kazekiriの日記: 映画「Revolution OS」について
http://shujisado.com/2017/06/20/612963/へ移転
例によって一回脱線し、既に何度か言及している「Revolution OS」という映画について書いておく。
Revolution OSは、Richard Stallmanが開始したフリーソフトウェア運動とGNUの誕生からLinuxカーネル、伽藍とバザール、オープンソースの誕生、そしてVA LinuxのIPOまでの歴史とそれに関連する思想をまとめたドキュメンタリー映画である。私がこの一連のVAの歴史において触れてきた人物、RMS、ESR、Linus Torvalds、Bruce Perens、CygnusとしてMichael Tiemann、VA LinuxのCEOのLarry Augustinらのインタビューから主に構成されている。また、SVLUGでのインストールフェスタの模様、Microsoftのオフィスへ突撃をかましたWindows Refund Dayでのデモ行進、LinuxWorld Expoのステージ上で演説するRMSから聴衆の目線を奪い取るLinusの娘達、IPO直後のVA社のオフィスといった歴史的なシーンも含まれている。
このRevolution OSは、フリーソフトウェアおよびオープンソースの思想が分かりやすくうまく構成され、その面での評価も割と高いのだが、Red HatとVA LinuxのIPOでストーリーがエンディングに向かうのは日本人には少し違和感があるかもしれない。
実はこの映画は1999年6月、VA Linux社の創業間もない頃からの古参の幹部社員であるDouglas Boneがスタンフォード大学時代の友人でハリウッドの映画業界で働いていたJ.T.S. MooreにLinuxのドキュメンタリー映画を作ってみないかと要請したところから開始されている。彼もこの業界を代表する人々の個性と思想が良い題材だと思ったのだろう。撮影は7月から開始され、VA Linux社のIPO直後あたりで全ての撮影を終了した。Michael TiemannがCygnusの立場で語っているのはそのためである。つまり、撮影期間から考えるとVA LinuxのIPOで終えるのは座りがちょうど良かったし、インストールフェスタ、Windows Refund Day、LinuxWorld Expoのシーンは全てVA社のメンバーの手引きによるものだろうから、VAを中心に描かれるのはある程度仕方がないことだろう。私から見ればRevolution OSはVA Linuxの歴史そのものを描いているのである。
私が書いているVA社の歴史は現時点でこのRevolution OSと全く同じ時期まで書かれている。一連の長話を読んだ奇特な方が改めてこのRevolution OSを観ると、何故VA社のLarryがLinuxWorld ExpoでLinusを呼び出す役回りだったのかとか、Larryが何故 Red Hatの株価を気にしていたのかとか、SVLUGがほぼVA Linuxだったとか、細かいところのかなりどうでもいい部分への理解が進むかもしれない。
Revolution OSの脚本、監督、撮影、編集は全てJ.T.S. Mooreが一人で行った。そのためかもしくは資金不足かで完成は割と遅れ、初の試写会は2001年2月1日、LinuxWorld Expo New Yorkの開催日にタイムズスクエアにほど近いAMC Empire 25という劇場を貸し切って行われた。この試写会はVA Linux社の当時の子会社であったOSDN社(現在の日本のOSDN社のことではない)の主催によるもので、当日は私も招待されていた。日本人は私と当時の同僚の二人だけで、あとはVA Linux社の社員、そして様々なオープンソースプロジェクトの関係者で全席埋まっていた。
オープンソース誕生からの経緯も理解していた私にはVA Linux社の宣伝映画のように見えなくもなかったが、私にはこの映画が日本でのフリーソフトウェアおよびオープンソースへの理解に役立つと直感した。そのため、試写の終了後のパーティにてJ.T.S. Mooreに駆け寄り、日本でRevolution OSを上映させてほしいと要請した。その場では割と良い方向で話が進んだが、帰国後の交渉中に字幕作成、上映館確保費用や報酬の問題、配給のミラマックスとの調整の問題等いろいろ条件が我々には厳しいということが分かり、いったんペンディングとなった。そして、そのうちVA Linux社に大きなマイナスの変化が起きた時、VA Linux Systems Japan社としては米国にVA Linuxという存在があったことを一切無視することを私が決め、私の手によるRevolution OSの上映計画は完全に消えた。
その後、Revolution OSは各地の映画祭やO'Reilly Open Source Conventionといった世界各地のオープンソースイベントで上映された後、DVD化されてOSDN社傘下のThinkGeek.comにて販売された。もはやバブル当時のことも忘れ去られつつあった2003年、日経BPの音頭でRevolution OSの日本語字幕のプロジェクトが起こされ、日本でもDVDが販売されている。
ところで、今振り返ると、2001年2月1日の試写会の際、私はオープンソースの素晴らしい教材に出会えたことでテンションが高まっていたが、劇場内は「今の株価は5ドルだろ!」といった軽口や笑い声が飛び交いながらもどこか落ち着いた雰囲気であった。会場内の人々にはたった1年前までの自分達が起こしてきた出来事の映像であったわけだが、さらにもっと遠い過去のノスタルジーに浸るような雰囲気であった。試写の後のパーティもVA社にしてはやけにもの静かであり、おかげで交渉後は早々にホテルへ切り上げた記憶も残っている。
この数カ月後、VA Linuxは崩壊する。
今思えばその場にいた皆がそれを既に感じ取っていたのではないかと思う。
次回は出来ればその崩壊まで。
映画「Revolution OS」について More ログイン