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kahoの日記: 糾弾会ですか?(汗)

日記 by kaho

今週のNatureのBrief Communicationsがちょっと騒がしかったので見てみた.
去年の4月にPlotkin氏らがNatureで一つの生物のゲノム配列からpositive selectionを検出する方法を提案したのだが,その本人とそれに対する反論x2,更に再反論が載っていたのだ.

まずpositive selection (正の淘汰)というのが何か言わないといけないと思う.
遺伝子に有害な変異が入り込むとそれが個体の生存に不利になってその変異遺伝子は淘汰され,これをnegative selectionといい,実験室でも簡単に観察できる現象だ.
その一方で,まれに有利な変異というものがあり,その遺伝子は種の間に増えて拡散していくこともあると(計算上)考えられ、これをpositive selectionという.

これまで伝統的にpositive selectionの検出方法はある遺伝子について他の多くの生物の同じ遺伝子との比較で行ってきた.
生物の遺伝子は3つのヌクレオチドを単位とするコドンで1つのアミノ酸を表すが,ヌクレオチドは4種類なのでもし冗長性がないとすると4^3で64種類のアミノ酸を表すことができる.
しかし生物のタンパク質合成に使われるアミノ酸は20種類,そこで翻訳は終わりだと言う終止コドンをいれても21種類表せれば十分な訳で、多くのアミノ酸は一つのアミノ酸に複数のコドンが対応している.

遺伝子に変異がおきるとき,アミノ酸を変えない変異を「同義置換」,変える変異を「非同義置換」という.
もし変異がランダムにおきるとしたらもともとのアミノ酸を変えてしまう変異よりも変えない変異の方が多くなるのではないか?という推測の下で,これまでは同義置換と非同義置換の比を計算して(dN/dS比と称する)もし非同義置換がひどく多い用であればタンパク質の性質を変化させることが有利に働いたとしてpositive selectionがおきたとしていた.
この方法は明らかに一つの生物のゲノム配列だけでは検証ができない.
なぜなら他の生物の同じ遺伝子がなければそれがどのような変異だったかがわからないからだ.

去年の論文ではvolatility indexという概念を導入することで他の生物のゲノムがなくてもpositive selectionをみつけよう,という趣旨で書かれていた.
このvolatility indexはあるコドンが今の状態にある前はどのような配列だったかを考えると、終止コドン以外の別のアミノ酸だったはずだし,一塩基置換した元が同じアミノ酸を表している場合とそうでない場合があるということを元にしたアイデアだ.
変わりやすいコドン,変わりにくいコドン,その合計を計算していくとき,わずかな変異で現在の「変わりやすさ」(volatility)が大きく変化してしまうとしたら,その遺伝子が今ある状態にあること(を数値化したものをvolatility index)は非常に稀なことだろう.そしてそのような遺伝子こそが今あるこのコドンの使い方になるように淘汰を受けたもの,すなわちpositive selectionの証拠だと考えている.

かなり長い説明になったが,今回なされた反論は伝統的なdN/dS比との相関が全くないとか,アミノ酸の組成によって大きく影響を受けるといった反論がなされている.
PubMedを調べてもかなりひどい扱いのようだ.

最初この方法論を見た時は私もちょっと粗雑すぎるという気がしたが、分子進化の連中の反論を見ていると逆にむかむかしてきて応援したい気になってきた(笑)
そもそもdN/dS比でpositive selectionを見るという方法論自体が仮説的なものだし,もう30年も新しい方法の確立を怠ってきた連中に人を罵る権利があるのかと.

これまでコドンの使われ方を計算している人間もかなりいたが,それらはほとんど観察するだけで意味のあることを言って来なかったのに,そのデータを意味のあることにつなげられる手法がでてきたということでももう少し暖かく迎えられてよいと思う.
現在の方法は確かにアミノ酸組成に依存しすぎるし(そのため全然機能が未知な遺伝子ばかりがvolatility indexが有為でpositive selectionを受けたとしてしまった),何らかの補正を加えて精緻にしなければならないと思うが、アイデアの出発点として悪くないのではないだろうか.

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ナニゲにアレゲなのは、ナニゲなアレゲ -- アレゲ研究家

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