kahoの日記: ヒトは皆モザイク
症例としてはそう多くはないのだが,皮膚の遺伝病にヘイリーヘイリー病(Hailey-Hailey disease; HHD)という病気がある.
これは感染症に気をつけていれば致死的なものではないし年齢が高くなると症状が和らぐのだが,夏になると皮膚の決まった部分が腫れ上がって痛みを生じる.この原因は3番染色体q21-24にある,カルシウム/マグネシウムポンプであるATP2C1遺伝子(OMIM 604384)が原因なのだが,ヘイリーヘイリー病の患者によっては皮膚の一部だけに症状が現れることがある.
HHDにおいて,きわめて明瞭な境界をもった部分が腫れることがあり,患部が正常組織に囲まれているものをtype 1 HHD,より穏やかな症状の皮膚に囲まれるものをtype 2 HHDという.(type 1は患部以外は正常なので恐らく発生過程で変異が入ったもので遺伝する可能性は低いのだが,type 2は優性遺伝で両親の一方がその遺伝子を持っていると1/2の確率で子供に発症する)
なぜこのように皮膚の一領域に症状が限られるかと言うと,持っている遺伝子のセットが境界のこちら側とあちら側で異なっているからだ.これはHHDに限らずある種のトリソミーなどでもみられるが,mosaicism (日本語訳は知らない)と言われる.
mosaicismは確率的に考えると全ての人がそうなのだが,受精卵から成長する過程で遺伝子の中に変異がおこるとその細胞から分裂した細胞は,元々の受精卵が持っていた遺伝子セットとは異なる遺伝子のまま増殖することになる.そしてそれが特定の領域(HHDならATP2C1遺伝子)に起きると病気として認識されることになる.
このHHDのことがScience Blogで採り上げられていて,この記事の契機となった論文とレビューがフリーで公開されていたので読んでみた.
興味深かったのは著者らが観察したHHDのmosaicismではトリソミーやその逆の染色体丸ごとの欠落が起こっているわけではなくて,父親由来のATP2C1遺伝子を含む特定の部分がなくなっていたこと.
これはただ欠落したのではなくて,その部分が母親由来のDNAに入れ替わっていたようだ.従って症状の穏やかな部分と激しい部分ではATP2C1遺伝子の発現量が母親由来と父親由来のもので異なっており,患部ではほぼ母親由来の遺伝子だけが発現していた.
これはloss of heterozygosity(LOH)と呼ばれる現象で,染色体の一部が両親から1コピーずつもらった別々のものであるはずが,染色体の組み替えによって両方とも同じ配列になってしまうことによる.
癌細胞などではLOHがよくみられ,異常な遺伝子を持つ細胞だけが多くなってしまうことがあるが,HHDでもそれが起きているということだ.
これがtype 2 HHD患者のどの程度の割合で起きているのかは分からないが,LOHが発生の初期段階で起きてそのmosaicismが疾患とつながる可能性については考えに入れておく必要がありそうだ.
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