ここしばらくやってたドラマ「BORDER」が最終回となったが、非常に残念な終わり方だった。BORDERは「ある事件で銃撃され、頭の中に弾丸が残ってしまった若くて優秀な刑事が、その影響で死者と話せるようになり、この能力を駆使して事件を解決する」というのが主な内容。
毎回毎回、最初に「人は死んだらどこに行くのか」というあおり文句が入る。
主人公の石川は若くて容姿も良く(小栗旬だからな)、腕っ節も強いし、頭も切れ、職務に精励して被害者の無念を晴らすために動く。必要なら裏社会のコネも使う。はいはい完璧超人完璧超人と言いたくなるほどの主人公っぷりだ。
(ただし、だんだん安易に裏社会のコネを使うようになって行くので、上司とか検死官からは心配されているのだが、主人公はのらりくらりと追求をかわしている)
全9回のうち、途中、ダメなおっさんが酔っ払って鉄柵を飛び越えようとして失敗して死んだのが殺人事件ぽいから捜査したけど、殺人事件じゃなかったことがわかる、という毛色の違う話があって、工藤カンクロウっぽい脚本だなぁ、と勝手に思ってた。
(ほとんど毎日周辺で人が死ぬ某名探偵コナンにも誰も死なない日常系事件が挟まるようなものなのだろう)
最終回、急に「私は絶対的な悪です」とか言い出すやつが出現する。出現するといっても、ショッピングモールで男の子を誘拐して殺して死体を遺棄した犯人として出てくる、ということなのだが、随分唐突な話だな、と思うと同時に「今日は最終回スペシャルで二時間枠なのか?」とも思い、番組情報を確認すると、通常の一時間枠だった。
大丈夫かコレ? と思ったときには既に三十分ぐらい経過してるわけである。放送時間的にも解決を急がなければならないが、主人公が急に「被害者の男の子の頭髪を被害者宅から持ち出し、犯人の自宅のソファのスキマに埋め込む」という、意味の分からない行動に出る。
いやさ、犯人の自宅から髪の毛が出てきたから何よ? 刑事モノだから最終的に犯人が受ける判決は管轄外だとしても、ちゃんと有罪まで持っていける状態にしないと。
それとも、最近流行の「逮捕しちゃえば社会が勝手に抹殺してくれる」に対する風刺のつもりなのだろうか。
案の定、思惑は外れ(実際には、家宅捜索してもその髪の毛を警察に発見させることに失敗し)て、自称絶対的な悪に勝ち誇られちゃう… のだが、この自称絶対的な悪も言ってることが(脚本に書いてあることが)なんかおかしい。
「私は絶対的な悪なので、これからもガンガン悪を成します。とはいえ、今回子供を殺したことで、しばらくは母親が我が子から目を離すようなことは減るでしょう」
殺人=悪 と仮定して、母親が我が子から目を離さなくなる=善 とすると『絶対的な悪』って何よ? 絶対的な悪など存在しない、という主張ならそうだけど、今回の犯人は自称絶対的な悪である。
主人公のほうは、犯人に「あなたは絶対的な正義」とか言われても否定しないし、疑問も抱かない。お前、今までの切れ者キャラはどこに忘れてきたんだよ。俺はただの警察官で、世の中の母親のことなど関係なく、殺人犯は捕まえる。それだけのことが何故言えないのか。その気になってるんじゃねーよ。
挙句の果てに、自称絶対的な悪に襲い掛かり、マンションの屋上から突き落とす寸前まで持って行き「死にたくなければ証拠を差し出せ」とか言い出す。残り放送時間も数分になる。大丈夫なのかコレ、と俺はもう一度思う。続きは劇場版か!
自称絶対的な悪がまた問題発言をする。
「絶対的な悪と絶対的な正義は同じです。違いは、それを実行する者だけ。
私は悪を成すために人を殺せるが、あなたは無能なのでそれができない」
逆転裁判なら格好のゆさぶりポイントである。俺は心のLボタンを連打していたのだが、残念ながら待ったがかからない。仕様である。
絶対的な正義と絶対的な悪は表裏一体なのか、同一なものなのか、どっちの主張なのか、もうわけがわからないのである。これが違う人物の台詞であれば話は違うが、自称(人が殺せるほど有能な)絶対的な悪という同一人物の発言である。
これは突き落として殺すだろうな、と思ったら、突き落として殺したので、そうなるよな、と思ったのだが、主人公が茫然自失といった感じで泣き出したので「なんでそうなる」と声に出してツッコんでしまった。
それで、自称絶対的な悪が(死んでいるので、主人公にしか知覚できない死者の状態で)、主人公の肩に手をやり(ポン、と音がする)、無表情に「こちらの世界にようこそ」と言って、暗転し、終了。
ハァ?
絶対的な正義と絶対的な悪は同じなら「こっちの世界にようこそ」はおかしい。殺せるか殺せないかは能力の差なんでしょ? 表裏一体(悪があるからこそ正義が輝く)なら、さっきの同一発言がおかしいことになる。
これまでの話で、死者は現世に一切干渉できない(テレビのスイッチを入れることもできない)とされているから、最後に肩を叩けるのもおかしいのだが、自称絶対的な悪を突き落として自分も死んだので「こっちの世界にようこそ」と考えることもできなくはない。できなくはないのだが、何も描写がないのにそう解釈することに賛成はできない。
それに、シリーズの副題が7.敗北 8.決断 9.越境 である。7.敗北では「ひき逃げ犯が目撃者を脅迫したり同乗者を自殺に見せかけて殺したり海外に高飛びしたりしたので、逮捕できずに逃がしました」を踏まえ、8.決断で「弾丸と共に生き、正義を貫くことを決断した」けど、今回の9.越境で「正義と悪の境界を踏み越えた(表裏一体説)」のだとすると、主人公悪堕ちエンドと解釈すれば話は簡単だが、その場合は、お前は8.決断で何を決断したんだ、と言いたくなる。
心が折れるの早すぎ。
逆に7.敗北で出てきた探偵だか報道屋だかが「端から見れば絶対的な正義も絶対的な悪も同じ怪物」と言った(善悪同一説)のも含めて、善悪同一説で行くなら、それでも良かった。ただし、最初に犯人が「悪があるから正義が輝く」とかいうのはなしな。犯人の主張がブレているのが話をおかしくしている。
善悪同一説に同意するなら、自称絶対的な悪を殺して、主人公はラストまで堂々としていればよかった。
「俺はお前を殺した。だが、理不尽に子供を殺されて悲しむ母親は少なくなるだろう。絶対的な正義と絶対的な悪が同じなら、文句はあるまい。生き残った俺の(絶対的な正義の)勝ちだ。死者のお前には、もう何もできない」
これぐらいの台詞が出て初めて、7.敗北が伏線になり得ると思うのだが、その場合、9.越境が副題としておかしくなる。
あと、犯罪(=法律違反)=悪という前提で善悪を語りはじめるとダメだ。法律は社会制度であって、正義ではないし、善でもない。もちろん、正義を志向しているが、それは社会正義というもので、必ずしも善ではない。悪法もまた法なり、と言って毒殺されることに抵抗しなかったおっさんもいるのだ。殺すことが悪なら、法は悪であると言えるし、善悪表裏説をとるドラマの根幹としてはおかしい。善悪同一説ならいいが、その場合はラストがおかしい。
残念な結果であった。