kahoの日記: ローマ時代のファンデーション 9
昨年ロンドンのローマ時代の遺跡で,直径6cm,高さ5.2cmの缶に入ったクリームが発見され,その分析結果がNatureのBrief Communicationsに出ていた(Newsでも紹介されている).保存状態は非常に良く,指でとった跡が残っているほどだったらしい.
発見当時は練り歯磨きだとか医薬品だとか羊を殺す前に塗ったものだとか言われていたが,詳細な分析の結果肌をきれいに見せるための,現代で言うところのファンデーションだということが分かったと言う.
まず元素分析によりほとんど窒素や硫黄が含まれていないこと(つまりゼラチン等のタンパク質がない)が分かり,脂肪酸の分子構造の精密な分析により脂肪の由来は反芻動物(羊や牛)の,(乳ではなく)体から採取したものであることが分かった.
成分は羊か牛からとった脂肪と澱粉で,澱粉はローションやハンドクリームに添加されているのと同じようにべたつきを押さえる目的ではないかと考えられる.ちなみに澱粉の量の定量は(懐かしい)ヨード反応によってやったらしく,小学生に授業をするには面白い余談が増えたかもしれない.
また,コレステロールとその誘導体の量から脂肪がいったん加熱されており,おそらく脱色のためであろうとされている.
有機物以外の成分では,合成された酸化スズか,錫石(スズの原石)が含まれていた.酸化スズを入れることによってクリームを肌に塗るとシミを隠して白い肌に見えるようになるということだが,ローマ時代にも関わらず酸化スズを肌に塗るために使用していたということは
1) 鉛中毒は2世紀までには知られていたのでスズと鉛の見分けができていた
2) 空気中で加熱することにより毒性のない無機スズができる(有機スズは有毒)ことが分かっており,その製法が確立していた
ということになり,化学知識がかなり発達していたことがわかる.
いつの世も女性の美しくなりたいという願望は(ローマ時代は男性だったかもしれないが)最新の科学を取り入れる,すごいエネルギーだったのだなあと思うことしきり.
鉛 (スコア:1)
実際には、ローマ人はかなり早い時期から鉛中毒に関する知見はあったようで、同時に「流水量の多い配管ならば毒性は極めて低くなる」という認識があったようで、水圧の高い本管には鉛を使用して、配水管には使用しなかったようです。こういった鉛の使用方法は1Cにはすでに見られているので、毒性に対する知見を獲得したのはもう少し早い時期(少なくとも内乱末期から帝政初期)かもしれません
Re:鉛 (スコア:1)
天然原子炉の話では原子力政策にはほとんど興味がないので恥ずかしい書き方をしたなあと思いつつもそのまま恥を晒しておこうかと.
水道管経由の鉛中毒というのはもともと恐らく大した量ではなかったと思うのですが(経口での摂取ではあまりとりこまれない),認識があった割にワインの添加物に使用したりブリテン島以外では酢酸鉛(酢に入れてつくったらしい)をおしろいに使ったりと,現在のように毒性に対する認識が体系的であったかは疑問の残るところです.
毒性の認識ははあるが,代わりがない/それ以上の利益がある場合には使われていたのでしょうね.
今回の発見のような,錫への代替が進んだ理由はコーニッシュ(イングランド南西部)で錫が採れるようになったことが大きいのだと発表でも触れられていました.
kaho
Re:鉛 (スコア:1)
原子炉の気体廃棄物処理の現状ですが、希ガス系やヨウ素などは加圧水型炉ではループ内の専用のガス系回収装置を使って、沸騰水型炉だと蒸気タービンを通過した後の復水器で回収しています。ゾル状のものなどは、活性炭を使ったエア・フィルターを使って除去しています。また、希ガス系の放射性気体廃棄物は数日程度の半減期なので、タンクやフィルターで一旦回収して、数値レベルが低くなった時点で外部に放出したりします。海外では、単に大量の空気に混ぜて放出するだけ、というところもあるみたいですが
#フィルターそのものは、交換作業の後、一般の低レベル放射性廃棄物(所内で使用したグローブや使い捨ての作業着など)と同じく、所内の処理施設で焼却して体積を減らした上で、ドラム缶にアスファルト固形化した状態で最終処分されます
問題は、事故等で大量に放射性気体が発生した場合ですが、ガス処理系の処理能力を大幅に超えてしまい、外部に漏れ出すというのは十分考えられますし、過去の原子力事故でもしばしば発生しています。多孔リン酸アルミニウム粉末を使ったフィルターが、どれくらい性能が高いのかよくわからないですが、もしかするとこういった事故時の制御に使えるのかもしれません
ただ、通常運転時には廃棄サイクルを考えると、かなり高コストな処理手段になるような気が・・・。
sugar of lead (スコア:1)
粉末を加えていたのではなく,鉛の器に酢を入れて煮ると酢酸鉛が溶け出してくるので,これをsapa [wordiq.com]あるいはdefrutumと称してワインに入れていたそうです.
水道管が酸化されたりカルシウムが堆積したりして鉛の流出はほとんどなかったと考えられるのに対して,鉛中毒によって(皇帝は高級ワインをそのまま飲んでいたとしても)ローマ市民の一定数が鬱状態になったというのはあり得ないことではないようにも思えます.ただ体内での半減期が10年ということなので,排出される以上に取り入れていたかどうかは分かりません.
