phasonの日記: 不完全でも十分な擬態
"A comparative analysis of the evolution of imperfect mimicry"
H.D. Penney et al., Nature, 483, 461-464 (2012).
昆虫の中には,自らの姿を他の危険な昆虫に擬態することで生存性を上げている(と思われる)種が多数存在する.それらの中には驚嘆するほど姿(そして時として行動まで)がそっくりなものがおり,自然の妙を感じさせる.
しかしその一方で,「お前らまじめに擬態する気あるの?」と突っ込みたくなるような杜撰な擬態を行うものも存在する.中途半端な擬態では天敵を避ける効果は低いと考えられることから,こいつらがなぜこんな中途半端な擬態を行っているのか?というのは昔から議論の的であり,様々な仮説が提唱されてきた.代表的な仮説としては,
・実は人間の目には似ていないように見えるが,鳥などの天敵の感覚器官(および判断基準)に基づくとよく似ている,という説.
・実はいくつかのモデル種の特徴のハイブリッドであり,個々の要素は個別の種によく似ている.複数の種の特徴を集めたために人間には似ていないように見える,という説.
・何らかの要因で,淘汰圧が弱まりそれ以上の自然選択が進まなくなっている,という説.例えば擬態が必要十分なレベルに達しており,それ以上似せても効果がさほど伸びない場合など.
などがある.
今回の研究は多数の種の特徴の分類や先行研究のメタアナリシスを用いて,この最後の説がもっともらしい,と主張している.
論文で用いられているのは45種のハナアブと,それらの擬態のモデルと考えられる10種の蜂である.これらの体の各部のパーツを数値化(例えば羽や足の大きさの比率とか,縞模様とか)し,多数の評価軸を持つ空間内にそれぞれの種を配置する.そしてその中でどの程度近い位置にいるか,という事で擬態の度合いを判定している.
その結果であるが,まずモデルとなっている蜂類は主に二つの似た位置を占める集団となっていた.これは,本評価手法が(人間がぱっと見た目で判断する似ている・似ていないとは関係無く)蜂を蜂としてきちんと分類出来ていることを示す.その一方で,ハナアブ類に関しては,似ているものも似ていないものもいろいろで,非常にばらけて存在している.そしてその分布は,モデルである蜂の位置(主に2箇所)とは特に関係がなさそうである.つまり,一つの仮説として言われていた「複数の蜂の要素を持ち合わせているから,一見似ていない」というのは間違いであることがわかる(正しければ,「蜂」の二つの位置の中間に分布するはず).また,「蜂」はこの評価法では位置がまとまっていて,一方のハナアブはそれと関係無く分布していると言うことは,「鳥から見たら蜂に似てる」という仮説もほぼ否定される.
その一方で明確に現れてきた相関関係は,「体格が大きなハナアブの種ほど,蜂に似ている」という関係である.特に,蜂の行動までまねるような擬態が進んでいる種は,体格が大きく見た目も蜂によく似ている.このことは,体格の大きなハナアブほど擬態に関し大きな選択圧がかかっていると示唆している.
著者らの解釈はこうである.体格の大きなハナアブほど,天敵にとっては良い餌である.一方,小さなハナアブは,天敵にとっても無理して捜して食べるほどのメリットは少ない.この結果,体格の大きな種ほど鳥などから積極的に襲われることとなり,より正確に擬態していないと逃げられない.小さなハナアブなら,ちょっと蜂に似ているだけで鳥などが「食ってもあまり腹がふくれなそうだし,蜂っぽいからまあいいか」と見逃してくれる,というわけだ.この結果,小さなハナアブの種では擬態に関する選択圧が小さくなり,いい加減な擬態で進化があまり進まなくなり,逆に大きなハナアブの種では必死に擬態を進化させて逃げないと捕食されてしまう,という事になる.
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