パスワードを忘れた? アカウント作成
3175891 journal
日記

ken_non_sumの日記: mon amie, l'Hemmi

日記 by ken_non_sum

気分転換に掃除をしていたら、高校生のときに購入した計算尺が出てきた。
なんの気なしにふらりと入った潰れかけの文具屋の、ガラス棚の下のほうに無造作に置かれていて、箱も説明書もない、携行用の革のケースに入っただけであったが、それなりの価格だったように記憶している。その後しばらくは昼食のグレードを下げていたような気もする。
ちなみに、その店は数週間後廃業した。

しかし、これが、ヘンミの製品であることは分かるのだが、どうにも、用途の分からない目盛ばかりなのだ。
当時は、まだ、検索して調べるなんて思いもよらなかったし、数学の先生とはそれほど仲もよくはなく、あれこれ尋ねるということもなかった。それでも、C 尺と D 尺の使いかたくらいはどうにか理解できていたようだが、のべつ計算の要があるわけでもなく、たかだか 3 桁の精度なら暗算でも筆算でも変わりはしないじゃないか、と、それ以上追究することもなく、放り出してしまったのだった。

計算、という営みについて知ることの楽しさを、少しは理解できるようになった今ならば、もう少し何か分かるかも知れないと思って調べてみる。
HP 電卓や CURTA 計算機に今でも愛用者があるように、やはり計算尺にも収集家がいるようで、Hemmi Slide Rule Catalogue Raisonné なる表にヘンミ製品が網羅されている。これによると、手許のそれは、P141 という、空調の工事、設計に用いるために東洋キヤリア工業(現在の東芝キヤリア)からの発注で製造されたものらしい。
それがどうして場末の文具屋にあったのかは分からない。同製品が、一時期、多く市場に放出されたようだ、ということは、日本の有志の入手情報が幾つか検索に引っ掛かったので分かったが、その時期はもちろんずっとあとのことである。
;; 5/14 追記: 商品カタログに共同開発と書かれている。とすると、一般販売されてもいたのだろう。

それはさておき、素性は分かった。しかし、用途は分からない。いや、ダクト設計のための尺の使用方法が分かってどうなるのかという気もするが、流体関係の計算に使えそうなら、そそられるものがある。
もっとも、それらの特殊用途の尺が占めているのは一面の三分の二くらいで、のこりの尺やいまいっぽうの面には、C 尺や D 尺をはじめ一般的な用途の目盛が揃っている。

しかし、何故か、端が揃っているべき D 尺と DF 尺とが、互いに少しずれている。実は、この P141 には、この D 尺のある面へのカーソルが、通常ある上から下までの赤いもののほかに、短い緑のがあと 2 本あって、それぞれ D 尺、DF 尺のあたりに乗っている。その上、そのふたつの間隔がちょうどずれの間隔と同じであった。
このことには以前から気付いていて、ひょっとするとこれは裏の特殊尺との兼ね合いでずれていて、その補正に用いるのかも知れない、と思っていたのだ。ところが、先程、検索していて、鮮明な画像のあるページを見つけ、そして大いに落胆した。
画像では、D と DF とはちゃんと揃っていたのである。

なら、つまり、手許のこれは欠陥品ということか。あまりにもはっきりズレて目盛の刻まれたものが市場に出たというのだろうか。当時は高校生で、もう電卓は数百円でも買えたし、計算尺なんて「○○○」で見聞きして知ったきりだったんだから、欠陥なんて分かりようがないよ、あんまりだよ、と、怒りともつかない、かなしみともつかない思いがぐるぐると頭の中を巡る。

暗澹たる気分で尺を眺める。と、DF だけでなく、その上の LL/n 尺もやはり D に対し DF と同じだけずれているのに気付く。もしやと思って裏返してみる。DF と同じ外尺のちょうど裏にあたる A 尺と L 尺とが、やはり D の裏の T 尺、S 尺に対し同様にずれている。
DF の載った外尺の端部に目をやる。心なしか飛び出しているように見える。滑尺を収めたときに、端が揃わないような気がする。
滑尺を引き抜いて、DF の尺の、ビス留めのあたりをゆすってみる。
ぐらぐらと動いた。
なんのことはない。ビスが緩んで、外尺がずれていただけであったのだ。
滑尺を差し込み、精密マイナスドライバでいちど両端のビスを外し、カーソルと滑尺とを頼りに目盛の端を合わせる。ほんとうのところ、しろうとが分解して壊してしまわないものかと懼れていたのだが、あっさりと位置ぎめ、ビス留めは決まった。

折角直したことだし、鞄にいくつかあるペン入れポケットの、電卓の隣にでも差しておこうか。
さてしかし、これが「おまもり」以外の用途に供せられる日が来るのだろうか?

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
typodupeerror

目玉の数さえ十分あれば、どんなバグも深刻ではない -- Eric Raymond

読み込み中...