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日記

numaの日記: Hacker's Dictionary

日記 by numa

前回の記事では『ハッカーズ大辞典 改定新版』(および原本『The New Hacker's Dictionary, 3rd Ed.』)を引用したが、実は「ハッカー辞典」に類する本は手元にたくさんありまして……。いい機会なので、ここでまとめておこう。

  • Guy L. Steele Jr.ほか共著『The Hacker's Dictionary, 1st Ed.』Harper & Row, Publishers (1983)
  • ガイ・L・スティール・ジュニアほか共著、犬伏茂之訳『ハッカー英語辞典』発行・自然社、発売元・産学社 (1989)
  • Eric Raymond編『The New Hacker's Dictionary, 1st Ed.』The MIT Press (1991)
  • Eric S. Raymond編、Guy L. Steele Jr.絵、福崎俊博訳『ハッカーズ大辞典 改定新版』アスキー (2002)
  • 増淵文人監修『ハッカー用語辞典』秀和システムトレーディング (1986)

『The Hacker's Dictionary, 1st Ed.』はHacker's Dictionaryシリーズの最初の版で、当時のJargon Fileからの抜粋。MIT、Stanford、CMUなどのAI研究者コミュニティでの用語が大半で、出てくるマシンやOSも馴染みのないものばかり。パソコンについてはTrash-80しか項目がなく、UNIXに至ってはdeserve to loseの用例に“Boy, anyone who tries to use UNIX deserves to lose!”(翻訳では「へえ、だけどUNIXなんかを使って、うまくいかなくても知らないよ。」)とあるだけ(New Hacker's DictionaryではUNIXmess-dosに置き換えられている。翻訳では「おい、メスドスなんか使うとバカになるぞ」)。

そういう、わかりにくい部分はともかく、全体としては読んで面白いし、実際に英文を読むときに参考にもなる本でした。当時はわからなかったことでも、今となればわかることもあるし。El Camino Bignumの地理とか(それは単に行ったことがあるだけ)。

なお、この本は、おそらく1985年前後に、神田の三省堂か書泉グランデ、あるいは日本橋の紀伊国屋で買ったと思う(たぶんイエナじゃないし、絶対に西山洋書ではない)。値段は、原著に$5.95と表記され、日本の書店で付けた1,900円の値札(というか鉛筆での書き込み)がある。$1 = ¥319である。洋書の値段は為替レートの倍くらい普通だったから……まあ、そういう時代だったのである。

『ハッカー英語辞典』はThe Hacker's Dictionaryの邦訳。内容はまったく同じだが、やはり日本語で読めるのはありがたい。他人に見せるときも、英語版よりは受け入れられやすいし。英語で出てくる中華料理名(たくさんある)が漢字で表記されているのも嬉しかった。

余談だが、原文では製版段階で修正されてしまったthe phase-of-the-moon-bug bug(『ハッカーズ大辞典』のphase of the moonの項(p.446)を参照)が、バグを修正して、正しくバグとして再現されている(p.107)のもポイントが高い。

この本は1989年発行の初版第1刷。定価が税込み1400円で、消費税率3%なのが懐かしい。

『The New Hacker's Dictionary, 1st Ed.』は、Jargon Fileの編集にEric Raymondが参加してC/Unix、Usenet、Internet、PC等の用語を大量に追加したもの。旧版が139ページなのに対して、433ページに増量している。また、当然ながら1983年から1991年までの変化にも対応している。

この辺からは、技術的にはお馴染みの用語が増えたのだが、用語の扱う範囲もさらに広くなったので、結局よくわからない用語が多いという事情は変わらない。

まあ、Jargon Fileはネット上に公開されているので、用語を調べるだけならそれで用は足りる。手元の本は1991年初版の1992年第3刷で、当時はWWWも発達してなかったから使いではあったと思う。どこで買ったのか忘れたが、$13.14の値札が貼ってある。

