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margaletの日記: DNA鑑定に新手法を導入

日記 by margalet
新聞報道によれば、震災による身元の特定が困難な遺体の判定に、おじ・おば、おい・めいなど離れた親族からのDNA情報も活用することで身元特定につなげたいとして、新たなDNA鑑定法の利用を検討し始めたとのこと。

現在の法医学分野では単純な塩基配列の繰り返し回数の違いを検出するSTR(もしくはSSR法)がすでに日常的に利用されている(詳しくは法医学講義 DNA鑑定や、DNA鑑定の方法あたりを参照のこと)。

足利事件であまり良いイメージは持たれていないかもしれないが、往事のものから分析性能と信頼性は格段に向上しており、正しくサンプルが採取されている限り、同一人物であるか否かの識別や、親子関係の識別にも確実な結果を示すことが出来る。

一方で、今回のように特定の地域、家族が丸ごと流されてしまったような場合には手掛かりとなる親子のDNAサンプルを得ることができず、また歯科治療歴を手掛かりにしようにも歯科医院自体も消失してしまっていたりで手掛かりとなる情報がほとんど得られないことが最大の問題となっている。

今回検討されているものはSTRとは異なり、一塩基の多型を検出するSNPと呼ばれる方法であり、STRが20前後のゲノム上の多型を一度に評価するのに較べて、SNPでは一度に数万点のDNAの多型を評価する。
STR法で遠縁の親族を対象として身元の確認を行おうとすると、検証する多型数が少ないために遠縁になるほど偶然一致する確率を無視出来なくなってくるが、SNPであれば数万の多型について一致する確率をスーパーコンピュータで検証することで、遠縁の親族のDNA情報からでも身元を推定することが出来ると期待されている。
SNP分野ではイルミナのGoldengate assayシステムが世界的には主流となっているが、今回は理研が開発したシステムを利用する予定とのことで、恐らくは理研ジェネシスが開発したインベーダーアッセイを基本とする独自のものを使用すると言うことらしい(国産の技術の有効性を正しく評価して利用するという点でも好ましい)。

問題は、STR法に較べて多額の経費(一点数万円程度)がかかることで、すべての遺体についてではなく、どうしても判別困難なものを中心に利用を考えているらしい。

やや蛇足だが、2004年のスマトラ島沖地震の際には20万人を越える死者が出たが、その際には当時主流だったSTR分析関係のメーカーがいち早く現地に入り、身元不明者の確認に無償で協力したと聞く。ヒトのDNA分析については厳しい倫理規定があるために通常は精度の検証などもままならないことが多いが、彼らはその際にほぼ無制限で大量のDNA情報にアクセスすることができて、それはその後の分析技術の改良にも貢献したと言う。

今回どのような取り組みがなされるのかは今後の検討を待ちたいが、倫理と技術の進展は時に相反する場合もあり、もし実施するのであれば多くの犠牲者を元にして得られる貴重なデータを少しでも有効に活用してもらいたいと切に願う。
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