live-gonの日記: ガンネイル - IT観察
丸い窓から見える空は快晴。隙間から入ってくる風はやや冷たいが不快というほどではない。機械のにおいはするがいつものことだ。娯楽が少ない環境では、天気がいいというのはそれだけで気分がマシになる。
滝井はすこし首を動かす。地上200メートルを飛行中に見る景色は悪いものではない。地面が後方へと流れていく様子は旅客機では見れない光景だ。隙間風も容認できる。
地上は郊外の森。点々と集落のような家の集まりがあり、その間を木が覆っている。木々の隙間からたまに道が見える。道にも集落の広場にも戦車やトラックが見える。兵士たちはまだ隊列を作っていないが、あわただしく戦闘準備をしていることは見てとれた。あるいは、滝井が自分達の任務を知っているから、地上も同じ任務であると解釈して、緊張しているように見えているだけなのかもしれない。
対空砲が並んでいる。トラックでそこに物資を運んでいるところだった。間違いはないだろう。
迎撃準備だ。
あと五分も進めば戦闘空域に出る。敵との遭遇位置の予想にはほとんど誤差がないということだから、滝井はもうすぐ自分の電磁砲の引き金を引くことになるだろう。
手を広げ、また握る。汗をかいている。滝井の位置は機首の右側面、この機に二つだけある、照準に弾が飛ばない砲の一つだった。逃げ道をふさぐことで他の砲台のサポートをする。理屈は分かるが照準に弾が飛ばない砲台というのは全体にとって本当に必要なのか、いまいち確信が持てなかった。それでもスコープを覗いて引き金を引くだけだ。彼は意味もなくレンズ越しに空を見た。弾が飛んでいく方向もよく分かっている。左右に二発ずつ計四発の弾が一回で打ち出される。間隔を把握しているから狙おうと思えば照準から目標をずらして当てることもできる。
滝井の乗っている戦闘機には手動の砲は少なくほとんどが自律砲だった。彼が数少ない手動砲台に乗っているのは、計算を上回ることをやる能力を認められてのことである。その実力で、これまでに何度か敵機撃墜をサポートしてきた。自分の砲が照準から外れる砲だとしても功績は認められるのだ。
彼は唾を飲み込んだ。
近くには滝井が乗っているのと同じ大型戦闘機が四機飛んでいる。編隊を組むというには大きすぎる飛行機なので単に合計五機の空中要塞が並んでいるという状態だ。実際、連携どころか、互いの撃った弾が機体に当たるなんてことは日常茶飯事である。
飛行機の音は彼の耳に響き、それが戦闘状態であることを強く意識させた。普段はこんなに密集したり低空を飛んだりはしない。
サイレンの音はなく、放送は音声だけで告げた。「遭遇まで一分」
遠くの地面から煙が昇っていた。
機体のどこかがわずかに唸った。聴覚検査のような小さくて可聴域ぎりぎりの耳障りな音だ。滝井はなんとなく音のする方に目をやる。どこが鳴っているのか分からない。遠くの戦闘機の音に共鳴しているのだろう。ペタペタ機材を触ってみるがやまないのですぐに諦めた。
戦闘域の景色。音もなく、遠くの煙の柱が増える。地上の爆発は光だけが確認できる。空中にも対空砲火の煙が見える。音は聞こえなくても、滝井の耳には発射音や爆発音が聞こえるようだった。敵機は見えないが、その空中に確実に存在していて、地上部隊を殲滅している。地上では爆発が連続して発生し、煙が次から次へと上がっている。
左側面にいる同僚大野木が無線で話し掛けてきた。「いいようにやられてるな」
緊張から感情のない平坦とした声が滝井の口から出る。「そうだな」
スコープにはレーダーによる機影。ここから撃っても当たりっこないので発射はしない。弾がほぼ無制限とはいえ、砲身が加熱しすぎるともっと大きなチャンスのときに撃てなくなってしまう。敵は冗談のような回避能力を備えているということだった。噂だが有人だとか。有人戦闘機で砲火の雨につっこんでくるなど、可能性があっても決行した奴はキチガイだ。
小さかった音速の音はいつのまにか空中に轟いていた。滝井たちはヘッドホンのような通信機をしているので平気だが、陸上の兵士はまともにこの音を聞いているのだろう。
味方の無人戦闘機が三十機、すれちがって後方へと飛んでいった。五機の編隊が六つ。電磁砲の火が見える。そして肉眼で敵機を確認する。連続爆発。味方の戦闘機があとかたもなく消し飛ぶ。敵はワイドショット装備。遠く小さくて飛行機であるという以外に一般人には判別不可能だ。滝井でもその型を判別できない。
必要最低限の声量で報告する。「新型だ。見たことない」
砲を向けて引き金を絞った。毎秒二十発というデタラメな量の粒子がレーザーのような光跡を残して発射される。この戦闘機の二十六の砲門。そして残り四機のそれぞれ二十六の砲門が一斉に火を吹いた。音はごく小さく、空気との摩擦によるものだ。それよりも明瞭に聞こえるのは発射に付随して加えられる人工的なピピピという電子音である。
滝井は回避コースを予想して辺りの空中に手当たり次第に弾を五秒間バラまいた。モニターに命中のシグナルはない。
敵の攻撃による爆発は間断ない。戦車と対空砲が十や二十まとめてなぎはらわれる。爆発音が大きく響く。森の木は無傷なので、その電磁砲の粒子はピンポイントで味方を倒しているのだ。たまに、視認できる細い線が空中に現れる。敵の弾跡だ。編隊を組んでいた味方機の砲台が次々と爆発した。まるでチョークで引いたように着弾して、その線上にあった砲台と装甲板がひしゃげ飛ぶ。頑丈なのでそれで墜落というわけではないが、火力は著しく損なわれてしまった。
無線が状況を伝える。「交差終了。回頭する」
アナウンスとほとんど同時に左旋回。前後の機もそれにならう。滝井の席からだと地平線が一気に下がって視界から消え、景色が空だけになる。
「大野木。地上はどうだ?」
「ほとんどやられてる。敵は一機か?」
「たぶんな」
「おっそろしくうまいやつだ。かすりもしねえ」
計算に意味はないが、五秒で百発。全機全砲門と全地上部隊で合計十万発近い弾幕を張ったのだが、それを突破されてしまった。滝井たちは追跡して、今度は撃墜するまで後ろに貼り付く。
モニターには味方の損害も出ている。滝井たちの機に損害はない。一番近くで交差した左端の機が、すれ違いざまにすべての砲台を破壊されていた。定石からいって、これから順に撃墜するつもりだろう。そうは問屋がおろさないといきたいところだ。
旋回が終わり、機体が水平に戻る。交差での破壊の爪痕は遥か後方。前方には新しい煙の柱。迎撃用の無人戦闘機がビッシリと見えた。まるで蚊柱だ。編隊は次々に爆発している。どこにいるのか一目瞭然だ。
「次は当てる」滝井は言った。
「ばーか。俺だよ」大野木が応えた。
2009年4月10日の記事「任天堂は輝きを失っているのか」は敵が通ったあとのように跡形もない。
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