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SS1の日記: 追悼:イリヤ・プリゴジン

日記 by SS1

イリヤ・プリゴジン氏が亡くなられた。「ブリュッセル自由大学によると,28日,ブリュッセル市内の病院で死去 」と毎日新聞5月29日(共同)で報じられている。イリヤ・プリゴジンは86歳だった。ブリュッセル自由大学のサイトトップにプリゴジンの記事があるが,私は仏語が読めない。現在のところ,情報はこれですべてのようだ。

イリヤ・プリゴジン。プリゴジーヌと記されることもある。フランス人というわけではなく,ベルギー在住の亡命ロシア人でユダヤ系・・・ などとはしょると怒られてしまうが,ここらの話は北原'99の“2.プリゴジンの生い立ち”が詳しい。

プリゴジンは熱力学における自己組織化の理論,散逸構造論による貢献で,ノーベル化学賞(1977)を受賞した。彼のビブリオグラフィは,米テキサス大学統計力学・熱力学センター (The Ilya Prigogine Center) の Ilya Prigogine's page からたどることができる。 同ページの Recent Journal Articles から,2000年をピークに昨年まで精力的に活動をしていたことがわかる。

さて,「あまり知られてないが,プリゴジンの哲学は1980年代,サイバーパンクの思想的核のひとつとなった。 [小谷'98]」

シミュレーション技術が発達し,散逸系の自己組織化された構造を気軽にディスプレイ上で見れるようになったのも80年代からだろう。たとえばそれは,グレートウォール(1986)[NASDAi]や,SimCity(1989)[PDF]にみつけることができる。

参考URL:
プリゴジンの入手可能な邦訳[BK1]。同略歴[ICC]。
「プリゴジンの思想と科学」北原和夫,1999,科学史Newsletter 3[ICU]
『確実性の終焉』書評,小谷太郎,1998,天文月報

蛇足:
私が読んだことのあるプリゴジンの本は『混沌からの秩序』と『存在から発展へ』の2冊。どちらもノーベル賞の受賞を受けて80年代に書かれた一般向けの啓蒙書だ。もちろん私が散逸構造論などを理解しているわけはない。私が,これらから受けたのは思想的な影響だと思う。それまでの熱力学の予言するエントロピー極大化という終末観の変化とか,混沌としたシステムから秩序を生み出そうとする考え方とか,ストックではなくフローの中に価値を見出そうとする意志とか。そういった,けっこう深いところの行動規範に影響してる。

自然科学者が与えた哲学的な影響といえば,ダーウィン,アインシュタイン,ドーキンス,ホーキング・・・ とくるのだろうけれど,アレゲ的には,プリゴジンは絶対にはずせない一人である。なぜなら,強引だが散逸系=オープン系を意味しているからだ。オープンなプロジェクトは,オープンでありさえすれば自己組織化される。対して,自由な運動でも閉じた系では熱力学的な死へと向かうしかない。と,私は信じているのだ。 このような(根拠の無き,私の)信念を彼の理論が支えてくれているわけだ。・・・ただまあ,こういうトンデモ仮説で,オープンにすることを誰かに薦めたり,クローズにすることを批判したことはない。今なら『伽藍とバザール』があるけど,そういうのが無くて,経験的に「そうしなきゃプロジェクトが続かない」と知られていたころは,こいつが心の支え(というか,一種の操作モデル or 哲学)になってくれていたように思う。

カオス工学を(歯ぐきから血が出ない程度に)かじったことがあると思いつく妄想なんだけど,「クォークって,ぢつはリミットサイクルが発現してるのかも?」なんてことを考えたことはあるだろうか。ついでに子供のころに読んだ,湯川秀樹博士の「原子はコスモスではない。カオスである」なんて言説が記憶に残っていて,そこで批判されていたような,スケールが輪廻する宇宙観なんかが再現できないかと思っていたことがある。でまあ同じようなことを考える学生は多かったらしい。カオスブーム当時に数学専門誌(三誌のどれかは忘れた)でカオス特集があって,立ち読みしてたら,いきなり結論を読んでしまった。誰が書いてたかは忘れたけど「・・・説明は省くが,量子力学にはカオスは存在しない。」だ,そうだ。おかげで夢も希望も無くなった。そんなわけで,『確実性の終焉』は,読みそこねてしまったのである。私の場合。

欧米は(仏の官僚をのぞけば)終わってしまった科学領域に対して,実にドライである。本家でも,ぐぐれる唯一のコメントがこれだけと,けっこうさみしいものがある。それでもプリゴジンは,宮代真司の講義にみれる社会学者への影響とか,ちょっと面白かったマッキンゼーの記事を見ると,散逸構造論のアレゲな応用を目指していたエンジニアって,かなりいたんじゃないかと思う。カフカとサッカーに免疫系を適用しようとしたトンデモさんとか,ちーともわからんギデンズさんは置いといて,散逸構造論はシステム論として身につけておきたい「使える理論」である。

 

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私は悩みをリストアップし始めたが、そのあまりの長さにいやけがさし、何も考えないことにした。-- Robert C. Pike

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