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261835 journal

phasonの日記: DNA折り紙を使ったメビウスの輪

日記 by phason

"Folding and cutting DNA into reconfigurable topological nanostructures"
D. Han, S. Pal, Y. Liu and H. Yan, Nature Nanotech., 5, 712-717 (2010)
(各種の図を含むSupplementary informationは未購読者でも読めるかと思います)

「DNA折り紙(DNA origami)」という最近流行の手法がある.原理は単純で,例えばある長い1本鎖塩基配列
…AAAAAAAAAAAABBBBAAAAAAAAAAAAAAAAAAAACCCCAAAAAAAA……
があったとしよう.ここでAAAA,BBBB,CCCCなどは実際にはもっと長い何らかの特定の配列を持った塩基配列で,これと対になる(結合する塩基配列)をaaaa,bbbb,ccccであるとしておこう.
この長い塩基配列を溶かした溶液に,bbbbAAAAccccという短い塩基配列を混ぜる.そうすると何が起きるか?これはもう単純に,BBBBの部分にbbbbがくっつき,CCCCの部分にccccがくっつく.AAAA同士は特にくっつかないから,この部分は互いにフリーだ.そのため,最終的に出来上がるのは

…AAAAAAAAAAAABBBBAAAAAAAAAA
              bbbbAA       A
                   |       |
              ccccAA       A
    …AAAAAAAACCCCAAAAAAAAAA

という,長い塩基鎖が途中で1箇所ピン留めされた構造となる.ここがピン留めされるため,長い方の塩基鎖は中間部分がループを描いて飛び出したような,Ω型の構造となる.これは元の長い塩基鎖を紙テープ,短いピン留め用塩基鎖をホチキスの針と考えるとイメージしやすいだろうか.紙テープを曲げていって,好きな場所をホチキスで留めて形を作る,というわけだ.
元々の長い塩基鎖には様々な配列が含まれるから,その中の特定箇所だけにくっつく短い塩基差というものを作ることが出来る.という事は,長い塩基鎖の任意の2点を結ぶ短い塩基鎖,というものがいろいろ作れるわけである.
これを使って,非常に長い塩基鎖のあちこちの決まった2点を結ぶことで,平面やら立体やらのいろいろな構造を作るのがDNA折り紙の手法で(でも折り紙ではないよなあ……),ナノやらミクロンスケールの地図だとかスマイルマークを作るなどやりたい放題である.

今回の研究はまあそういうものの一種で,ある意味それほど大した新発見はない.まず,DNA折り紙でメビウスの輪を作る.輪の径は100nm弱程度,リボンの幅は30nm弱程度である.続いて,この輪を切る.どうやって切るかと言えば,これまた以前に報告されている手法であり,上で述べた「ホチキスの針」であるところの一部の短塩基鎖を引っこ抜くことにより実現する.
どういう事かと言えば,上に述べた塩基鎖に少し手を加え,

…AAAAAAAAAAAABBBBAAAAAAAAAA
              bbbbAA       A
                   |       |
          xxxxccccAA       A
    …AAAAAAAACCCCAAAAAAAAAA

としておくのである.ここでxxxxはまた新たな配列で,XXXXとペアを組む.さて,こうして新たに作られた構造は,BBBB-bbbb,CCCC-ccccの2点では結合しているが,端のxxxxの部分はぶらぶらとぶら下がっているだけである.ここに,新たな短塩基鎖XXXXCCCCaaaaBBBBを投入する.これは上図の短塩基鎖と完全にフィットする塩基差であり,かつ上図のxxxxがフリーでふらふらしていることから

…AAAAAAAAAAAA-BBBBAAAAAAAAAA
               bbbbAA       A
                    |       |
          xxxx-ccccAA       A
          XXXX CCCCAAAAAAAAAA
             | |
  BBBBaaaaCCCC AAAAAAAA…

(構造がわかりやすくなるよう"-"などで明示的に構造を区切っている)

となって,さらに

…AAAAAAAAAAAABBBBAAAAAAAAAAAAAAAAAAAACCCCAAAAAAAA……
 
    bbbbAAAAccccxxxx
    BBBBaaaaCCCCXXXX

という形である特定の「ホチキスの針」を外せるようになるわけである.去年の論文でこれを使い,ある特定の「鍵となるDNA」を作用させると「ロックが外れて蓋が開く」という数十nmの中空の箱を作った,なんてものも( Nature, 394, 73-76 (2009)).

さて,今回の論文の話に戻る.まずメビウスの帯を作るが,その特定箇所の結合にこういった「後から取り外し可能なホチキスの針」を使っておく.これにより,(最初に設計したおいた)任意の部分で構造を切断することが出来るわけである.
というわけでメビウスの帯を切る.リボンの中心で一周ぐるっと切ったら?当然大きなメビウスの帯1つが出来上がる.では同様に,2箇所で切り進めたら?当然大きなメビウスの輪1つと,小さなメビウスの輪がインターロックした構造となる.まあ,普通の紙と同じようなものですわな.著者らはこの手法に関して,DNA origamiを捻ってDNA kirigamiと名付けている.

んー,まあ,手法的に新しいのかというと微妙ではあるが,Nature系列はこの手の見て面白い論文は比較的通りやすいので載っているのでしょう.見た目はなかなかわかりやすく面白いですし.

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