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書籍

mujiの日記: 最早原作とは呼べないのでは

日記 by muji

今借りている黙阿弥全集第18巻、収録作品は4作と全集の中では少ない方だがそれは即ちいずれもそれなりに長い話だからであって。何しろ

  • 水天宮利生深川
  • 女化稲荷月朧夜
  • 極附幡随長兵衛
  • 四千両小判梅葉

ってこれ今でも上演される作品ばっかじゃん! 全集中でもこれだけ揃ってる巻はなかなかない。

で、まずは幡随長兵衛から目を通してみた、ん、だ、が……

……何か話が全然違うんですがー。
大筋としての白柄組 vs 町奴てえのには変わりはない。仕返しの場は元々付いてない(水道橋仕返しの場を十七世勘三郎が出したときは黙阿弥作とはしていなかったようだし)。
でも原作は大半がむしろ双蝶々(の角力場)に近い世界じゃないかー、てな感じ。相撲取の贔屓同士の争いとして描かれてるんだもん。その結果、白柄組が贔屓していた関取も町奴が贔屓していた関取も、いきさつはさておきどちらも死んでしまうことに。この辺の話が結構長い、というか全体の2/3を占めている。残り1/3が現行上演される長兵衛内と水野屋敷。おっと、黙阿弥は水尾十郎左衛門としているんだった。近藤登之助が進藤野守之助だったりするんだった。初演は明治14年4月だから憚らなくてもよさそうなもんだけどいろいろあったんだろうね。
そこで全集編者による解説を一部引用してみる。漢字は原則新字体、仮名遣いは原文ママ。

「極附幡随長兵衛」(湯殿の長兵衛)は、明治十四年四月、作者六十六歳の時、春木座に書卸された。「一番目の長兵衛は在来のものとは全然異り、事実談に拠り黒鷲と櫻川が角力の遺恨に原由し白柄組の領袖水野十郎左衛門の屋敷へ招かれ、浴室に於て殺害さるゝといふ筋、花やかに而も締りのある團洲世話物中では圧巻と称すべき傑作なり」と年代記に述べられてゐる芝居の遺恨を相撲の遺恨としたのは作者の創案であらう。後に三世河竹新七が芝居の金平法問を書添へて発端としたが、その後は相撲の件の代りにその発端と共に上演されるやうになった。(後略

この、「後に三世河竹新七が芝居の金平法問を書添へて発端とした」っての、今年5月の團菊祭筋書には解説部分に書かれているが、それによって話の流れが大幅に変わってきているというところまでは言及してない。まあ、する必要もなかろうし、とはいえこれで黙阿弥作てえのが薄くなったのも否めないとは思う。いくら弟子が書き加えたとはいえ黙阿弥本人じゃないんだし。

それより何より、一体誰がどこから持ってきたんだ、ってのが例の名台詞。
原作では黙阿弥はそんなこた長兵衛に一言もいわせてない。今では上演されなくなった相撲絡みの場面でもいってない。
うむ、考えてみると、ちょっと破調だもんね「人は一代、名は末代の幡随長兵衛」。これも三世新七が付け加えたのかな。

あと、現行上演で唐犬権兵衛や出尻清兵衛がやたらクローズアップされていて、唐犬はともかく出尻が何でと不思議な気もするが、これも相撲絡みの場面を読むと納得がいく。何かにつけてこの二人が活躍してるんだよね。出尻はいわば鬼平におけるうさ忠的存在。頼りないが重要な場面には大体顔を出している。唐犬は黒鷲殺しの濡れ衣を着せられて一度は牢に入れられていたりもする。長兵衛内では無事放免された唐犬が水野(いや水尾だけどw)とのいきさつを聞いて血相変えて駆け込んできたりもする。しかも長兵衛から事情を聞いて縁切りまで申し出る。それをまた長兵衛が、そんなこといって無関係の身になって水尾屋敷に殴り込もうって魂胆だろうがそんなことはしてくれるな、と見抜いたりもする。つまり現行上演以上にむちゃくちゃかっこよく描かれてるんである唐犬が。
これねー、他の作品もそうだけど、一度原作通り出してみても面白いんじゃないかなあ。冗長になりそうな場面は適宜カットして。まあ、そうなると長兵衛が際立たない可能性大なんだけどね。その点は現行上演の構成は上手く出来てるんだろうなあ…

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犯人はmoriwaka -- Anonymous Coward

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