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日記

phasonの日記: ランダムレーザー光源:光学顕微鏡に最適? 2

日記 by phason

"Speckle-free laser imaging using random laser illumination"
B. Redding, M.A. Choma and H. Cao, Nature Photon., in press (2012).

レーザーというのは優れた光源である.励起エネルギーのかなりの割合を特定波長に落とし込んで発振するため(その波長に限ると)非常に輝度が高い,発振波長を非常に狭くできるため周波数領域での測定精度が高い,空間的・時間的なコヒーレンスが高い(干渉性が高い)ことから干渉を利用した超精密測定に使える,空間的に非常に狭い領域に集光できる,など多くの特徴を持っており,様々な分野で活用されている.
さて,「輝度が高い光」と考えると光学顕微鏡の照明としても有用だと考えられる.倍率の高い光学顕微鏡は,非常に狭い領域からの反射光を拡大するため視野が暗くなることから,明るい照明が必要となるためだ.なお,ここで言う顕微鏡というのはレーザー顕微鏡(1点にレーザーを集光しながら反射や透過をモニタし,集光位置をスキャンする事で全体像を得る)ではなく,通常の顕微鏡である.
しかし光学顕微鏡の照明としてレーザーを使う際には,非常に大きな問題が存在する.それがスペックルと呼ばれる散乱波の干渉による効果である.

表面が荒い観察対象に,照明としてレーザーを照射することを考えよう.表面に当たったレーザーはでこぼこの表面の各所で散乱されるが,いくつかの点から反射された光は限られた方向で強め合うような干渉を起こす.このため光学顕微鏡の光源としてレーザーを使ってしまうと,たまたま観察者の方向に強めあう干渉が起こる部分だけが点状に明るくなり,表面の凹凸などによる対象物の明暗とは別にスペックルによる輝点が強いノイズとしてのってきてしまうのだ.このためレーザー光源はそのままでは光学顕微鏡の照明には向かず(*),どうしても明るいレーザーを照明として使いたい場合にはスペックルを抑制する特別なフィルターを間に入れるなどの工夫が必要となる.このフィルターはフィルター内部の各所で入射光の位相をバラバラにずらし,干渉性を落とすというものなのだが,やはり余計なものが入るため輝度等が犠牲になってしまう.

*ただし,スペックルパターンはいわば表面からの回折像なので,ここから逆算して表面構造を観測する手段に利用しよう,という測定法も存在する.

今回の論文は,こういった光学顕微鏡の照明として使う際のレーザーの欠点を,ランダムレーザーと呼ばれるものを用いることで回避し,明るいまま照明として使えることを実証する論文となる.
ランダムレーザーとは何かを簡単に説明しよう.通常のレーザーは,共振器(例えば両端に鏡を蒸着したルビーロッド)を用い,発振波長の定在波を発生させ誘導放出を起こさせる.これは強い発振が得られるのだが,共振器全体がひとつのモードで発振するため,非常に高い干渉性を持つ光が発生する(多くの用途で有用だが,スペックルが出る).ランダムレーザーは,例えば特定波長を発する色素の溶液中に,透明なビーズなどを多数混ぜ込んだランダム構造が発振する.この内部で発生した光は,ビーズなどにより乱反射されながら媒質中を進んで誘導放出を引き起こしていく.通常のレーザーと異なり,レーザーが強まっていく経路は雑多に多数存在し,ぐねぐねと複雑かつ多数の経路を通って増幅された光は端面から多数の光線として放出される.辿る経路により経路長が違うために,端面から出るときの位相はバラバラな様々な光の足しあわせとなり,空間的な干渉性は低い.言ってしまえば,ものすごく多数のレーザーがバラバラに配置されていて,全部がてんでバラバラに光を出しているようなものだ.こういった特徴のため,ランダムレーザーは電球のように広い方向に光を出し,しかも干渉性が低いためスペックルがでない.

ではこれを光学顕微鏡の照明に使ったらどうだったのか?と言うと,現在の著者らのセッティングでもすでにLED光源に匹敵するような輝度が実現しつつ,さらにレーザーに特有なスペックルは生じていなかった.著者らの主張によれば,この実験で使ったランダムレーザーより単位時間あたりの発振回数が何桁か高いランダムレーザーも以前に報告しているらしく,それを使えばLEDなどの現状の光源よりもかなり優れたものが出来る,とのことである.
ランダムレーザーといえどレーザーではあるので,波長の安定性や,発振波長の幅の狭さ(特定波長のみが非常に強く出る)はレーザーとしての特徴を残している.これを照明に使えば,蛍光分子を利用した高感度な観察などでかなり有効であるとも思える.
ただ,レーザーって意外にメンテナンスが面倒(&金がかかる)ので,光学顕微鏡の照明として使うにしてもやや手間はかかりそうだ.

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  • by Anonymous Coward on 2012年05月06日 0時29分 (#2147485)

    高周波(数GHz)でOn/Offするとマルチモード化して、コヒーレンスを落とすことができますけどね。
    位相をバラバラにして干渉性をなくしたとしても、ほぼ単色で色収差無く一点に集中するので眼で見るタイプの顕微鏡には向かない(鏡面反射する部分に当たって反射してきたら危ない)ですけど、20mW〜30mW級だと放熱面積をちゃんと取れば自然空冷でよかったのでメンテナンスが面倒ってことはないと思います。サージ電圧や静電気に弱いし、高周波が外に漏れないようにEMC対策や、漏れ光を防止して安全基準に合致させるようにする装置設計のほうが困難かと。

    • 確かに半導体レーザーは結構丈夫ですね.というか固体やガス系レーザーでも高出力を狙わなければ良いのか.
      周囲のレーザー使ってる人々が結構な輝度を必要とする人たちばかりだったのでそういう感覚(高出力,低寿命)になってました.

      今回の実験で使ってるのは液体系の色素レーザーなんで,結構面倒臭そうです.波長変えようと思うと溶液捨てて良く洗わないといけないんで大変なんですよね,あれ.

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私は悩みをリストアップし始めたが、そのあまりの長さにいやけがさし、何も考えないことにした。-- Robert C. Pike

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