live-gonの日記: 僕らは時代の共犯者だとか好きだとか - IT観察
小堀明日香がぼそりと、「あたしケータイ嫌いなんだよねー」と言ったとき七沢蛍の背筋を電流が走った。挙動不審気味に彼女のことを見て、「俺も」と言った。
「あ、七沢くんもー? あれ嫌いだよねー」
「人と話しててもメールが来ると返事を書く奴とか全然好きになれない」
「あたしもあたしも」
一緒にいた中林はちょっと反論する。「けど、なかなか会えない人ともつながれるのは便利だよ」
七沢は得意気に反論する。「もともとなかったものに振り回されるなってんだよ。大体、メールじゃなくて電話でやれ。できれば会って話せ」
「そうそう」小堀も同意する。「なんか失礼だよ。目の前にいないと思って言いたい放題の部分もあるしさ」
それは五月の放課後のワンシーン。男同士で話していたのだが小堀だけは七沢のグループに気さくに混じっていた。新機種の話とか面白いページの話とかしていたときに小堀が打ち切ったのだ。
「そもそもケータイ持ってる奴って何人いるの?」七沢が質問した。五人――小堀、七沢、中林のほか、平生と清松――のうち、持っていたのは三人だった。ようするに小堀と七沢以外は持っていたということだ。
小堀はなんだか詰問調だ。「みんなちゃんと目的があって持ってるの? 防犯とか言わないでよ」
やや間があった。
中林が口を開く。三人の代表でしょうがなくといった様子で。「小堀さんも持ってみれば分かるよ」
「なにその言い方」口をとがらせる。「持つ前に分からないのにみんなが持っているから持ったってこと?」
「コミュニケーションの基本は対面だろ」七沢も擁護する。
「そうだそうだ」小堀も賛成する。
何を言っても反論されるという雰囲気が伝わったのだろう。中林もほかの二人も口をつぐんだ。
二対三の雰囲気になったが、七沢にとっては彼女の側に立てたことが嬉しかった。それに、ケータイの胡散臭さを共有できる人間は今までいなかったので、かわいい女の子であることを抜きにしても嬉しかった。
そろそろ帰ろうか。ケータイの話は置いておいて。
そうだな。
そうやって五人は荷物を持って動き出した。住んでいる場所は門を出て百メートル以内で全員がバラバラになるくらい方向が違った。一緒に喋るためには教室を出るところから次の話題を出すべきだったのだが、いい話題が見つからず、結局その話を続けることになった。
小堀は親が買ってあげようかと聞かれたんだけど要らないと答えたという話をした。彼女はケータイがなんか好きになれないという話を熱っぽく語った。ケータイ所持組の三人も話題に居心地の悪さを感じているわけではなさそうだった。誰が親から買ってもらったかというのは小さい頃から繰り返しているので大体慣れているのだ。持つ前はケータイ否定派、持つようになると肯定派になる。大抵の場合はそうだ。
七沢もケータイ否定派だ。テクノロジーアレルギーと簡単にレッテルを貼りたければ貼ればいいが、それでもあの安易なコミュニケーションに違和感を覚える。人が約束を守らなくなり、平気で陰口を言い、言葉だけの謝罪を繰り返すように感じられてならない。
「俺もケータイは要らないなー」
「あたしもー」
息が合った。
学校の門を出ると、じゃーねと声をかけ合って別れた。
七沢が一週間後に彼女に話しかけると、「あ、ごめん」と言ってケータイを取り出した。そして嬉しそうに、「うん、うん、分かった」などと話していた。
「ケータイ買ったんだね」
「うん。その、家庭教師の先生が……」と言ってはにかむ。
畜生。かわいいな。
「福田首相「あなたとは違うんです」がネットで流行中」ってことである。
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