phasonの日記: 光学顕微鏡で超解像 4
"A super-oscillatory lens optical microscope for subwavelength imaging"
E.T.F. Rogers et al., Nature Mater., in press (2012).
光学顕微鏡の分解能の限界は,光の波動的な性質によりほぼ波長の半分程度に制限される,と広く信じられている.ところが最近,この限界を打ち破る手法がいくつか開発され,超高解像度の光学顕微鏡が実現出来るようになりつつある.
多くの場合では最近のナノ技術の進歩によって作成出来るようになってきたメタマテリアル,つまり負の屈折率を持つ物質をレンズに用いている.通常,物体から反射される光は,遠方まで到達する普通の光と,物体表面に張り付いていて表面から指数関数的に減衰する表面波(エバネッセント波,)に分けられるのだが,メタマテリアルを使うことでこのエバネッセント波を遠方で再集光してやって元の物体像を復元する,というようなものになる.
ところが数年前(確か2006年頃),ある研究グループが「そんなの使わなくても,普通の光学系だけで超解像行けるから」と言い出した.いくつかの高調波を重ね合わせると,その要素となっているどの波よりも格段にシャープなスポットが得られるという現象(Super Oscillation)に気づいたためだ.例えば,Cos(nx)という波を5つ重ね合わせる.aCos(x)+bCos(2x)+cCos(3x)+dCos(4x)+eCos(5x)だ.うまいことaからeの係数を選ぶと,中心のスポットの鋭さ(半値幅)はCos(45x)波に匹敵するような鋭い形状となる.つまり,Cos(5x)で表される波数(以下)の波を使いながら,9倍の波数(=1/9の波長)の波を使ったかのようなシャープなスポットが実現出来るわけで,解像度が格段に上がる,というわけだ.
そこでこれを利用したSuper Oscillation Lensというものがこれまでにいくつか試作されている.基本的な構造としては,平板に小さな穴を周期的に開けた構造をレンズとする.ここに単色光が入射すると,小さな穴を抜けた光が各方向に散らばり,異なる穴から出た光同士が干渉を起こす.単結晶X線回折における回折スポットと同じである.その結果,1次,2次…n次の回折光が重なり合って,中心に非常にシャープなスポットを作る,というものである
しかしこうしたSuper Oscillation Lens系は,光が通り抜ける部分が全面積中の非常に狭い穴の部分だけであることから,輝度が非常に低くなる,といった問題を抱えている.今回この論文で報告されているのは,もっと透過率が高いSuper Oscillation Lensを開発して,実際にイメージングでナノ構造をみれましたよ,というものだ.
実際に作成したレンズは,同心円状に数十本の輪(光を通す輪と通さない輪が並んでいる)が重なって直径40 μmのリングになったものと思ってもらいたい.中心まで詰まった土星の輪のようなものだ(フレネルレンズ,回折レンズとも似たようなものである).このレンズの光を通す輪の部分のみ光が透過し,多数の輪を抜けてきた光が裏側で複雑に干渉を起こす.その結果,中心部付近で非常に局在性の強いピークが生じるわけである(中心部に良い感じに細い干渉が生じるよう,逆算した多重リング構造をレンズにしているわけだ).
実験ではこのレンズを装着したニコンの光学顕微鏡を用い,640nmの波長の光を使って観察を行っている.
その結果,幅112nmの棒状構造を観察すると121nm程度に見え,この棒状構造を137nmの間隔をあけて2本配置したものは,間に120nm程度の間隔を持つ2本の棒としてきちんと識別出来ている.これはつまり,640nmの光を使いながらも分解能として100nm程度が実現出来ていることを示す.比較として通常の光学顕微鏡でそのまま観測した像も示されているが,こちらは2本の棒が一体化した太い一本の塊としてしか認識出来ない.
続いて基板に直径210nm程度の穴をいくつも開けたものを観察しているが,こちらも100nm程度の間隔までなら2つの並んだ穴をきちんと分解出来ている.通常の顕微鏡では当然これらの穴は一体化したものとしてしか観測出来ていない.
古典的な光学の範囲でここまで高分解に出来るというのは凄いことだ.光学顕微鏡のような手軽に利用出来る装置でこれだけの分解能が得られるというのは素晴らしい.
フレネルレンズは違わないか (スコア:0)
違わないか
Re:フレネルレンズは違わないか (スコア:2)
まあ形状の説明なんで,同心円状にリングが集まってる,という形が似てる例と言うことで書いてます.
もちろん原理は違いますし,回折レンズや今回の例では光を通さないリングもある(当然フレネルレンズにはそんなものはない)のはそうなんですが.
素晴らしいですね (スコア:0)
> aCos(x)+bCos(2x)+cCos(3x)+dCos(4x)+eCos(5x)だ.うまいことaからeの係数を選ぶと,中心のスポットの鋭さ(半値幅)はCos(45x)波に匹敵するような鋭い形状となる.
二項だと普通の干渉ですよね
Mathematicaで遊んでいる時に発見したのでしょうか
Re: (スコア:0)
ステッパ装置に応用できないかなあ。紫外線とかより安価になりそうな気がする。