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221505 journal

phasonの日記: 放射性物質でリソグラフィー 11

日記 by phason

"Vacuum-Free Self-Powered Parallel Electron Lithography with Sub-35-nm Resolution"
Y. Lu and A. Lal, Nano Lett., in press

半導体回路の微細化はかなり限界近くまで来ており,現在は波長193 nmのArFエキシマに液浸と多重露光を適用することで32 nmなどのプロセスに使っている状況であり,波長的に見てかなり無理矢理な技術となっている(実際,このレベルをArFでやるのはかつては不可能と言われており,もっと以前に次世代光源に移行しているはずであった).
次世代光源としては波長13 nm程度の極端紫外(EUV)を用いたものや電子線リソグラフィを用いたものが昔から提案されているが,課題が多く実用化はずるずると延期されている.例えばEUVでは光学系の問題(この波長域では事実上すべての物質が不透明となるため透過の光学系が組めず,すべて反射光学系で作り直す必要がある)や露光部分を真空にする必要(空気ですら不透明),寿命の長い高出力光源などに問題を抱えているし,電子線露光では回路を電子線ビームをスキャンしながら書いていくため同じく真空が必要であるしスループットが低く量産性に劣る.
#また,両者とも,レジストの開発など光源以外での問題も山積している.

そんな中,今回の著者らが2009年に提案したのがSelf-Powered Parallel Electron Lithographyである.

Y.R. Lu, N. Yoshimizu and A. Lal, J. Vac. Sci. Technol. B, 27, 2537 (2009)

(ある意味)発想は単純である.電子線露光のスループットが低いのは,光学露光が広い面積を同時に露光できるのに対し電子線が細いせいである.従って,電子線が面として出てくれば,通常のマスクと同様の手法/スループットで生産できる事となる(ただし,絞った電子線露光ではマスク無しで非常に細かいパターンがかけるのに対し,この場合は単に波長の短い光で普通に露光するのと同じになる).無論,こういった手法はすでに研究例があるわけであるが,安価で簡便かつ十分な強度の大面積電子線を出す線源というものが無かった点が問題である.

そんなわけでこの著者たちのかなり独創的な手法となる.
原理は単純.線源となる基盤の上に,β崩壊を起こす放射性物質を塗りたくるだけである.後は勝手に崩壊していき,β線 = 電子線がどんどん大面積線源として出てくる.発想の転換というか,馬鹿アイディアというか,何ともコメントのしづらい点もあるアイディアである.
さて,著者らは実際に線源として63Ni(半減期100年)を用いてこのアイディアを実証している.線源の上にはSi3N4が乗せられ,適度に減速させる.その後タングステンのマスクを通り,そのパターンがレジストに転写される事となる.実際のウェハーに適用したところ,35 nm弱の直径を持つドットパターンを作成することに成功した.露光時間はおよそ2分.またRIEプロセス(イオンエッチング)により50 nm径・2 μm長のナノワイヤが400 nmピッチで並んだ可視全域で反射率の低い高吸収構造なども実演している.

***訂正***
露光時間2分というのは,もっと最適な物質/組成にすればそこまで減らせるよ,ということであって,実際の露光時間は1hレベルでした(著者自身,このセッティングだとまだ時間がかかりすぎるけど,○○という感じにすれば2分はいける,という風に書いている).訂正させていただきます.
*********

本手法の大きな利点は大発光面積による高スループットであるが,もう一つ,真空が不要である点も挙げられる.電子線源が放射性物質と言うこともありその部分での真空もいらないし,線源を基板にかなり密着させられるため,大気があろうが無かろうが十分な強度の電子線がレジストに届く.これはコスト面ではかなり有利となる.
……とは言え,この手法が実用化されるかどうかは微妙だけど.
#放射性物質の利用自体は,産業的にいろいろ使われているのでそれほど無理はない.

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • EBの問題は、時間がかかることと、もうひとつは、信頼性。何億回も照射すると時には失敗する。
    で、この面光源方式だと、その心配もあまりないわけですが、ビームのエネルギーは、均一にできるんでしょうか。
    もちろん、線源の物質が均一になるように、バインダーを攪拌して、そのあと均一に塗りつければいいわけなんですが。

    後は、ビームが面に垂直な方向だけにでるかどうか。「でる」じゃなくて「絞る」のかもしれませんが。
    • by TarZ (28055) on 2010年05月20日 11時31分 (#1766704) 日記

      ビームが面に垂直な方向だけにでるかどうか

      Full Text読めないので想像で書くと、たぶんマスクをレジストに密着させているのでは。

      # ということは、マスクは転写させたいパターンと1:1のサイズでデザインしておかないといけないのか…。

      親コメント
      • by phason (22006) <mail@molecularscience.jp> on 2010年05月20日 11時43分 (#1766711) 日記

        はい,別コメントとしてぶら下げさせていただきましたが,その通りでございます.
        そういったセットアップ部分をしっかり書かなかったのは失敗でした.
        #実は面倒くさいのであまりまじめにexperimentalの部分を読んでいなかった.
        #そのせいで露光時間とか平気で間違えた値書いちゃったし……(修正しました)

        >マスクは転写させたいパターンと1:1のサイズでデザインしておかないといけないのか…。

        そのようです.
        まあマスクに関しては一度作ればしばらくは使えるのでよいのですが,やはりマスクとレジストを密着させないといけないのは面倒ですよね.そのあたりが「微妙なアイディア」と称さなければならない一因でもありますが.
        また,マスクとレジストをゼロ距離で密着できたとしても,現状のセッティング(膜厚,線源の種類等)からのモンテカルロでの予測ではレゾリューションは15 nmぐらいまでしか良くならないという.
        ……微妙.

