パスワードを忘れた? アカウント作成
217590 journal

phasonの日記: 強磁性ナノワイヤへの超伝導のしみだし

日記 by phason

"Interplay between superconductivity and ferromagnetism in crystalline nanowires"
J. Wang et al., Nature Phys., 6, 389-394 (2010)

薄い常伝導体が超伝導体で挟まれたような構造を作ると,左右の超伝導体から超伝導状態(の波動関数)が常伝導体側に染みだし,常伝導体内を超伝導電流(クーパー対を作った電子対)が流れる(あたかも常伝導体が超伝導を示しているかのように見える)という現象がある.この染みだしの長さは意外に大きく,欠陥の少ないかなりきれいな系である場合などでは1μmにも達することがあるほどである.
さて,この時中央の常伝導体が強磁性金属であったらどうなるであろうか?通常の超伝導体,というか(最近発見されている数個の例外を除く)ほぼすべての超伝導体内では電子は互いに逆向きのスピンを持ったもの同士,つまりupスピンの電子とdownスピンの電子との間でクーパー対を作ることが知られている(一重項超伝導).ここに磁場がかかると,スピンは一方が安定に,もう一方が不安定になり両者の間の対称性が崩れ,クーパー対は崩れやすくなる.このため本質的に超伝導は磁場や強磁性と相性が悪く,高磁場下では超伝導はサプレスされるし,強磁性超伝導体というものもごく少数の系でしか存在しない.このため,強磁性体内への超伝導相の染みだしは通常1nm程度と非常に小さい.

今回の実験で作成されたのは,平行に4本,棒状に蒸着したタングステンを超伝導材兼4端子法測定端子に,これに直交し4本をまたぐ方向に蒸着した強磁性常伝導体のCoやNiの電気伝導の測定となる.端子間隔を変えたサンプルをいくつか作り測定したところ,なんと超伝導のタングステン間の距離が600nmであっても,その間に挟まれたCoの抵抗がゼロになっていることが判明した.これはつまり,強磁性金属であるCoの中に,超伝導状態が数百nmにも渡ってしみだしていることを意味している.
前述の通り,強磁性体内では通常の一重項超伝導状態は急速に減衰することから,これほど長距離でしみだしていると言うことはCo(やNi)内に染みだした超伝導状態が,一重項ではない,つまり三重項超伝導となっていることを強く示唆する.つまり,例えばupスピンの電子とupスピンの電子がペアを作って超伝導となっているような系ということである.一方,タングステンの超伝導は当然ながら一重項状態であるため,超伝導が強磁性常伝導体内に染みこむ過程で,一重項から三重項への転換が起こっていると考えられる.こういったモデルは,強磁性体内に複数の磁性ドメインがある場合にはそのドメイン境界で起こり得ると過去に提案されており,著者らはサンプル作成の蒸着段階で,Co-Wの接合部で構造の崩れが生じ,そこがそういったドメイン境界となっているのではないか,と述べている.

また,タングステンの超伝導転移の直前=常伝導体部分(Co,Ni)も引きずられて超伝導になる直前に,強磁性ナノワイヤの抵抗が非常に大きく増大するという現象も発見された.これは現在のところ解釈が難しく起源は謎のままだが,超伝導と常伝導との界面における面白い物理が現れている可能性もある.

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
typodupeerror

ナニゲにアレゲなのは、ナニゲなアレゲ -- アレゲ研究家

読み込み中...