詳しいページ [ucsf.edu]があったのでその内容を簡単にまとめますと,
・BC160 Catoがdefrutumの作り方を書いている
・AD77 Plinyが同様の(少々魔術めいた)方法を記す
・Plinyが粉末のsapaが堕胎を引き起こすこと,酢酸鉛が毒であることを記載
ということなので,調理器具に使ったり溶け出した鉛の危険性については理解されていなかったものの,比較的即効性のある吸引による摂取については現在と同様の知識があったのでしょうね.
最近でも酢酸鉛が甘いということが問題を引き起こすことがあったようで,塗装のペンキに乾燥を早める目的や白色を得るために用いられた酢酸鉛 [molecularexpressions.com]が子供の間で甘いと評判になり,それが鉛中毒を引き起こした [www.ne.jp]というページもありましたが,ペンキや絵の具に含まれる鉛が問題になったのは確かのようですが,実際になめて中毒になったかまでは確認していませんが,これも乾燥して粉末となったときに肺に入る方が危険が高そうです.
kaho
Re:sugar of lead (スコア:1)
ギリシア・ローマ時代には、ワインは水またはお湯で割って飲むのが一般的だったようで、ストレートで飲む例がほとんどないということは知っていたのですが、相当甘くないと飲めないのではないかと思っていたんですが・・・。
Re:鉛 (スコア:1)
>海外では、単に大量の空気に混ぜて放出するだけ、というところもあるみたいですが
今回のニュースのインパクトはこのあたりにあるのでしょうね.
ご指摘の通り事故が起きたときのために用意するとすれば放出される量も経路も予測ができないのであまりにも高コストだし,もっと気にしなければならないことが多いですから.
燃やして低レベル放射性廃棄物にするのは希ガス用のフィルターだけだと考えてよろしいのでしょうか?ゾル状放射性物質を吸着させた活性炭を燃やすのは反対団体が黙っていないような・・・
kaho
Re:鉛 (スコア:1)
#発電炉だと設計思想と回収システムの違いからPWRでは半減放出、BWRでは活性炭吸着回収を取っている
フィルターは燃やせるものは燃やして体積は減らすはずですが、ゾル状のもので、飛散する可能性があったり焼却が困難なものは直接ドラム缶(これもコンクリートで内張りしています)に積めてアスファルトで固形化しています。発電所や処理施設内の焼却施設は、そのものが火力発電所並みの強力な集塵設備を備えていて、塵自体も低レベル放射性廃棄物として処理されます
気体廃棄物処理の問題は、希ガスそのものも厄介な問題には違いないのですが、むしろ希ガス以外のものが非常に厄介です。特に排ガスの中で放出量が最も多いヨウ素は甲状腺に蓄積して、40歳以下の年齢層だと甲状腺細胞を傷つけるリスクがありますし、40歳以上でも大規模な原子力事故の発生したエリアに入境する場合には、安定ヨウ素で甲状腺をあらかじめ満たしておくといった処置が必要です。ヨウ素の回収技術そのものも面倒で、銀に吸着させヨウ化銀の状態で回収するという高コストなものです
もう一つは、水素ガスの問題でこれは運転中の原子炉だけなく、再処理段階や高レベル放射性廃液の段階でも発生します。廃液管理の技術が未成熟だった1950年代から60年代にかけて、高レベル放射性廃液を、ステンレスで内張りしたコンクリート製の容器に封入するという処理方法が東西で取られましたが、容器の腐食と水素ガスへの引火で何件か爆発事故が発生しています
50年代末の、いわゆる「ウラルの核惨事」が最も有名な事例ですが、70年代にフランスやイギリスの再処理施設でも停電事故による冷却システムの停止で同様な事故が発生しかかっていますし、現在でも古い処理槽に密閉したままの廃棄物の処理が米国でも問題になっています。処理そのものは、ガラス固化技術が確立しつつあります
また、原子炉では水素の発生は炉構造物の脆化の原因になったりするので、PWRでは一次系でガス分離装置を置いて回収してます。まぁ構造物脆化の問題は、水素以外でも最近中性子制御用に冷却材に混ぜているホウ酸の問題も注目されていたりしますが・・・。
Re:鉛 (スコア:1)
von_yosukeyanさんの日記を読んだときにも思いましたが,確かに水素の処理は大変そうですね.
簡単に燃やして水にするわけにもいかないし,半減期が無茶苦茶長いし.
ヨウ素の大変さは大学の放射線施設で大抵伝説になるのがヨウ素関係なので想像つきますが(ヨウ素のバイアルを開けた瞬間に昇華して警報機ならしまくったとか,全身シャワーだけではすまなくて髪をごっそり切らされた女性がいたとか・・・最近は蛍光標識が発達したので少なくなったとは思いますが),ヨウ化銀そのものを固化するのですか.知りませんでした.化学的に処理しているものとばかり思っていました.
kaho
Re:鉛 (スコア:1)
沸騰水型原子炉(BWR)で活性炭フィルターで固定除去してるのも似たような理由で、ガス回収系は復水器でタービンを回った後の蒸気から回収しているものですから、言ってみればタービンのシール排気から酸素、水素(同位体も)、希ガス、ヨウ素と様々な気体が混じっているので、加圧水型(PWR)より分離が大変だからだそうです
放射線施設や医療用に使われるヨウ素131(半減期8日前後だったような)や水素同位体は原子炉で生成していますが、発電用原子炉のものが回収されているかどうかはわからないです。専用の原子炉(発電しない炉)というのはあるみたいですが・・・。でもヨウ素131も高価ですが、トリチウムや重水は「金で購入可能な最も高価な物質(の一つ)」といわれたりするので、もしかして回収するのかも知れません