        親コメント
        • 1:1 はいいような悪いような。
          悪い理由は、簡単。タングステンのステンシルかマスクだかは、いったいどうやって作るのか という問題。そいつもEBというわけにはいかない。
          もし一度だけ時間をかけてステンシルを作ればいいだけで、ステンシルを部分的に作り直すことができるなら、EBでもいいかも。

          いい理由は今のステンシルだって1:1だと思うから。

          密着すると、というより距離が極端に短いと、ステンシルのエッジの部分で散乱しそう。せっかくビームの直進性をあげても、エッジで散乱するのは悲しいかも。

          それよりも1時間はちょっと長いかも。たしかに今のEBよりはずっといい。時間がかかるなら、逆に光源と対象物を回転させることで、均一化は図れそう。

          AC の人の「押印」は日常的な感覚では似ているけど、ナノプリントみたいなものと比べると決定的に違うと思います。
          ナノプリントみたいなものだと、物理的な接触が必須で、磨耗は大きな問題。このステンシルはほぼ接触かもしれないけど、接触する必要はない。

          #つい昨日http://www.ebeam.org/をみていたのは偶然にすぎない.. かな。
          親コメント
          • by TarZ (28055) on 2010年05月20日 16時58分 (#1766951) 日記

            # phasonさん、追加情報ありがとうございます。

            いい理由は今のステンシルだって1:1だと思うから。

             私は半導体の露光装置に詳しいわけではありませんが、軽く検索をかけてみた限りでは、数倍サイズにパターンを刻んだマスクが使われているようですよ。

             それよりも、(おそらくこの技術が産業的に実用化される線は薄そうではありますが、仮に実用化するとしたら)個人的に壁が高そうな印象を受けるのは、マスクの再利用性です。
             光学的な露光装置ではガラスのようななんらかの基盤のうえにマスクを作りこむのでしょうけど、β線を通過させるならごく薄いものでないと難しそうです。この実験の条件なら、β線の減速に使う窒化ケイ素でマスク基盤を兼ねさせるにしても数μm厚ということで、これって使いまわせるのかしらん、という感じ。

             もちろん使い捨てにしてしまっては意味がないですし。(マスクでなく直接、シリコンのレジストのほうにパターンを焼き付けろって話になってしまう)

            AC の人の「押印」は日常的な感覚では似ているけど、ナノプリントみたいなものと比べると決定的に違うと思います。

             押印というか、日光写真っぽいですね。焼き付けるのは日光ではなく電子線ですが。

             光で密着系だと、近接場光リソグラフィなんてのは研究されているようですね。

            親コメント
            • タングステンの板だけ。 というアイデアは?

              板を複数枚使うならなんとかいけそう。口型のパターンが欲しいときは、コと|を使う。
              分解するのが面倒なら、横だけ、縦だけに分割すればいいような。

              あの、減速材ってなんでいるんですか?レジストと充分に反応させるためですか。
              親コメント
              • >あの、減速材ってなんでいるんですか?レジストと充分に反応させるためですか。

                あまり詳しくは書いてありませんが,余計な部分のレジストやその下のSi層まで破壊しないためじゃないかと.
                電子線も重粒子線とある程度同じように,エネルギーをある程度失うまでは散乱されながら内部に浸透していきます.
                このため,あまりエネルギーの高い電子線をレジストに入射すると内部で散乱されながら広がってしまい,輪郭がぼけることとなります.このため,ある程度減速しておいて,マスク直下の部分のみのレジストだけを削るようにしているのだろうと.
                #癌の粒子線治療で適度に減速させてから打ち込むのと似たような感じです.多分.

                親コメント
            • >マスクの再利用性です。

              まあ再利用はいけるんじゃないでしょうか.数μmの膜って結構丈夫ですし.
              実際,この実験でも線源(Ni基板に放射性Niをメッキ)とマスクの薄膜は別々に作って,実際に露光するときに重ねて使ってるみたいですので,同じような感じで行けるとは思います.実際の照射部が数μmとは言っても,その周囲には取り回しが楽なように厚い枠(エッチングで掘らずに残しておく)とかついてますしね.

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    • Re:均一性は? (スコア:2, 参考になる)

      by phason (22006) <mail@molecularscience.jp> on 2010年05月20日 11時35分 (#1766706) 日記

      >ビームのエネルギーは、均一にできるんでしょうか。

      放射性元素を練り込んだ部分の膜厚が結構厚い(10 μm,そのうち放射性物質部分は確か数パーセント程度)こと,基本的に各原子の確率過程のみに依存するためバルクなサイズの物体では十分な統計平均がとれることを考えると,フラックスとしてはまあ均一になりそうな気はします.
      #が,特に均一性のデータがあるわけではありませんが.

      >ビームが面に垂直な方向だけにでるかどうか。「でる」じゃなくて「絞る」のかもしれませんが。

      絞ってるのと,マスクをレジストに密着させているのの二つですね.
      線源から数μmぐらい?離れたところにタングステンマスクがあって,この部分の厚みが150 nm前後.これでフラックスをある程度直線成分だけに絞っています.さらにマスクとレジストの間の距離をサブミクロンまで近づけてようやく分解能が出ます.著者もモンテカルロシミュレーションでの解析に基づき,"45 nmの分解能を得ようと思うとマスクとレジスト間の距離を400 nm以下にしないといけない.これはチャレンジングではあるが技術的に解決できない問題というわけではない" と,ここが面倒であることを認めています.
      #もっと高い分解能を得るには,もっと近づけないといけない.

      親コメント
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