『ハッカーズ大辞典 改定新版』は、The New Hacker's Dictionaryの第3版の翻訳。原著は1996年、翻訳が2002年だから、もう10年以上前である。訳者あとがきによると、第2版の翻訳が1995年に出たらしく、その改訂版ということになる。

第3版では、語源・歴史的経緯についての言及が大幅に充実しており、また、クラッカー関連の用語が多数追加されている(第1版の英語版と見比べたので、改訂箇所がよくわかる)。まあ、Jargon Fileの内容が日本語で読めるというのは、日本人にとってはとても便利なことで、この本が現在絶版らしい(amazon.co.jpのレビューによれば)のは残念である。

翻訳については、よくもまあ、これだけ膨大な内容を一人で訳したものだと思う。それだけで尊敬してしまう。まあ、いろいろ細かい間違いは見つけたが、この本の内容を全部完全に理解して翻訳できる人などたぶんいないだろうし、そんなものは些細なことである。 『ハッカー英語辞典』と比べてみると、翻訳者によって同じ原文がこんなに変わるのかということがわかり、非常に興味深い(新訳にあたって、旧訳は参照してないようだ)。 ちなみに、laser chickenの項(p.354)に出てくる中華料理Kung Pao Chickenは、旧訳によれば「公保鶏丁」と書くらしい。

以上を述べた上で多少文句を言わせてもらえば:

  • ASCIIの項に各記号の読み方がある(pp.75-77)が、これが翻訳されてしまっているのは、英語として使うときにはつらい。
  • 書名に言及する場合に、翻訳が出ているものについても原題しか書いてないのは、読者に対して不親切である(まあ、SFについて全く知識がないのは訳文を見ればわかるけれど(せっかく山形浩生に帯書いてもらったのに)。というか、訳者が何に“詳しくないか”がわかってしまう)。
  • 文章の引用は原文に当たったほうがいいと思う。たとえば、oggの項に孫子からの引用として「戦いにおいて最高に重要なのは、敵の戦略を攻撃することである」とあるが、これは明らかに謀攻篇の「上兵は謀を伐つ」である。『無門関』は読んでも『孫子』は読まないのね。

余談だが、Yellow Bookの項に「今あなたが手に持っているもの。」とある。原著は黄色い本だったのだ。ちなみに、この翻訳本は白い。まったくの偶然だと思うが、旧版の翻訳である『ハッカー英語辞典』の表紙カバーは黄色かった。さらに言えば、旧版の原著の表紙は赤かった。

『ハッカー用語辞典』は、1986年当時の日本のハッカーについて述べたもの。ここでのハッカーは、海外のように計算機センター入り浸りの人のことではなく、おもにパソコンをいじる人のことである。

この時代のパソコンといえば、国内ではNECのPC-8800/9800シリーズ、富士通のFM-8/7/11シリーズ、シャープのMZ/X1シリーズがあった。ディスクといえばフロッピーのことで、OSはMS-DOS、CP/M、OS-9などでROM Basicも現役、IBM PC互換機はまだ国内市場に存在感がない時代である。 当時は、日本でIBM互換機(初期の呼び名ではPC/AT互換機またはDOS/Vマシン。いまでは単に「パソコン」)が主流になるとか、将来マイクロプロセッサがメインフレームを駆逐するとか、まるで思いもしなかった。

なお、この頃からアニメマニア(当時はオタクという用語は一般化しておらず、ネクラ(「根が暗い」の略)と呼ばれていた)が多く、「二次元コンプレックス」「ロリコン」の項目がある。ちなみに二次コンの対象として例に挙がっているのは、「響子さん、ラムさん、しのぶさん、みなみ、みゆき、ミンキーモモ、クリーミィマミ」(原文表記のまま)である。時代がわかる。

さらに余談だが、「ロリコン」の項目には挿絵(女の子の絵)がついており、 そこにはナボコフの小説およびクーブリックの映画についての言及があり、 さらに「あたしにはもう名前がないのよ」という台詞まで書いてあった。 全部わかったらビョーキである。

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Stableって古いって意味だっけ? -- Debian初級

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