしかるべきだろう。(テレンス・ハインズ『ハインズ博士「超科学」をきる』科学同人、1995年)〔p.312-313〕
要するに『東日流外三郡誌』擁護派は、擁護するがゆえに多くの矛盾を抱え込んでいるのに、それらが信じられないという理由の説明を偽書派の方に求め続け、“『東日流外三郡誌』は正しい”という立証を自分たちの手で行わない、ということです。立証責任の転嫁は、言い合いのテクニックとしては有効かもしれませんけど、それはあくまで「ネットのケンカの勝ち負け」のレベルで、真理を探究するべき学問的態度とは、まるっきりほど遠いと言えましょう。
新聞記者さんが書いただけあって、文章も明解平易で話が判りやすく、スラスラと肩が凝らずに読める一冊。年末年始のお休みの間、電車の中やちょっと暇な時にでも読んでみられてはいかがでしょうか。
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